真相真意
「よしっ! みんな、ちょっと話があるんだけど聞いてくれないかな?」
これを聞き入れ、仲間たちはヘルトの元へ集まった。
皆は「どうしたの?」という表情だ。
「オレを信じて、ここの人たち全員に声をかけてくれないか?」
何か分からない、それでも何かある、そう思い全員一致で頷く。
その頷きを確認したヘルトは「この方法しか浮かばなかった」と言ってから説明を始めた。
まず、前方、後方、左右に手分けして移動。これは、漏れのないように声をかけたいだけであり、尚且つ急いでいるから。今集まった者たちのなかで、最も顔が広いのはハルバトーレ。それはアストラータ貴族でありながら、フィアーバでも有名人だからである。それゆえに両軍ともに言う事を迷わず聞いてもらえる人物といえよう。
従ってハルバトーレは、一番説明が困難とされる最前線を担当。
後の手分けは誰でも良いのだが……多少強引にでも言う事を聞かせるだろうオレハは右、見た目のインパクトを重視し、ケイツアが左へ。後方は”賭け”の件で人気を博したセイラが向かう。ヘルトと残りは軍勢の中心部に立つ。
「両軍ともに聞いてくれ。真横に並ぶんだ……そうだな」
――閃き。
勿の論で光る。
遠いにも拘わらず、オカッパ王子が「んん? なんだ今の光は?」とチラ見。
「前列は一五〇名ほどでいいだろう。各部隊長は急いでくれ!」
こういう時こそ閃きを使うべきだろう。時間の無駄なく、残りの兵士数から計算をわり出す。
前列が出来上がれば、あとは早い。
最前列の者たちは横同士で手を繋ぐだけ。その前列から後方へ向け、今度は縦列を作る。縦に並ぶ者たちは、前に立つ者の肩を掴んでそのままを維持。
そして最後に……
中心部にいるヘルトだが――右手が前の人の肩へ、左手は左の人の肩へ手を置く。これをヘルトから真横に並ぶ人たちが、全員やる。真ん中列に並ぶ者全員がやる、と言ったほうが良いだろうか。
結局は、これだけの大人数なのだから列を乱さぬよう、中心部で感覚を維持すると思ってもらえば良い。これで全ての者が他の者へ触っていれば完成である。
……この両軍が手と手を取り合った状態。
これこそが童話に記された『冊(柵)』の正体ではないかと。
単純だが『上空から眺めたら人文字で描かれた冊』という字に。
加え『木』へんの部分は『人間が立つ様』と予想。
動かず『棒(木)立ち』ということ。
――とはいえ、童話とはそういうものであり、子供たちの想像を豊かにするため作られた書物。その答えは想像により異なるが、想像させながらも単純でなくてはならない。
勿論、この人文字には意味はないだろう。どれほど強大な力を所持する者でも『手を取り合り』助け合わなければ何もできない、と伝えたいのだから……
童話では前半の文で『スーラは自分の身を護ることに長けている』
後半の文で『助け合うからこそ”希望”が生まれる』
童話であるがゆえに遠回しな文章ではあるが『己を護ることはできても、独りでは他の者(民)を守り続けることはできない』と。
かつてスーラが”勇者”ではなく英雄と呼ばれた所以は、勇ましい者が『勇者』であり、普通の者では出来ない事柄を成し遂げる者が『英雄』と呼ばれるからである。
このシンパティーアでは転生前に勇者だったものは複数人存在し、さほど珍しくもない。それゆえに、たとえ”しがない一般兵”であっても死を怖れず勇ましい者であれば、その者は勇者と称される。勇者と英雄の違いは、他人を救うか救わないかの微々たる差でしかないだろう。
今回の結果は全員無傷だった。それは――
ヘルトのもつビフォア 天啓には、触れ合った者への伝達効果があるからだ。
全員へ伝達し、天啓で無効化するのではなく神星魔法を吸収したから。これはヘルトから伝達を受けた全員が、吸収したからこその効果といえよう。因みにこの効果から考慮すると、ヘルト魔力が無いのではなく『自ら発動した魔法を、自ら吸収してしまうから使用できない』との考えに至る。
以前、ヘルトは天啓を用い大爆発魔法を防いだ。このとき身の周りだけ吸収しただけで、後は爆破。ヘルト一人では、身体は無傷でも吸収できる容量に制限がある。前回ではヘルト以外の命が果てたのも『吸収できる容量を超えた残りの魔力は爆破した』との認識が正しい。これで天啓の効果については、ある程度説明がつくだろう。
童話の言う『単独行動では自分しか護れない』とは、この効果を指す。
今回は数万人の兵士たちと一緒に吸収したため、魔力は”ほぼ”全て取り込んだ。光の輪が解き放たれたのは、ただの光だったからである。それは『爆発のエネルギーは吸収したが、発光は吸収しなかった』という状態だ。
神星魔法の根源は魔力であり、この光には魔力が宿っていなかったから、と考えられる。それゆえ、輪となった光のみ広がった。神星魔法一度消えたように見えたのも、魔力を失ったのが原因。
王都が無事だったのは『ただの光を浴びただけだから』と、なる。
ヘルトだけでは、無論王都も消滅しただろう。
……アストラータ王都は、ヘルト含む数万名の人々により救われたのである。
――――――
ハルバトーレが研究した天啓については、ほぼ予想通り。万年童貞貴族の鼻高々な表情はさておき、両軍は生き延びたことを分かち合い歓喜する。
その気持ちは神星魔法を放った魔術師たちも同様。人として誤った行為を無き物にしてくれたのだ。深く胸を撫で下ろす安堵感に満たされた。
それでもフィンネルだけは、止まらない。
「――お前らッ! もう一度だ、もう一度やれっ! 次は失敗するな!」
王族という以外、さしたる”才”も持たないフィンネルは神星魔法が失敗したとしか思えなかった。我が儘に育ってしまったのはアドリエンヌに近しいが、似て非なる存在。その判然たる違いは『努力量』である。
フィンネルは王族に甘んじて、好き放題遊んでばかり。
アドリエンヌは女王となるための、努力により手に入れた自信だ。他人より努力をしているから、負けるわけがない……いや、負けたくない、こう思う二人は我が儘をいう中身が違う。
そんな努力もせず育ってしまったフィンネルは『魔法とはどのようなものか』など学んですらいない。戦うのは兵士の仕事で、王族のために死ぬのは当たり前だ――、などと考えるフィンネルには『数さえ打てば中る』と、くらいしか思えなかった。
しかし、理不尽なフィンネルへ魔術師部隊の隊長が言う。
「お言葉ですがフィンネル王子殿下、何度やっても同じかと……私たちは失敗などしておりません」
「なんだ、とっ!? それは口答えかぁあ!」
神星魔法が何故、こうなったのかなど分かりはしない。
そんなことはどうでもいい、もう二度と仲間やフィアーバ軍への攻撃など、まっぴらだった。
「私の命など今すぐ奪えば良いでしょう! ですが、もう誰にもフィアーバ軍や仲間たちへむけ、攻撃はさせません! それに……誰一人として詠唱など行いません!」
「――お前は、もういらん! 魔術師ども、詠唱を始めろ!」
魔術師部隊はフィンネルから目を逸らさず、詠唱を始める者はいない。
先ほどの詠唱で、既に悔いているのだ。その悔いを払う機会が、今。
「ク、クズどもめ……お前らも全員死罪、だ」
フィンネルの怒りは激しい。
――その時だった。
フィンネルの良く知る声が聴覚を貫く。
「フィンネル! いい加減にしろっ!」
その声はヘルトたちにも聞こえるほど。
強く、勇ましい響き。
その主は、あの優しい心をもつ、アストラータ王国第一王子レオン。




