天使降臨
「あっ、戦斗大丈夫だった?もしかして、流々奈……さんいた?」
泉に戻ってきた俺に魔須美は声をかけてくる。顔見知りでも親しくもないので呼び名を探っているようだ。
「いや、雑魚モンスターが一体いただけだ」
俺は、細かいことは説明せずに答える。まだ、確証がないから余計なことは言わない方がいいと考えたからだ。
「そうか、もう他のモンスターの心配はないのかい?」
「結城が気にしている通り、死角が多く。ここは敵が潜伏出来るポイントが多い。警戒は解かないで緊張感をもったままの方がいいだろう。逆に俺がいない間にこの辺りで変わったことはなかったか?」
「特になかったよね?」
なぎさが二人に確認をするかのように問いかけると二人は頷いた。こちらには、何も起こらなかったのだろう。
スキル"五感強化"を使っても何も反応しないので、この辺りには実際に何もいないのだろう。
泉の水を飲みにくる者もこのタイミングではいなかったのか、俺たちがいることに気がついて引き返したのかはわからないが。
泉にいて、見張っていても何かがやってくるという保証もなかったので、地形把握のためにも探索を続けていた。
泉から少し離れると緩い坂道が続いて断崖絶壁の崖に道を阻まれた。頂上付近からは草木もなくなり岩肌が見えていた。
崖から森を見渡してみる。そこには、広大な森林が広がっていた。辺り一面みどりに染められていて、地面が見える場所はない。随分と木に覆いつくされてしまったようだ。森林公園が山奥の深い森へと変わってしまっていた。
「ここから、何か見えるんじゃないかと期待してたが見事に木しか見えないな」
「そうだね。ここからの景色じゃ僕が知っている風景と違いすぎて自分がどこにいるかもわからなくなってしまうね」
「まぁ、道は覚えているんだ。来た道を戻っていけば辿りつくことが出来る。ていうか、歩かなくても拠点にはワープすればいいしな。今日は歩きがてら様子見て帰るとするか。ちょうどいい時間になるし、なにかと出会うかもしれないし」
俺たちは、この場を去ろうと雑草が生い茂るゾーンに足を踏み入れる。その時、誰かの視線に俺が気づく。
木の上で翼の生えたツインテールのちっちゃい天使の格好をした女の子がいた。俺と目が合うと手を振ってウインクしてくる。
「なんだ、あいつは?」
「せ、戦斗!あんた知らないの!!ドラマにバラエティに引っ張りだこのアイドル天使愛李ちゃんよ!!!」
魔須美が興奮した様子ではしゃいでいる。
「あはっ!あいりのこと知ってるの?うっれし~い」
顎の近くに両手をやり、空中で足をじたばたとさせている。
「結城、お前ああいうの好きか?」
「いや、僕はサブカル系はちょっとわからないかな」
「俺も知りないし、どうでもいい。探し人じゃないしな」
「なによ!なによ~!あいりの悪口をいう奴はやつはあいりがこらしめちゃうぞっ!」
俺は、そう言ってその場を後にしようとする。しかし、
ヒュンッ!!!
風を切る刹那の音が耳に届き体が勝手にそれを避けていた。
俺がいた場所を通り、地面にザクッという音がして何かが突き刺さる。地面から露出している部分を見る限りそれは、矢だった。
「あっれれ~、あいり外しちゃった~。あいり外したこと一回も凄いね、セントくん!」
「お前、なんでその名を!」
ヒュンッ!!!
二本目の矢が放たれた。俺は、それもかろうじてかわす。
「お前ら先に森のなかに走って逃げろ」
魔須美は、目の前のアイドルの行動に戸惑って立ち尽くしている。それに、つられて結城となぎさもどうすればいいか迷っているようだった。
「いいから、早くしろ」
俺は、魔須美の背中を無理矢理、下り坂へと押し込む。それに合わせて二人は駆け出していく。
「逃がさないよ~、み~んなあいりの虜にしてあげるんだから!!キャハッ!」
そういって、天使は、笑った。





