一匹のイノシシ
俺は、葉っぱが擦れた音が聞こえた場所についたが、動物と呼べるものは存在しなかった。どうやら、遅かったらしい。しかし、ずっとその場で、潜伏してたのだろうか。草が一ヶ所だけ窪んでいるのが見える。
「この、大きさは――、人間ではないな」
推定全長1.5メートル、幅は人間よりも丸くて、大きいので、獣だろうと判断する。獣型のモンスターがこちらの様子を覗いていたのかもしれない。なんにしろ、警戒を解いてはいけない状況だった。
俺は、皆がいる泉に戻ろうとしていた。しかし、
「ッ!!」
茂みの中から大きい弾丸のように突進してくる物体が視界にはいる。俺は、ジャンプしてその突進をかわす。そして、着地と同時に体勢を整え、振りかえる。
そこには、イノシシ型のモンスターがいた。肩には鋭い角や鎧のようなものが纏られている。
「お前、群れで行動するんじゃないのかよっ!!」
俺は、そう叫びながらイノシシ型のモンスターから距離をとる。やつの名前は、ロックボア。Bランクモンスターである。本来は群れで行動し、単体で襲ってくるのは珍しいことである。
ロックボアは方向転換をし、こちらへとまた突進してくる。
「うざってぇな!!」
俺は、素早くサイドステップをし、ロックボアの軌跡状から逃れる。その隙に、小型ピストルを展開しロックボアへと撃ち込む。
「チッ!」
しかし、弾丸はロックボアの装甲にあたり弾かれてしまう。奴は固いことが特徴だということを忘れていた。
しかし、俺は攻撃力の高い魔法攻撃を避けたかった。音が大きく、この場所で戦闘をしているということを誰それ構わず伝えることになってしまうからだ。
俺は、指をピストルの形にして人差し指の先の標準を装甲が薄いロックボアの目の辺りに合わせる。
「貫け!ウォーターショット!!」
俺は、水を勢いよく発射させる。これは、水魔法の一つである。水を物凄いスピードで打ち出し相手を攻撃するのである。
俺の出した水流はロックボアの右目のすぐ下に直撃し、ロックボアをそのまま貫通させる。
たかが、水だからといって油断してはいけない。ウォーターカッターを思い出してほしい。ウォーターカッターをは、固い金属をも切断してしまう。ただし、切るというよりは吹き飛ばしているイメージの方が近い。
水流の速度によって威力は変わってくる。多くのウォーターカッターの場合500-800m/s程で、ほとんどのプレイヤーがそうだろう。しかし、俺は違う。瞬時に緻密な調整をすることでマッハ4の速度を出すことができる。
ウォーターショットをくらったロックボアはそのまま絶命しその場に倒れこみ、消滅をはじめる。
俺は、それを確認した後、もう一度辺りを見渡す。
ロックボアは元々、集団で過ごすモンスターだから近くに他の個体がいることを危惧したのだ。しかし、不気味なくらい森は静けさを保っている。
俺は、他に何らかの気配がないか確認する。しかし、誰もいないようだった。
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「ふ~ん、あいつがオセロのクロと言われてたセントってやつね」
高くそびえ立つ木より下を眺めてにやけている人物がいた。
「あいつを倒したら、あいりも昇格して、人気も鰻登りねっ!」
弾んだ声が響く。
「でも、上からは直接対決しろとは言われてないんだっけ。けど、まいっか、あっちから襲ってきたから倒しちゃったことにしちゃえばい~しねっ!」
天使愛李が笑うとチャームポイントである八重歯が光る。そして、手に持っていたハート型の矢じりが光ったこともまだ、俺は知らなかった。





