第101話 パランクスの城塞
オレたちが出てきたのは、崖に沿って築かれた一番外側の城壁の上にある歩廊の部分だった。
振り返ると胸壁の一部がぼんやりと歪んでおり、ここが崖の下に続く階段の入り口になっているらしい。
山の上の狭い空間であるにも関わらず、城壁はあと二つあり、城壁の間は狭い通路で結ばれていた。通路自体はいざというとき切り落とすことができる造りになっているようだ。
城壁と城壁の間を覗き込むとかなり深さがあることが分かった。ここにはまり込んでしまうと通常命を落とすか、少なくとも助けなしに這い上がってくることは無理そうだ。
三重の城壁に囲まれた中心部には塔と建物があったが、それ以外にも城壁の各所に櫓が置かれている。
「そこを動くな!」
突然大きな声が鳴り響いた。オレとゲネオスは咄嗟に盾を構えた。
周囲を見渡すと、既にありとあらゆる櫓から、オレたちに向かって弓が引き絞られている。
この場所に来た直後は人の気配を感じなかったが、初めからオレたちの侵入は察知されていたようだ。
オレたちは何もできず、ただその場にとどまった。
やがて三名の戦士たちが現れ、歩廊を歩いてオレたちの方に近付いてきた。
エルフの戦士だった。いや、オレはエルフは見たことはなかったが、まず間違いなくそうだろうと思った。
エルフはオレたち人間と見かけ上それほど違いはない。背丈はほとんど同じ。全体的に人間よりも痩せているように見えるが、人間の中にはもっと細い奴はいくらでもいる。
顔の輪郭や耳の形は少し人間と異なるように感じたが、そうと言われなければ気付かなかったかもしれないほどの差だ。
彼らがもっと近付いてくると、眼が違うなと感じた。瞳の部分が人間よりも大きく、オレたちの感覚では少し異様に思える。
(誰かに似ているような気がする)
とオレは思った。少し記憶を辿って、そう言えばゲネオスと似ているような気がするなと感じた。
彼らは剣の間合いから少し外れたところに立った。
「お前たちは何者だ? どこを登ってここまで来た?」
最初にオレたちに静止を求めた男が言った。彼は三人の戦士の中でリーダー格と思われる。
「ボクたちはただの冒険者だ。ノトスとクレーネを経て、エルフの城を訪ねてここまで来た」
とゲネオスが説明した。
「どうしてあの階段を見つけたんだ。人間やモンスターには分からぬはず」
別のエルフの戦士が口を開いた。
「見つけるもなにも、そこにあったから登ってきたんだ」
ゲネオスは、パマーダが最初階段が見えなかったことを無視してそう答えた。
エルフの戦士たちは互いに顔を見合わせた。
不意にマスキロが口を開いた。
「エレミアに会いに来たのだ。案内してくれ」




