みんなを元へ
「んっ……あたし、なにを――――」
「魔須美さん、大丈夫ですか?」
「うん、まぁ……」
「戦斗さん、魔須美さんが起きましたよ」
魔須美の様子を見ていた遊香ちゃんが俺を魔須美の元へ連れてくる。
「俺がかけたスリープでちょっと眠ってもってたんだ。どうだ?なんもないか?」
俺は、スリープを解いて、起きたばかりの魔須美に顔を近づける。瑠璃ちゃんが作ったキューピットの矢の解毒剤を三人の中で一番最初に打ったのだ。
「な、なにもないかって……ッ!!顔、近いわよ」
恥ずかしそうにしながら俺から目線をそらす。どうやら成功したようだ。
「よかった。瑠璃ちゃん成功したみたいだ。よくやったな」
「うん……当然!!」
瑠璃ちゃんの頭を撫でてやると、胸を誇らしげにはる。
「なぎさと結城にも解毒剤を飲ませよう」
「……わかった」
「と、ところで、戦斗あたしなんで眠ってたんだっけ?」
「ガァルルって言ってもわかんないのか。え~っと、ジャングルってか森で琉々奈を探してたのは覚えているか」
「覚えているわよ。泉を見つけて戦斗がどっか行って帰って来て天使に会って……。て、んし……」
自分の醜態を思い出したのか顔を一気に赤らめる。
「あ、あ、あれは違うからね。あたしの本心ではないっていうか……」
「あぁ、わかってる。俺もそこまで自分に自惚れてない。キューピットの矢で好きでもないのに恋愛感情をもたらされたことくらいわかってる」
「そ、そうなんだけどそうじゃない!!!」
「いてっ、いててっ!なんだよ」
魔須美がポカポカと俺を殴ってくる。
「人の気持ちくらい少しでもいいから察しろ!!鈍感!!」
「いたい!いたいいたい!わかったわかったからやめろよ」
俺が魔須美から総攻撃を受けているとき、
「な、なにこれっ!!!」
甲高いかわいい悲鳴が鳴り響く。
俺と魔須美は声のした方を見ると金髪美少女が鏡を見て驚いていた。
「せ、戦斗、確かあれって結城よね?」
「あぁ、正解だ」
魔須美も記憶が戻ってきたのか恐る恐る目の前の現実を受け入れるために確認する。
「僕、女の子になっちゃってるんだけど!!」
結城自身も驚いているようだ。無理もない。長い眠りから覚めたら女の子に変身しているからだ。
「あぁ~~~~」
後ろの布団ではなぎさが頭を抱えながら、掛け布団に顔を埋めている。
「死にたい、死にたい、殺して殺して」
「な、なぎさ。落ち着いてくれ」
なぎさを宥めようと近づく。しかし、顔をあげて俺を見た瞬間顔がどんどん羞恥の色に染まっていく。
「あぁ~~~~。変態に思われてる嫌われたぁ~。あぁ~~~~~」
「お、おいっ!」
さっきよりも深く顔を沈ませている。よっぽど、精神的ダメージが強かったのだろう。黒歴史を思い出す人間はこうなるのだというのがよく理解できた。
「せ、戦斗くん!!僕、女の子になっちゃった」
結城の顔がいきなり俺の視界の前に現れる。という、俺の胸辺りには柔らかく、でかい二つの双球が当たっている。男の子同士の距離感覚でいるらしいが、俺にとっては殺人的な精神ダメージを受ける。
「わ、わかったから一旦離れような」
「ぼ、僕このまま一生このままなの?」
「も、もう一回性別チェンジしてみたらいいんじゃないでしょうか?」
困った俺に助け船を出してくれたらしく遊香ちゃんが答えてくれる。
結城は、「そっかぁ」と納得したあと、ステータスウインドウを空中に表示する。
しかし、なにかに気がついたのか両膝から崩れ落ちてそのまま両手まで地面に密着させる。
「なんか、ロックしたみたいでもう変えれないみたい」
すんごい、暗いトーンの声が響き渡る。
「…………ど、ドンマイ」
コミュ障の俺が出した精一杯の返答だった。





