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今後のために


 ――両国の和解を終えて二〇日後。


 女王となったアドリエンヌに、ゆっくり宴を楽しむ時間などはない。宴の終わりを待たずして、すぐさまフィアーバへ帰国。そのアドリエンヌと同じく帰国したのは、フィアーバ王国の”全員”と言いたいところだが……


 ……ヘルトの現在地は、再びガーゼルである。

 ヘルトは冒険者だ。結局のところ、ここガーゼルを拠点として仕事(クエスト)の日々が性に合っているのだろう。


 アストラータ王都での一件の功績により女王アドリエンヌは、こうヘルトへ言った。


「ふんっ! 小虫……なんなら王国の騎士として使ってあげても良くってよ!」


 認められた――か、どうかは別としてヘルトは騎士の称号を得ることも可能であり、好条件。


 それでもフィアーバへ行かなかったのは、冒険者として誇りを持っているからだ。以前のような消極的な様子では無かった。

 そんなヘルトの答えは……


「アドリエンヌさ――、今は女王様か。オレは冒険者が好きなんです……だからこのままでいい。けど、またオレを傭兵で雇ってくれるようなことがあれば、いつでも呼んでください」


 自分に何ができるのかなど分かりはしない。

 そんなことはどうでも良かった。自分を必要としてくれるひとがいる……只それだけで身体を動かす(かて)となりうる、と。


 一旦フィアーバの人々へ別れを告げた。

 アストラータ及び、フィアーバでは一躍有名人となった無能者ヘルトではあるが、あと数ヶ月と経たないうちに人々の記憶から遠い存在となろう。世の中が平和となれば、これが普通だ。


 かく言うヘルトは冒険者への道を選んだのだが、今までとは少し違う。

 

 それは……


「ヘルト。アナタ、もう少し役に立つ仕事ができないのかしら? これでは冒険者としての存亡も危ういと思うのだけれど」

「だから止めようって言ったのに……オレの弱さを侮るなよ?」

「……末怖ろしい弱さね。そのわりに疲労してるわけでもなく無傷なのも、イラ立ちを隠せないわ」

「あははっ! まあいいじゃねえか、スノウ。猛獣討伐を受けたのは俺だからよ」


 スノウとオレハが仲間に。

 従って、フィアーバへ帰国したのはこの二人以外となる。


 しかしながら、なぜスノウとオレハがヘルトと共にいるのだろうか……

 簡潔にいえば、スノウからヘルトとの同行を申し出たのが根源。スノウの意図は「ヘルトにフィアーバへ来い」と言っても来ないと思ったからだ。これは「一緒に居たい」との気持ちがあったかを知るのはスノウ本人のみだが、他に理由はある。


 スノウは一国の王女。『只一緒に居たい』との理由だけでは、ヘルトと同行する許可が下りないだろう。それを知ってアドリエンヌは、コリンヌの気持ちも考慮しつつ、ヘルトをフィアーバへ誘った。


 スノウはアドリエンヌへ。


「アドリエンヌお姉様。ワタシは、ヘルトと共にガーゼルへ行きます」


 たった、この一文を伝えただけ。


「そう……好きになさい。ですが、あなたはフィアーバ王国の王女であり、わたくしの妹なのです。そこを弁えて行動することね」

「ありがとうございます。アドリエンヌお姉様」


 心の読めるアドリエンヌに隠し事はできない。

 つまりはスノウの気持ちを知り、その”想い”とは別の意図があるからこそヘルトとの同行を許した。


 オレハはスノウの護衛として――とはいえオレハから強引に付いてきただけなのだが……これにより、ヘルトが『へぁれぃむ(ハーレム)』なるものに近しい気も。それはきっと勘違い。だが、周囲の視線は妬ましきかな少年H。


 現在は『猛獣討伐』なる仕事(クエスト)(いそ)しんでいる。

 このシンパティーアにはモンスターと呼ばれる生物は存在せず、人害生物は猛獣または野獣とされる。それは他の世界で言う『スライム』のような謎の生命体が存在しないからだ。亜人、つまり人外であっても生物としての概念を崩すことはない。


 これは『普通に心臓もある』ということ。当然ながら一つしかない。

 例えば、今は亡き黒の双頭エルザなら『死神』だが、転生後のシンパティーアでは人間。この世界に『魔族』という種族も存在しないことから、仮に転生前に魔王だったとしても、この世界では魔族ではなく最も近しい生物となろう。


 全ては一律を。それがこのシンパティーアにおける、神の拘りとも思える。

 

 五感に優れる獣人系は、知能が低い。

 知能と器用さに優れるエルフ系は、体力が乏しい。

 全般的に平均値を保つ人間(ヒューマン)は、特化したものがない。


 ……など、基本は等価交換である。

 どのようなものでも、必ず短所(リスク)があるということだ。

 その短所を如何(いか)に補うか。それがこの世界で最も重要視される。


 それゆえに、種族にによって上下差はないように創られてるのだが……

 人口の多さにより、人間(ヒューマン)はこうなってしまったとも。獣人の人口はそれほど多く無いのは、人間の手により虐げられ、住む場所を失ったから。


 エルフに関しては、もともと子孫を増やす行為が少ないのである。それは長命がゆえ子孫を残すという感情に欠けているからだといえよう。生命が子を産むとは、習性であり義務。その概念をエルフは持たない、ということ。


 勿論、他にも種族が複数存在する。

 しかし、それは不死の者ではなく等価交換を経た生命体。転生前に謎の生命体であっても、シンパティーアにおいて謎では無くなる。


 

 ここで、話を戻そう。

 オレハが戦闘を好むことにより、討伐仕事(クエスト)を始めたヘルト一行。ヘルトにその気が無くとも、これは仕方のないことだ。配達任務だけではヘルト含む五名の生活を賄うことなどできないのだから、金を稼がなければ貧困となり得る。


 スノウは王女様だから、と思う輩はいるだろう。働かざる者食うべからず。

 王女であっても甘やかす行いは人を育てない。そんなスノウ胸部には、既に育ちを放棄してしまった”至って控えめな何か”もあるようだが……


 ……残念ながら前後左右どこから見ても、それに気づける者は稀であり、敢えて名を上げるなら 捕獲(capture)のビフォアを全力で駆使したセイラのみ――

 今、どこかの片隅で涙が零れ落ちたようだ。

 いろいろな意味で、切ない。


 そんな悲しい美少女はさておき、自給自足は冒険者としての揺るぎない存在意義ということだ。スノウやオレハも、仕事クエストをこなす以上は冒険者なのである。


「オレハ! 任せた!」

「――しゃっ! うおらぁあああああっ!!」

「セイラさん! 矢で脚を頼む!」

「はい。お任せください――」

「スノウ! 奴の動きを止めてくれ!」

「ヘルト……アナタ、もう帰っていいわよ……」


 ヘルトは指示するのみ。スノウ、キレ気味。

 ――と、まあこんな会話を交わしながら、ここ数日は仕事(クエスト)の毎日を過ごす。攻撃を回避して急所を攻撃。これに関してはヘルトに敵う者がいないと称賛されて然るべきだが、腕力のせいなのか”猛獣を一撃で”とまではいかないようだ。ヘルトの命中率は高くとも、殺傷率はオレハに到底及ぶものではない。


 武器の扱いはオレハのお蔭で上達してきたようだが、まだまだと言った小並感は否めないだろう――



 ――なんとか、猛獣を討伐した帰り道。


「なあヘルト。なんでてめェは短剣(ナイフ)なんだ?」


 こうオレハが問う。


「オレは回避するのが基本だから、これ(ナイフ)が一番扱い易い。オレハみたいに武器で攻撃を受けることが、できないから……、ってことかな?」

「あ? そんなの避けるより簡単だろ? なに言ってんだてめェは?」


 ――この脳筋女に理解させようとした自分が間違っていた。

 と、思いながらも軽量な武器しか未だ扱えないのは重々承知。


 ヘルトが短剣を主とするのは、回避効率を下げないためである。

 対ラクタール戦で、両腕を交差したのは籠手で武器を受け止め、その直後に攻撃するためだ。ヘルトにとっては、これが基本の構え。


 一風変わった構えであっても、短剣のみで武器を受けきるのは至難であり、その行為事態が危険。振り下ろされた大剣などを、短剣で受け止めるなど不可能に近いだろう。これを逆手にとれば、短剣で大剣を受けきれるほどの腕力があるならば、短剣を使用する必要はない。


 人それぞれ向き合える武器を選ぶのは、生き永らえるコツとなろう。大剣を使いたいから大剣に拘る……悪いことではないが、向き不向きがあるということ。


 そんな武器と同様に、構えや戦い方も人それぞれ。

 ……とはいえ、ヘルトの構えは訓練時に無数の小石など回避していた際『顔面に石が(あた)ると痛いから』との理由から始まったもの。それが癖になってしまった、とも解釈できる。セイラの意図とは関係のない情景反射が功を産んだ。


 両掌を相手へ向けて手首を交差――交差位置は顔の前。更に少し上目遣いとなれば……まるで恋人同士が海で「アハハ、コイツやったな! そぉれっ!」と、水をかけあう()()だ。当然ながらヘルトの場合、一方的に水を受ける側である。

 ……ある意味虐め(ご褒美)

 あり得ないほど大量の海水を、浴びまくる様子が目に浮かぶようだ……だがしかし、御戯れ(ラブシーン)とも思えないほどに大量の水をぶっかける相手カノジョは、想像しないように。


 その発端はどうあれ結果は至って良好、だ。

 

 ここ数日間、討伐仕事(クエスト)へ時間を費やしているのには、多々”課題”がある。

 それは今後ヘルトたちが目的とする、とある場所へ旅立つための準備……

 

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