説得
「しゃあ、ねぇな!!」
俺は、迫り来る蟹の大群ではなく、琉々奈の方を選んだ。瑠璃ちゃんを魔方陣の向こう側へと押しやった。
俺と瑠璃ちゃんが向こう側にいった瞬間に、蟹から逃れるために出入り口の魔方陣を閉じる。
後ろの問題は解決し、俺は、前を見る。
向かってくる琉々奈に対しては、手を掴んで無力化を図る。
「は、はなせがル!!!」
俺に両手を掴まれてジタバタともがいている。
「ちょ、暴れんなよ!」
「ガ~ルッ!!!!」
「いったぁーーー!!!」
琉々奈は俺の首筋を噛んでくる。
「おりのッ……はなを……かえすガルッ!」
「俺の肩を噛みながらもごもご言うのやめろっ!!」
「かえすガル!!!」
「あ~、あんまり手荒な真似はしたくなかったんだがな。じゃあねぇ。バインド!!」
俺は、拘束系の魔法を唱えた。光の縄が琉々奈をぐるぐるに縛りあげ、身動きひとつとれなくなっていた。その隙に、琉々奈の口から逃れる。無慈悲にもそのまま横たわっている。
「あぁ~あ!肩が唾液で汚れちまったじゃねか」
俺の肩は琉々奈の唾液でびっしょりと濡れていたので、泉の水で軽く洗い流す。
「お前らもあいつらみたいに森を汚すんだガル!人間は信用できないガル!」
「どこの誰だかしらんがあいつらって誰のことだよ。ていうか、お前も人間だろ、琉々奈」
「ガァルルも人間のことなんて知らないガル!ガァルルはガァルルガル!人間じゃないガル!」
「いや、お前は獣人じゃなくて人間だからな。ていうか、ぜってぇ、なんかの濡れ衣着せられてる気がする。だいたい、こ……、瑠璃ちゃん?」
瑠璃ちゃんは倒れている琉々奈に近づき、しゃがみこむ。そして、そのまま琉々奈を、じっと見つめる。
「なんだガル!」
「仲間を……助けるために……三本だけ……必要……。だから……あと、……二本だけ……ゆるして」
瑠璃ちゃんはそう言って頭を下げた。
それを見た、琉々奈は気まずそうに少し目線をそらす。
「さ、三本だけなら、ゆ、許してもいいガル……」
「ありがと……」
どうやら、琉々奈の理解は得られたようだ。
「承諾してくれてサンキューな」
「お、お前は許してないガル!あっち行けガル!」
俺に対してはまだ、辛辣だった。
「その花があるところを案内するガル!いいから、早くこれをほどけガル!」
縄から逃れようとしてるのか、地面で陸にあげられた魚のように暴れている。
「わかったから落ち着けよ!」
「おちつこ……」
「わ、わかったガル……」
そう言うと、きっぱりと暴れまわることをやめた。
琉々奈は瑠璃ちゃんに対しては従順なペットのようになっていた。





