何かが潜む可能性
「盗賊以外に森を荒らされたりしていないか?例えば、政府とか……?」
牙王琉々奈の父親である、俺の通っていた学校の元校長が人を殺してまで(実際は瀕死だが、催眠が解けたら死ぬので同義)したかったことはなんだったのか思い返す。
娘のためとはいえ、政府という巨大な組織に立ち向かおうとしたのか理由が知りたかった。
俺の問いただした言葉にピンとこないのかガァルルは首をかしげる。そして、なにか思うことがあるのだろうな徐に口を開く?
「せ、政府ってなにガル?」
重かった空気が一気に壊れる。俺は、ガチでずっこけそうになる。
「仕方ないよ、戦斗君。政府自体を知らなかったら無理ないよ。琉々奈さんにとって人間は違う種族だとしたら区別もつかないし、その種族のコミュニティなんて興味はないだろうし」
結城が言うことに納得する。例えば、俺らがオオカミの群れを見たとしても、研究者でない限りは、○○のグループでこのグループはどのような立ち位置にいるかなんて、興味がわかないだろう。
「もしかしたら、校長先生が理解に焚き付けられただけで、理解が本当のことを言っていたとは限らないし」
いつもなら、なぎさは「くん」や「さん」をつけるはずなのだが理解は敬称略にされている。まぁ、やられたことを考えれば気持ちはわからなくはないと思うのだが。
「あの堕天使がなんでここにいたのか……。憶測でしかないが、俺はこのことが絡んでいるような気がする」
確証はないが、他の人の話を聞く限り人気アイドルだったらしい。では、なんで、こんな人気のないこんな森のなかに現れたのか。俺の名前を知っていたのか。この二点は俺が引っかかる疑問点だった。
「あれじゃない?もし、天使愛李ちゃんが政府の一人なら、戦斗が盗賊だと思って襲ってきたんじゃない?」
「そうだとしても、俺の名前を知っているのはおかしいだろ。俺は、盗賊としてリストに載せられてるんだぞ」
「え、マジ?あたし盗賊になってるの?」
魔須美の見た目はどうみても魔女だし、魔須美の名前は一言も言われてないからその可能性はないが言うのもめんどくさいので黙っておこう。
「……ガァルル……瑠璃はみんなが……なにを話しているのか……わからない」
「ガァルルもガル……」
二人がいないことの出来事だし仕方ないと思う。
その時、俺はふと校長の言葉を思い出す。
"政府は娘のおる森を何らかの理由で焼き払おうとしておる"
盗賊の密輸を辞めさせるだけなら、この森を焼き払う必要なんてないはずだ。何か、この森には隠されている何かがあるはずだ。
俺は、泉から流れていく川の先を見る。そこから、ビュッと風が吹いくる。それはまるで、暗いその先から、俺らを何かが遠ざけようとしている風のようにも思えた。その風は、ひんやりと冷たく俺の肌をかすめていった。





