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計画

今回の話は、今後を分かり易くするため今までの経緯を簡潔にまとめ、さらに今後についての話です(説明しているのがアストラータ側なため、そちらの考えとなります)。


これで、ある程度の理解は得られるかと思ってはおりますが、ご都合なところはご勘弁を。



 ◆


 ――三日後。婚儀まであと九日。


 王都の北居住区に、とある貴族の別邸が建つ。

 アストラータの貴族は年に数回ほどだが王都へ赴く。そのたった年に数回のためにほとんどの貴族は王都へ別邸を所有する。贅沢極まりないとはいえ、とにかく金を欲するくせに金を無駄遣いするのが貴族。だがしかし、すぐ金が貯まる。


 ……貴族最ッ高ゥ。


 と、どこかしらの貴族が金貨風呂なるものに埋もれているだろう。

 呼吸困難、必死。

 そんな輩はどうでも良いが、王都の北居住区は貴族及び税を多く納めている者にしか住むことを許されていない土地だ。辺りは豪邸ばかりが、ずらりと建ち並ぶ。


 その連なる豪邸のなかにヴォルツ伯爵の別邸も。

 カーランドは『エルザに脅されて』という名目のもとで無罪。

 エルザは『処刑された』ということになっているが、現在はこのヴォルツの別邸で優雅に暮らしている。機を待ちひっそりと。


 今さらながら、エルザの年齢は二八歳で今は亡きバリュムは二五歳。

 二八歳をオバはんと言ったら『オバ……』の辺りで魂を狩られてしまうので、言葉は選ぼう。エルザは年齢に見合った容姿ではあるが、おっさんから見れば「色っぺぇぜ、たまんねェ」などと()まっているのに()らないと言われそうな女性――なにが溜まっているのかは想像にお任せするが、それなりの美人だということ。



 ――それゆえに始まる入浴。

 誰もオバはんの入浴など見たく無いかもしれないが、世の中はおっさんのほうが多い事を忘れないように。因みに無駄に揺れるほど巨乳。


 外から足音を立てずに浴室へ近づくのはヴォルツ。


「……クックックッ。これだから貴族はやめられんな」


 こう、浴室を覗くだけで貴族を名乗るのはどうかと思うが、気持ちの悪い笑いを押し殺すように歩み寄る。

 つまり、このおっさん貴族は毎度毎度エルザの入浴を覗くのが趣味。

 隠れてやるから興奮する、それが基本と思うムッツリさん。

 ……目指すは木材で作られた、たった一つの格子窓、だ。

 夜空に吸い込まれてゆく白い湯煙。

 ポタリ、パチャリ、と心地よい音が木霊するなか、やっとの思いで背伸びした格子窓からそろりと(うめ)くような声をあげながら。


「あと少しで……き、き――貴……」


 ヴォルツは両腕に渾身の込め、じりじりを重い身体を上昇。

 そして顔を覗かせ、浴室の者と声を揃える。

 

「「……貴族最ッ高ゥ」」 


 ――だが、そうでもなかった。

 浴室内でご満悦な顔の三七歳チョビ髭(カーランド)と同調した。

 ヴォルツ、残念。どこかの期待してたおっさんにも心を込めて謝罪すべき。

 

 おっさん二人はさておき、アストラータ王国とは全土から見れば水の豊富な領土ではない。それに比べフィアーバ王国は、領土は小さいが大変水の豊富な国だ。


 土地よりも、その水や豊かな農作物を欲するアストラータ貴族も数多く、一番の狙いはその辺りではないかと思われる。アストラータの貿易を一任されていた今は亡きヘルシンド伯爵は、主に農作物や酒類、または豊富な水源を使用して生産された物資の取り引きを行ってきた。


 アストラータは飲み水に困っているほどではないが、水源を使用した生産ができるほど豊かではないと言えばよいだろうか。だからこそ、国に捨てられた村が点々としている。


 そのアストラータ王国で唯一多くの水源を保てるのが、ここ王都。結局のところ貴族たちが水を独占したいがゆえに、この場へ王都が造られたともいえよう。


 

 ――――――



 何やら肩を落とし、しぶしぶとエルザのいる居間へ姿を見せたのはヴォルツ。


「あん? どうしたんだい? そんなシケた顔して……いい湯だったさあね。やっぱいいねえ風呂ってのは」


 既に入浴を終えたようだ。


「そ、そうか……それは良かったな。もう一度入っても良いのだぞ?」


 ヴォルツは力無く応えた。

 現時点でエルザが知りたいことは多々ある。死人扱いされてまでフィンネルを暗殺するのだから、そろそろ全てを聞かせろと。


「ヴォルツ伯爵様さあ、アタシの仕事は王子を()ることだけれど、そんな簡単なものじゃない。もちろん仕事はきっちりやるさあね。けれども……そろそろ全てを聞かせてくれてもいいんじゃないかい?」


 ヴォルツは暫く考える様子を見せたが。


「……まあいいだろう。今後の話もせねばならんからな」 


 そして、事の発端から現在、さらに今後の計画を語り始めた。



 ――まず、アドリエンヌがフィンネルを笑い者にしたことから、フィアーバ王国との同盟破棄計画を実行。標的は貿易商を統括するヘルシンド伯爵で、それは自ら手をかけたエルザも知るところ。


 それゆえに、ヘルシンド伯爵を暗殺した時点で計画は成功したといえよう。


 フィンネルは自国の貴族へ命令して実行させた。更にアストラータ貴族はフィアーバ貴族へ依頼し、そこから黒の双頭へと……これは自らの手を汚したくないとの思いで渡りに渡り歩いた結果である。


 その後、ハルバトーレにより囚われたエルザ。カーランドは無罪。

 しかし、なぜアストラータ側が計画した一件にも拘わらず、エルザが処刑されねばならなかったのだろう。エルザとしては、そこが気に入らないということ。 


 当然ながらヴォルツはその詳細も語った。

 簡潔にいえば『妙なことを言う前に殺せ』がフィンネルの指示。


 幾ら第二王子であれ、第一王子や王の指示には絶対の服従が待つ。

 アストラータ王や第一王子に関しては善人と断言できよう。他の貴族などに比べても欲はなく、至って誠実な王であるからこそ今回の発端がフィンネルと知れば、無論計画は無と化す。


 同盟破棄まで向かったのは、このアストラータ王国は多数派意見で決断を下すことにある。一見、民主主義とも思えるが貴族のみで決まるため民の票はは皆無であり、王も否定する証拠がない。


 ここまでは計画通りだった。

 しかし、なぜかフィンネルがスノウと婚約してしまった。スノウのビフォアにより魅了されてしまったフィンネルについては、ヴォルツの知るところではないが、フィンネルの真意はスノウを妻にすることが最終目的である。


 そう考えてみるとフィンネルの計画は成功し貴族たちの思惑は失敗した、となる。フィアーバ王国の領土や資源を手に入れるためと思い、さんざん振り回された挙句の果て何も変わらない。それに腹を立てたということだ。


 従って、アストラータ貴族はフィンネルとスノウを暗殺し戦乱を巻き起こそうとの考えに至る。その武力なら圧倒的にアストラータ王国が有利であり、負けるはずもないと。


 さすがに王子と王女の死を以てすれば、戦乱は免れないだろう。

 気づかれずに暗殺、それが必須条件。


「なるほどねえ。気づかれたくないから、アタシだってのかい?」

「そうなるな。きさまなら、声ひとつ上げさせないように暗殺できるだろう?」

「ふん! 愚問さあね。アタシは相手に悲鳴をあげる暇すら与えたことありゃしないんだからねえ」 


 エルザは『当たり前』という顔で言った。

 そして、今後の計画とは……

 

 時間差で、フィンネルとスノウを暗殺すること。

 しかし、二人が同行しているのではなく別行動をしているとき。

 フィンネルが先、次はスノウ。これはフィンネルがフィアーバの者に暗殺されたことにより、スノウを殺したとの経緯を創り上げるためである。


 それを実行する計画は既に練り終わっていると言いたげに笑みを漏らすヴォルツ。


「エルザ。決行は近いだろう……」

「アタシは今からでもいいんけどねえ。そんなことよりも、カーランドが、あの妙な術に勝てると思っているのかい?」


 エルザがいう妙な術とはスノウのこと。

 スノウのビフォアに対応できなければ、計画は又失敗に終わりかねない。

 そこに、呼んでもいないが入浴から戻ったカーランドは。


「……ふう。いい湯であった。……貴族最ッ高ゥ」


 どんだけ気に入ってるの、その台詞。

 そこは無視して会話は続く。


「カーランド。あんた、あの王女に勝てる自信があるのかい?」


 エルザに問われたカーランドは”珍しく”自信ありげに言う。


「当然であろう。あの術の弱点は研究済みなのだからね。馬鹿にしないでくれ給え!」


 カーランドが今何を考えているのかは謎だが、妙に自信を帯びた顔……胸糞悪い。

 なぜかチョビ髭をブチリと引き抜きたくなったのは、本人のみが知らないところである。


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