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スノウ、国境へ

次話の関係でタイトルを変更しました。


 ◆


 フィアーバ王国を西へ向かう馬車が一台。

 俗にいうオーディナリー型(前輪が大きく後輪が小さい)の馬車。外装を艶のある黒檀(こくたん)で彩られたところから、高貴な人物が所有する馬車だと容易に知れる。


 御者台で手綱を握る青年は、フィアーバの騎士。


 青年の名を『ケイツア』と言う。

 貴族階級以外は”姓”を持ってはならない。

 ――キケン、ダメ、ゼッタイ。

 それがシンパティーアにおいての決め事だ。


 ミドルネームについては持つ者も。それは一般的な血族の名を受け継ぐようなものでは無く、転生前後の名を付ける。簡潔に説明すると『転生前と現在の名前を比べ、どちらの名前を好むのか』などが理由で考案された法。


 そしてミドルネームとして区切る必要は無く、二つの名を繋げることもできる。

 つまり『ナカグロ(中点)』又は『イコール』などを使用し、名を選べるということ。

 記憶の残るこの世界では転生前の名を好む者も多いのだろう。

 そんな好みだけの問題から、身勝手にも定められた法である。


 ケイツアも、現在の名を嫌う者の一人で転生前のネームを名乗っている。

 転生前後、どちらをミドルネームにするのかは自由であり、ケイツアは転生前をファーストネームとしているようだ。


 ケイツアは騎士の将、オルマムの娘――失礼、息子だ。

 長身で長髪、身体の線は細め。顔の部分だけ妙に色白いのは何かを塗っているのだろうか。

 騎士とはいえ、この世界で多く見かける騎士のような重々しい鎧などではない。軽装備、その露出度は高め。


 ケイツアは刃物で振り分けたかのような、スッパリと割れた顎が特徴である。

 本人は、その割れすぎてしまった顎を気にしているようだが……


 少年(七歳)の頃、その顎で悩むケイツアへ父オルマムは――


 ――ケイツア、しかと聞くが良い。

 お前のその尻のよう……ではないな。

 女性の胸のような……お前にはまだ早いか。

 何かを取って付けたような……失敗。


 ……あ、あれだ。その分離した顎こそが、漢としての勲章っ()()やつ、だ!

 と、思う人もいるだろう。この世界の片隅でヒッソリと、な?

 何処かの国ならモテモテらしいぞ? 将来が楽しみだな、オイ!


 と、励ましたつもりが心の溝を深めてしまったようだ。

 ケイツアはこの時点からモテモテボーイなどには興味を示さなかった。

 

 ……そして二三歳となった現在、オルマムの言う通り「楽しみな将来」へ育った。同性愛者(オネエ)に。

 


 ――――――

 

 

 ケイツアはキャリッジのスノウへ、強引にも甲高くした口調で話す。

 

「スノウ様ン、そろそろ国境よン。ご準備をお願いねえン」

「……そう」


 スノウの返事には力がなく、声よりも息に近い。

 四名ほど乗車できるキャリッジへ乗っているのは、スノウを含め三名。

 その一人は、一六歳であるスノウよりひとつ年下の少女で、もう一人は白髪の老人。どちらもスノウの従者である。


「……スノウ様、これもまた、王女としての務めで御座いますじゃ」

「そんなこと言われなくても分かっているわ、爺や」


 キャリッジでスノウと対面して座っているのは『(じい)や』と呼ばれた、白髪の老人『ガイム=ダイン』である。スノウは爺やと呼んでいるが、他の者には『ガイム』と呼ばれている。


 ガイムはフィアーバ城内で最も高齢な従者。

 その年齢は、既に七〇を超えたとか。高齢者であっても、日々正しい姿勢を保つガイムは腰が曲がるようなことは皆無。その性格は常に落ち着きを払う。


 そしてもう一人の少女。 


「スノウ様、ガンバですの!」


 こう、スノウへ声援を送った少女の名は……


 ――『ミリィ』と、言う。

 ミリィはスノウ専属の待女(メイド)で、少々落ち着きがないことが欠点。

 しかし、その粗忽(そこつ)な性格を気にしなければ気立ての良い人物だといえよう。頭に馬の尻尾が二つ生えたかのようなツインテール、柔らかそうな頬と大きな瞳。身長は低めだ。


 ミリィは一五歳の少女だが、その年齢より二、三歳は若く見られる容姿を持つ。スノウより数倍突き出た、けしからぬ胸元以外は。


「……苦手なのよね。こういうの」


 こう、ため息をつきながら言ったスノウは、王女として威厳を保つことを苦手としている。


 ヘルトを追ってティカまで赴いた時は単独行動であったが、従者を連れて行くと何かと面倒と思ったからである。それゆえにピアド王へ一言だけ告げて城を出た。(のち)に気付いたガイムが慌ててオルマムへ連れ戻すよう伝え……と、いうのが今までの経緯である。


 それに対し専属待女(メイド)であるミリィは、スノウが城を出たことを知っていた。スノウから「すぐに気づかれぬよう時間稼ぎを」と、命じられ止むを得ず城に残ったのだ。勿論、その粗忽(そこつ)な性格がゆえ大した時間稼ぎにもならなかったのだが……


 

 そしてスノウが望まずとも、馬車は国境へ辿り着いた。

 既に待機し、馬車が来るのを待っていたのは門兵。

 その門兵へケイツアは言う。


「あらン? アナタなかなか可愛い顔をしてるわね」

「は、はっ! 光栄に御座います、ケイツア様」


 門兵は悪寒と身の危険を感じた。

 だが、ケイツアはオルマムの息子ということもあり、フィアーバでの知名度は高い。あっちの面で。


「はい、通書ン」

「は、はあ。ご確認致します……」


 王族でも通書(国境を越えるために必要な書)は必要。

 高位な者は通書が不要などという、ご都合主義な展開は期待できないだろう。

 この通書は身分証明書の(たぐい)。身分や名前などが明記してあり、確認のサインさえあれば問題とならない。そのサインの後にケイツアの(キス)マークがなければ。


「ケイツア様、これは……」


 当然門兵は聞く。


「ウフフ、サービスよン。アナタなら直接でも――」

「――ひっ!? 私には妻がおりますので……」

「あら、残念。仕方がないわねン」

「申し訳ございません。そ、それよりもスノウ様を待つ兵が待機しております。宜しければ御謁見、願えませんでしょうか?」


 門の周りには既に多くの兵が集まっていた。

 皆、スノウをひと目見たいからである。


「スノウ様、やはり出るしかないよう、で御座います」

「……スノウ様」

「そのようね。爺や扉を……」

「畏まりました」


 スノウはフィアーバ王国で第三の王女ではあるが、姉であるアドリエンヌとコリンヌより人気度が高い。王であるピアドに匹敵するほど。


 その容姿もさることながら貴族と民を平等に扱うから……それはスノウが無表情だからとも言えるが、貴族などに良くある『平民を小虫のような眼差しで』という身分差を秘めた瞳で平民を見ないからである。


 どれほど綺麗ごとを口にしても『目は心の鏡』なのだ。

 スノウの人気は、民がスノウの瞳から感じとったものなのだろう。


 キャリッジから兵たちに姿を見せた三人。


「ス、スノウ様……」


 兵士たちから「おおっ!」と歓喜の声が木霊する。

 それほどにスノウの雪のように白い肌と黒い髪は、男性のみならず女性をも虜にするのだ。何名かはミリィのアレに歓喜しているが。


「…………」


 恥ずかしいのか、顔を赤らめたスノウは一言も漏らさず、静かに手を振った。

 スノウは苦手というよりも、大勢の人の前にでることが恥ずかしいだけなのだ、と。

 愛らしい……

 同時に兵たちの頬も染まる。ポッ


「「「「「スノウ様、バンザァアアアァアアアィイッ!!」」」」」

 

 その兵士、盛り上がりすぎ。

 燃えに、萌えた兵士たちは一斉に「ありがとう」と、思った。

 そして、それを見る顎が割れ過ぎた漢は――


「さすが、アタイの次に美しいスノウ様ねン……ウフフ」


 と『()()()()ワレスギーノ』は勝ち誇ったように言った。


そろそろ登場人物も増えてきたので、人物紹介を……と、思っております。

さすがに混乱しますよね。皆さまは他にも多数の作品を読んでいるでしょうから。

基本的に、隠したい性分なので簡易な紹介となるでしょうが、投稿しようかと思っております。

今後とも御ひいきに~

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