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モモとエルザ

 

 ◆


 ――次の日の朝。

 ヘルトのみ焚き火の傍で一夜を過ごした。

 ではスノウと少女は何処で過ごしたかというと、それは馬車のキャリッジである。

 ヘルトが紳士的とも言えるが”物は言いよう”であり、ただ共にキャリッジで就眠する事を拒否されただけなのかも。

 

 三人は再びガーゼルへ馬車を走らせる。 

 ガーゼルまでは、遅くてもあと二日もあれば到着と出来よう。

 

 御者台に座ったヘルトの隣には少女が座っている。

 足をパタパタと交互に動かし、流れる外の景色を楽しんでいるようだ。

 

「御者台に座るのは初めてか?」

「ミャウッ!」

「そっかあ。ここにいるのは構わないでど、危ないからしっかり掴ってなよ」

「ミャ……ウッ!」


 大きく頷き返事をし、少女は御者台の脇にある手すりに掴まった。

 言語の問題は別として、相手の話を聞くだけなら問題なさそうだ。

 そんな御者台のふたりに、スノウはキャリッジから声をかけてくる。


「ヘルト。そのコ、この先どうするつもりなの?」

「そうだなあ――」


 ヘルトは少女へ一度視線を贈った後、続きを話し始めた。


「出来たら両親のところへ帰してあげたいかな」

「そう……ワタシも、それが妥当とは思うのだけれど……」


 何か思うところがあるのかスノウは返答をせず口を閉ざす。


「ん? けれど、なに?」


 瞳の奥に深い哀しみを宿している、ヘルトはそんな感じに思えた。

 そのスノウが気になったのか、少女は心配そうな眼差して言う。


「ミャ? オネ、たん……イタイ?」


 ……どこか痛いのか、と。 

 きっと、この少女の心が澄んでいるのだろう。

 そんな子供らしい気遣いにスノウは笑顔で応える。


「ふふ。どこも痛く無いわ、アナタが気にすることではないのよ」


 スノウは優しく言い返したが、後味が悪い。

 そう思ったヘルトは、慌てて話題を変えようと口を開く。


「――あ、そうだ! この子の名前を聞いてなかったな。君の名は?」

「ミャ?」


 名前、と聞き不思議そうな眼差しでヘルトを見つめた。

 しかし、その不思議がる答えを待つこともなくスノウが答える。


「奴隷は、奴隷よ。”オイ”や”オマエ”、または獣としか呼ばれないわ」

「それは、名が無いってこと?」

「そういうことね。獣人同士なら名前があるでしょうけど、奴隷に名を付ける(あるじ)はいないでしょうね」

「そう……なのか」


 ヘルトは少し考える仕草をしたが、数秒で決断した様子をみせる。


「そっか。それなら名前を決めようか」

「アナタ……本気で言っているの?」

「当然だろう? んー……何がいいかなあ」


 スノウは「奴隷に名は不必要」と言いたかった。

 これは、これはスノウの過ごしてきた日常から出た答えであり、奴隷に名を付けるなど考えたことが無かったのだ。


 ……なぜアナタは、誰も考えないような事を。

 

 こう思うスノウは決して悪気があってのことでは無い。

 ただ、それが当たり前だと思っているからである。


「よし、決めた! この子の名前は今日からヌッコヌコだ!」

「ゥ――ミャウッ!」

「……却下するわ」

「え? なら、ネコじゃら子?」

「ミャミャッ!」

「……女の子だからって”子”を付ければ良いってものでは無いのよ」

「ポチ?」

「ミャーウッ!」

「……アナタ、真面目に名前を付ける気があるのかしら?」


 ――――――


 全く以て真剣に考えたのかと疑いたくもなるが、少女の名は結局『モモ』と決まったようだ。

 勿論、最終的に名付けたのはスノウである。

 モモは満面の笑みを浮かべ大変ご満悦な様子。


「よーし、モモ。オレの名はヘルトだ。言えるか?」

「ゥ――へるとぅ」

「お……思いのほか流暢だな」


 続いてスノウも自己紹介。


「ワタシは、スノウよ。よろしく、モモ」

「スノ! スノ!」


 これにより三人の絆が深まった、とまではいかないが以前よりも仲良くなったことは確か。そう思ったヘルトは気持ちを新たに東のガーゼルへ向かう。


 

 ◆



 ――その頃、開拓都市ガーゼルでは。

 近衛兵カーランドが、とある酒場の奥まで足を運んでいた。


「またせたね、エルザ」

「あん? カーランドかい」


 酒場の奥で待っていたのはエルザ。

 カーランドはヘルトの行先を、ここガーゼルと予測しエルザへ伝えた。

 ヘルトたちより幾分か早く着いたのは、馬に乗ってきたからである。


「ヘルトらしい人物なんて居やしないんだけど? どうなっているんだい?」 


 すでに二日ほど前に到着したエルザは、ヘルトを探していた。

 ガーゼルは大きな街だ。それゆえにカーランドが用意した兵士と黒の双頭、合わせて百名以上で探索している。

 しかし、未だ手がかりも見つからずエルザは苛立ちを隠せない様子。

 更に、ヘルトを探しているのは”他にもいる”との情報もあり状況は良くない。


「ああ、それなんだがテリアでヘルトらしき人物を見かけたようだ。その者は他の名を語っておったようだが……まず間違いないであろう」

「テリアなのかい? いつの間に追い抜いちまったようだねえ」

「それは大丈夫であろう。テリアからガーゼルまでは他に街や村はない。それにその者はガーゼルへ行くと言っていたそうだからね」

 

 カーランドの得た情報は「ヘルトはガゼールへ向かった」である。

 昨日の昼刻にテリアを出たのなら、わざわざ追わなくとも一日二日待てばヘルトから近付いてくれるだろう、との考え。


「アタシたちは、ここで待っていればいいのかい?」

「ああ。しかしね、エルザ。ガーゼルで揉めるのは困るのだよ」

「……王国騎士様のことかい? まったく面倒な(やから)だねえ」


 エルザたちの他にヘルトを探しているのは王国騎士である。

 それほど大人数ではないのだが、何者かの指示で動いているようだ。

 その意図はヘルトを捕らえる為なのかなど、詳細は分かっていない。


「王国騎士たちが先にヘルトを探し出してしまっては、いろいろと面倒なのだよ。私にとっても君たちにとっても、ね」

「まあ、罪人ひとりの為だけに王国騎士がウロチョロするってのも、変だからねえ。いったい何がどうなっているんだか」


 エルザとしても王国騎士の存在が邪魔だと思っているのは確かだ。


「その通りなのだよ。何か嫌な予感しかしないのだよ」 


 王国騎士は、基本的に王都専属の護衛が主な任務である。

 アストラータ王国では、近衛兵は各街の護衛、一般兵は検問などのその他雑用係りなどを務めている。因みに村や小さな街に近衛兵が派遣されることはない。


 たかが数名の王国騎士でも動かせる人物など数少ないことを考慮したら、(こと)の重大さは知れよう。カーランドとしては、何のためにヘルトを探しているのかも分からず、奇妙としか言えないのだ。


「……つまりはガーゼルへ入る前に()れ、ってことかい」

「そうして貰えると助かるのだよ」

「それは構わないよ。それで、ちゃんと魔術師(マジシャン)は用意できてるのかい?」 

「勿論だとも。滞りなく広範囲魔法が使用できる者を一〇名ほど用意した」


 エルザとしては準備が整ったというところか。


「なんか楽しくなってきたねえ……ふふっ」


 エルザは不敵に笑う。

 戦闘を楽しむのではなく、人の命を一方的に奪う事に……


「お、恐ろしい女性なのだよ、君は」

「ふんっ! アンタの尻拭いなんだよ。一緒に来てもらうからねえ」

「私もか? うむむ……仕方がないのだよ」


 この後、エルザたちはガーゼル近郊で包囲網を張り、ヘルトたちを待つ事となる。


とあるランキングサイトで見かけたのですが、猫の名前で今最も人気が高いは『モモ』らしいです。

なので便乗した次第で、御座います(笑)

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