戦斗君とはぐれた後
僕は、何も言い出せず、さらには立ち去る戦斗君を引き留めることが出来なかった自分を悔やんでいた。瑠璃ちゃんを早く取り戻すためには欠かせない人物であるからだ。
「はぁ。ここで、立っても仕方ないわ。瑠璃ちゃんを早く助けにいかなきゃ」
世界が浸食されてからはこの中では、一番戦斗君と長くいる時間が長い女の子、魔須美がこの場の雰囲気を変えるために言う。ちなみに、前にさんづけして読んでいたら「やめてほしい」と言われたので敬称略となっている。
「そうだね、今は、僕たちで出来ることをやろう。琉々奈ちゃ……じゃなかった。ガァルルちゃん、瑠璃ちゃんの匂いをもう一度辿ってくれるかな」
「わ、わかったガァル……」
さっき、戦斗君に怒られたことが響いているのか少しションボリとした様子である。
「よしよし、ガァルルちゃん……」
「く、くすぐったい……ガル」
まんざらでもない様子である。
「ガァルル、頑張って瑠璃ちゃんを探すガル!!!」
なぎさに少しなぐさめられて多少元気は取り戻したみたいだ。やる気に満ち溢れている。戦斗君を抜かした編成でガァルルを先頭にまた僕たちは歩き出した。
「ねぇ……さっき戦斗が言ってたしょく……ぼく人?みたいな名前のモンスターってどんなモンスターなの?」
僕の隣を並んで歩いている魔須美がきいてくる。
「食人木だね。戦斗君がさっき言っていたようにプレイヤーを何らかの方法で誘い出して食べて自分の栄養にしてしまうモンスターだよ」
「してくる攻撃とかは?」
「蔦や枝を伸ばしてくる攻撃と液体や花粉を飛ばしてくる感じかな。植物系のモンスターと基本的に変わらないと考えて大丈夫だよ。状態異常になってもヒーラー役のなぎさがいるから大丈夫だと思うよ」
ガァルルのすぐ後ろを歩いているなぎさが振り向いて手でオッケーとサインを送ってくる。
「そっか。あたしと結城が攻撃すればいいのね」
「ガァルルも戦うガル!!!人間のメスに瑠璃を任せられないガル!!!」
「あはは……、それは頼もしいなぁ……」
僕は笑ってごまかす。ガァルルも元人間のメスに含まれていて、僕は元男だと思ったが突っ込むのは野暮だと思ったので突っ込まない。
「クチュンッ!!」
その時、なぎさがかわいくくしゃみをする。
「風邪でも引いたの?」
「いや、熱とか黄色い鼻水とかではないから大丈夫だよ。多分花粉症かな」
「そういえば、ガァルルも花がムズムズするガル……」
ガァルルは四つん這いのまま右手で鼻をこすっている。
「なんの花粉に反応しているんだろうね。皆が反応しているってことはスギかなぁ?」
なぎさが自分の鼻水をすすりながら答える。
「そうだね……。んっ、あれっ……」
なぎさの方を見た時、視界の端に人の足跡があるのが見え、そちらに注目してしまう。僕らとは逆方向に向かっていったみたいだ。足跡は四つあるので二人が向かっていったみたいだ。しかし、ここに来るまでには誰一人としてすれ違っていない。
「盗賊とか山賊とかだったら会わない方がよかったし気にしない方がいいのかな」
「なんかいった?」
「ううん。独り言」
僕はあんまり皆に心配をかけさせたくなかったので、そのことは言わなかった。戦斗君とエンカウントしているかもしれないけど彼程の実力なら大丈夫だろう。
「瑠璃の匂いが近くなってきたガル!!!」
ガァルルの声で一斉に皆前を向く。そこは、蔦だらけで人が通り抜けるには時間がかかりそうな場所だった。





