忍び寄る音
泉には泉へ注ぎ込まれる川と泉から出ていく二つの川があるようだ。俺と瑠璃ちゃんはまず、注ぎ込まれる川の方を探索することにした。
「マングローブとかの水辺に生えている木が邪魔で"祈りの花"はおろか雑草の類いすら生えているところが想像できないなぁ」
「大丈夫……きっとある。"祈りの花"はその生物の生きていけない環境でも……生きていけると錯覚させる植物……。淡水に生えないはずのマングローブが生えてるからこの上流にあるはず」
瑠璃ちゃんはそう言って木下などを覗きこむ。まぁ、マングローブは本来は淡水に生える木を指さない。しかし、ここは、淡水のはずなのに生えているは確かにおかしい。
「この川の上流にその花が生えてるから生態系がごっちゃになってるってことか?」
「他にも……いっぱい……植物の種類があるのは……そう」
俺は、ここにきたときのことを思い出す。たしかに、熱帯、温帯、冷帯、乾燥帯の植物がごちゃ混ぜになっていた。ダブマスの侵食の影響だと考えていたがそれだけではなかったらしい。しかし、そこまで大地に影響を与えているものを勝手にとっても大丈夫なのだろうか……。
「瑠璃ちゃん、その花を摘んだらなんか問題が起こるとかそういうのは、ないよね?」
「"祈りの花"は……一ヶ所に百単位で……たくさん咲いている……。全部とらない限り……だいじょぶ」
「なるほどね」
俺は、ひとまず安心する。
数分歩いただろうか。さっきから木と川という光景から何も変わらず歩く疲労だけが溜まってくる。
本来はスキル"サーチ"を使えればよいのだがレアアイテム故に検索避けされている。はしゃいでぐんぐんと先に進んでいた瑠璃ちゃんもどうやら疲れてきたみたいだ。
「大丈夫?無理しないで乗りなよ」
俺はしゃがみこみ、おんぶを促すポーズをとる。
「ん……そんなにいうなら……折角だし」
ポンッとかわいい効果音が似合うように俺の背中にのってくる。俺は、瑠璃ちゃんをおぶったまま歩きだした。
ガサガサガサッ!
茂みの方からかすかに草が擦れる音がして振り返る。しかし、"五感強化"を使って調べてもそこには何もいないように思えた。
「どうしたの……?」
瑠璃ちゃんが心配そうに俺の顔を覗き混む。
「いや、大丈夫だ。進もう」
俺は、その場から早く離れるために少しだけ歩くスピードを早めた。
しかし、物音は俺をおってくる気配はない。
(気のせいだったんだろうか……。いや、何かはあそこに潜んできたはずだ)
根拠もない確信が俺の胸のなかを渦巻いてた。





