とある会議
かつて、オフィスタワーが立ち並びネオンの光が煌々と光っていたその場所は無惨な廃墟ビルが立ち並ぶ場所へと変わっていた。
ビルの壁はボロボロと崩れ落ちた跡があり、窓ガラスから見える一室は蛍光灯がついたり消えたりを繰り返している様が見えるだけだった。
そのとあるビルの中の一室に五人の人が集まっていた。その部屋は、真ん中の丸テーブルを囲んだ椅子が並べなれており、どうやら会議室のようだった。まだ、小綺麗で人が定期的に使っている様子だった。
「なによっ!この人気アイドル天使愛李ちゃんを呼び出してるんだから早くしなさいよねっ!あんたは、今あいりの貴重な時間を奪っちゃってる泥棒さんなんだから」
丸テーブルに腰掛けながら、そっぽを向きながら腕を組み、見るからに不機嫌そうに金髪ツインテールは喋りだした。身長もこの中では一番低く動く度に揺れるツインテールは幼い少女を思わせた。格好は天使のコスプレみたいな格好をしている。
「お前、知名度も人気でもそこにいる銀河昴に勝てないくせに態度だけは偉そうやなぁ」
狼のような耳を生やし、毛皮のような半袖短パンの少年はバカにしたような口調でいう。
「なによ、筋肉バカの癖して。あんたは、"獣人"がお似合いよ。この犬っころ!」
「なんだとぉ!!もっぺんいってみぃ!」
「それ以上騒ぐと叩き斬るでござるよ」
壁に寄りかかっていた笠を被り風来坊のような格好をした男は腰の剣に手をかける。
「わ、悪かったよ」
「ご、ごめん……。うぅ、あんたの、せいで怒られたじゃない」
「えぇ、俺のせい……」
「拙者も無意味な殺生は控えたいでござる。場を弁えるでござる」
「「はぁい……」」
「皆さんそれぞれ忙しいのでやはり、全員集まるというのは些か無理がありましたね。では、はじめさせてもよろしいでしょうか?」
二人の声がハモった謝罪が聞こえたところで、ローブをまとった男が話し出す。格好のイメージとうってかわり、やけに丁寧口調だった。他の四人はそのローブの男に同意するよう首を縦にふる。
「今日呼び出したのはあなた方が、現在調査している件の進捗状況と新たに発生した問題に対して伝えたいことがあったので直接話がしたくてこうやって集まっていただきました」
「進捗状況つってもつい、二日前話したばっかやしなんもないでぇ」
「あいりも、たぶん、他のみんなもそんな感じよ。で、もう一つの用件ってなによ?そっちが本題なんでしょ?早くしなさいよ」
愛李がそう言うとローブの男はCD-ROMを取り出す。
「なに、あんたあいりのファンだったの。それなら――」
「なわけ、あるかあほ」
「ちょ、いたいわねぇ」
狼のような少年が愛李をどつき、愛李は涙目になりながらその少年を睨む。
「実はですね、日本政府や我々に宣戦布告する人間が現れたんですね」
「自分の実力も知らないそんなバカ、あいりが捻り潰してやるんだから。で、そのバカの名前は?」
「せやなぁ。トップランカーが集められたっちゅう、うちらに敵うわけあらへんし」
二人の嘲りにローブの男は冷静に答える。
「それが、世界大会で優勝した実力を持ちながら、この世界に返り咲き、ナンバーワンになった人間だといったら……」
「「「「ッ!!」」」」
ローブの男の話に四人全員が驚く。その四人にはさっきまで何も発言せず、リアクションもとらない銀河昴も入っていた。オセロの二人は知らない人間がいないと言われるほどの人気だった。
「へぇ~、あのオセロだかなんだか知らないけど、ランキング荒しのやつでしょ。で、クロとシロのどっちよ」
あいりが強者と闘える楽しみがあるのか少しワクワクした様子で尋ねる。
「そこまで、その人物について、知っているなら話は早いです。彼は昔の名前はクロ。しかし、現在の名前はセント。彼のフルネームは神谷戦斗です」
「そ、それはほんとうなのかっ!?」
今まで棒立ちだった銀河昴は身を乗り出してきいている。
「びっくりしたわ~、あんな銀河昴見たことないわ」
「えぇ、そうね」
「本当に彼からなのか?」
こそこそ話している二人にお構いなしにきいている。
「どうやら、お知り合いのようですね。では、こちらを聞いてから考えてください」
ローブの男が流したのは、神谷戦斗と自分で名乗った人間がこれ以上森を捜査続けるなら攻撃を開始するという内容だった。
ローブの男は流し終えた後にもう一度四人に向き直る。
「私としては、あまりこのことを問題視していません。あなた方がそう簡単にやられると思っていませんしね。彼を見つけた場合、実力を公使してもやむを得ない状況になるというのは念頭にいれといてください」
そう言うと、ローブの男は立ち上がりドアから出ていく。
「なんや、そのオセロのクロを見つけたら倒せって命令でもあらへんのか」
「拙者は、興味がないでござる。襲ってこない限り手は出さぬ。しかし、万が一の場合は容赦せぬ」
「ん~、あいりはどうしよっかなぁ」
すると、銀河昴が何も言わず思い詰めたような顔で会議室を出ていく。
「いつもの様子とちと、違わんかったか?」
「拙者は興味がないでござる」
「んなこといったって、国民的アイドルが……ってあいりどこいくねん」
「ちょっと~、用事思い出しちゃったからじゃあね~」
「あ、おい。なんや、みんな、おかしいんか」
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あいりは、急いでいた。だって、面白い話きいちゃったんだもん。
あの、世界大会を九連覇している国民的アイドル銀河昴があそこまで慌てふためいた様子なんて見たことないもん。これって、オセロのクロとかいう奴絶対わけありでしょ。
それに、あの人も倒して倒さなくてもいいって感じだったし、あいりが倒しちゃっても問題ないよね。
「銀河昴より早く倒さなきゃ。あいりが先に倒して皆に認められるんだもんっ!」
さっきからにやにやがとまらない。あいりの歩くスピードもいつもより軽やかになっていた。





