ハルバトーレ・レポート
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――天啓。
この世界を統べる、きっかけとなったビフォア。
強い、では無い。(守りが)堅い、である。
――術、及び異能の類を無効化する”才”。
と、思われてきた。今までは。
これは残された文献にも、そう記されたものばかりだったから……
先日ハルバトーレが読んだ古い文献で、興味深い天啓の一文を目にする。
【シンパティーア歴、一三年・師走(一二月)――
王は天啓の後遺症により、未だ目を覚まさない。
本日で、もう五日目だ。
眠りから覚める間に、きっと睦月(一月)を迎えることとなろう。
誕生祭に王の不在など……】
この文献の著者が誰なのか、など分かってはいないが英雄スーラの側近だった可能性が高い。どのような文献にも記されていない英雄スーラの日常が記されているからだ。
ハルバトーレは更に読み進める……片眼鏡をいちいち持ち上げて。
【天啓とは――
『柵または壁により囲まれたもの』が由来となっているらしい。
これは私が調べたのでは無く、王がそう言ったのだ。
この言葉と、今まで王が得た誉れ、そして後遺症などから考慮すると、
術や異能を掻き消す、言わば無効とする”才”とは異なるものなのではないか、
と考えられる――】
ここまで読み進め、ハルバトーレは「やはりそうなのか」と。
そして言う――決め台詞を。
「……ほう。じつに興味深い」
片眼鏡のレンズが閃光を放つ。
眩しい。
周りにいた従者たちの動きが止まり「え? 今の光はナニ?」となった。
これはハルバトーレのビフォア……
――【閃き】[フラッシュ]
この閃きは脳の機能を活性化させるビフォアだ。
どのような場所(暗闇)でも、閃光を放つ謎眼鏡に意味はない。
そして必ず腹ただしい笑みを浮かべる。ニタァ……、と。
ハルバトーレは、この閃きで数々の功績を積み上げ貴族階級まで上り詰めた、もと(転生前の)学者。転生後シンパティーアでの生まれは平民だった。それゆえに貴族たちを嫌う。
そして、なりたくも無い貴族となってしまったハルバトーレは、現在においても研究にしか興味がない。
そんなイケメンなのに女性に興味を持たない万年童貞のことはさておき、ハルバトーレは面倒くさくとも閃いてしまう。
今までハルバトーレがヘルトへ疑問を抱いていたのは『三日三晩眠っていた』ことである。ヘルトは身体に傷一つ負ってもいないのに、爺さんよりも目覚めが遅かった。
確かにオルマムの回復には驚かされたが、オルマムはそういうビフォアを所持しているからなのだが……今はオルマムのビフォアを語る必要はないだろう。
ハルバトーレは三日も目覚めなかった理由を研究していた。
天啓には何らかの後遺症(短所)があるのではないかと。そして無効化などあり得ないと思ったからだ。
例えばエルザなら魂狩りで魂は狩れても、身体へ傷つけることは出来ず、胴体部にへしか効果が発揮されない。それはつまり短所。どのようなビフォアでも短所はあり、基本的に等価交換が原則とされる。
魔法で放つ炎や氷は物、として考えるハルバトーレは魔法も物理攻撃と確信している。従って剣や拳で攻撃することと変わらず、魔法を無効化することなど説明できる範囲では無く”あってはならない”、との考えに至った。それはビフォアの特性やシンパティーアでの理に反することなのだから。
古い文献と閃きにより、ハルバトーレはお得意の仮説を立てる。
天啓とは――
――無効化では無く『吸収』しているのではないか、と。
その吸収により身体に負荷がかかる。
負荷により眠ってしまう。
強大な魔法や異能ほどその負荷は大きくなり、睡眠時間の長さと比例。
負荷より命を落とすことは無いが、吸収したものを解き放つまで眠り続ける。
身体に溜め込んだ力を自ら開放することは出来ない(少なくとも英雄スーラは出来なかった)。
そして……最も重要とされることがある。
【回復魔法も吸収されてしまう】、だ。
つまり、ヘルトは回復を施せない身体なのだ。
本来シンパティーアにおいての回復魔法の効果とは、自己修復能力を向上させるもの。ヘルトは回復魔法を”魔力”として吸収し、効果としては吸収していないことが原因と考えられる。
英雄スーラが回避に拘ったことにも合点がつくだろう。
それは、この世界で最も傷を負ってはならない人物となる。
ヘルトが眠ってしまうことなど、しがない事であり、回復されない身体が本来のリスクだといえよう。
そして、最後ページに記された内容とは……
【――王は喪失者に深く興味を示しているようだ。
何やら、自身の”才”について書き綴ったものも……
いったい、この書に何の意味があるのだろう――】
ハルバトーレの持つ文献では、ここまで。
片眼鏡が……
……眩しい。
英雄スーラに備忘録があるのではないか、との結論に至ったハルバトーレ。
勿論だが、それはヘルトにも全て伝えた。
「……はあ。ハルバトーレさん、何となくですが分かりました」
「良かった。はっきりと伝えておくけど、術でも、斬撃でも、何でもいい。君は回避しなければならないんだ。君の身体はこの世界一脆い。今のところそう結論付けるしかないだろうね」
「ワーストワン、すか。夢も、希望もない、すね」
そんなハルバトーレにはもっと興味深いことがあった。
「ヘルト君。じつは……どのような書物にも、君のアッチ系の趣味については分からなかったんだ……すまない、切に」
――謝っちゃったぁあああ!
まだロリ○ンの件、拘ってたんだコノヒト!
ヘルトの脳裏に戦慄が走る。
「は、はあ。もう、好きに解釈してくれればイイっすから」




