小さな子供の大きな苦悩
「た、ただいま」
俺は、全身びしょびしょに濡らしたまま拠点に辿り着く。服から滴り落ちる雫が床を濡らしていた。
「あっ、お帰りなさい。瑠璃ちゃん、戦斗さん来たよ」
遊香ちゃんに言われ、テーブルに突っ伏して泣いていたらしい瑠璃ちゃんは俺を見るなりダッシュして抱きついてくる。
「ご、ごめん。心配かけたかな?」
「…………」
「気分悪いのか?」
「…………」
フルフルと、首を振る。
「瑠璃ちゃん、ずっと自分が役に立たなかったーって嘆いてましたよ」
「ッ……!!それは……言わない……約束」
遊香ちゃんは「あっ、しまった」というように口を両手で塞ぐ。
「ご、ごめんなさいね!!それじゃ、戦斗さん、あとは、頼みます!!」
そう言い残して何処かへそそくさと隠れるように出ていってしまう。まぁ、隣の部屋だろうけど。
俺は、もう一度抱きついたままの瑠璃ちゃんを見る。
「瑠璃ちゃんのことを別に足手まといなんて思ってないぞ」
いつもより、優しい声音で話しかける。
「で……でも……祈りの花を見つけれないで……闘いの邪魔になったのも……事実」
瑠璃ちゃんには、それがずっと気がかりだったらしい。確かに、ずっとお留守番させて、一緒に行動するのははじめてだった。
「大丈夫だ。今日見つけられなかったら明日見つければいいさ」
「でも……明日も……見つからなかったら――」
「螺旋階段って知ってる?」
「え……?」
俺は、ポジティブになっている瑠璃ちゃんの言葉を遮る。
「回転形の階段のことだ。登っている人は、ずっとぐるぐる回っていると錯覚してしまうこともある。けれど、前よりも確実に高い所に登っているんだよ」
俺が何を言いたいのかわからないのか上目遣いで顔を覗きこんでいる。
「それは、俺たちだって同じだ。昨日よりも今日は良くなるようにって――。たとえ少しずつでも上に上がっているんだよ。だから、心配しないで……。瑠璃ちゃんは瑠璃ちゃんのペースで登っていこう」
俺は、なだめるようにポンポンと右手で瑠璃ちゃんの頭を撫でる。
瑠璃ちゃんは、むず痒そうにした後、流石に恥ずかしかったのか顔を俺の腹辺りに埋もれさせてくる。
「絶対……皆を……元に戻そうね」
「あぁ、絶対に戻そう」
(もし、明日見つからないで戻せなかったら――)
俺は、俺の魔法の性で眠っている三人を見つめながら心の中で決意をした。





