祈りの花を摘みに
「こっちガル!!」
琉々奈は先陣を切って進んでいく。川から離れて水っけのないところまで来ていた。
琉々奈は苔のついた岩場をすいすいと軽やかに進んでいるが、俺らは歩きにくくて仕方がない。苔で足を滑らしそうになるわ、草が生えて歩きにくいわ、木によって足場が見えにくいわで大変だった。
流石に、疲労が顔に出てた瑠璃ちゃんを見兼ねて、背負って歩いている。なので、俺は、さらにきつい。
といっても、彼女は二足歩行ではなく、獣のように四足歩行で動いているが……。
「随分と川から離れているが大丈夫か?水辺に多く咲くって瑠璃ちゃんが言っていたが――――」
「いいから黙ってついてくるガル!!」
「もしかしたら……川以外に……水辺が……あったのかも」
「そうかもなぁ。そういえば、迷いそうだったから川から離れて行動してないなぁ」
四人で来たときも、瑠璃ちゃんと探しているときも、川沿いを進んでいたことを思い出した。
「もう少しガル!!」
岩場少なくなり、土が見えはじめる。しかしらそれは、土というよりは、泥に近かった。足を踏み入れると、まるで底無し沼にはまったかのように片足が沈みこむ。俺は、慌てて片足を動かして沈むのに抵抗する。
「これだから人間は貧弱なんだガル!!」
「だから、お前も人間なんだって。そろそろ、自分のことを思い出せよ琉々奈」
「ガァルルはガァルルガル!!琉々奈じゃないガル!!ガァルルと呼べガル!!」
「わ、わかったよ……、ガァルル……」
「それでいいガル!!」
これ以上抵抗してもガル!ガル!うるさいだけなので素直に従うことにした。
「ガルちゃん……かわいい」
「て、テレるガル……」
瑠璃ちゃんには、懐いてるらしく、ペットとご主人様のような主従関係が出来始めてるみたいだった。
「前を見ろガル!ついたガル!!」
足場に気をとられて下ばっかり見ていた俺は顔をあげる。すると、そこには、二メートルくらいの小さな滝があった。
「おぉ、すげぇな……」
俺は、思わず声をあげる。それは、この世のものとは思えないほど綺麗だったからだ。
小さな滝壺の周りには綺麗な花がたくさん咲いていた。まるで、それは蓮の花がたくさん咲き乱れているような幻想的な風景を思い出させる。
「祈りの花……こんなにいっぱい……はじめて……見た」
瑠璃ちゃんも感心しながら、驚いたような口調で言う。
「ガァルルのお気に入りスポットガル!!早く、残りの二人分採っていったらさっさとここを立ち去るガル!!」
「あぁ、そうだな。瑠璃ちゃん、早く帰ってみんなの薬をつくってあげよう」
花を摘んでここを立ち去ろうとしたその時、
「アニキ、ここでっせ」
「おぅ、ご苦労だった」
俺の背後から人間の声がする。
「フシャーーーー!!!」
ガァルルは全身の毛が立ち、威嚇のポーズをとっている。
俺は、振り向くと、ジョブ盗賊のプレイヤーが五人こちらへ向かってきていた。
「琉々……、ガァルルが言っていた人間ってあいつらのことか?」
「そうガル!」
「なるほどな」
俺は、背負っていた瑠璃ちゃんをおろし、五人に近づいていった。





