おわりのはじまり
俺は、一人帰路につきとぼとぼと駅に向かって歩いていた。いつもと違うのは遊太がこないこと。さっきあんなことがあったから当たり前だ。俺から来ないでくれと言ったのだから。
大きな電子広告には今大人気のアイドルの姿が映し出されている。
「銀河昴ちゃんかわいいよな~。歌もうまくて、ダンスも上手とか最強じゃん」
「しかもこの前のWMS全国大会も優勝したんだろ?これで9連覇だぜ」
俺は芸能人に疎いからどこの誰がどう人気なのかなんてまるで興味もない。ただ、この頃見る頻度が増えたなくらいしか思わなかった。俺はそのまま駅に向かおうとすると……
「おいなんだ、あれは……」
「飛行船かな?」
一人の上空を指す言葉で周囲の通行人がざわめきだす。つられて俺も空を眺めてみると一つの黒い一点みたいなものがこちらを目指し飛んでくる。
俺は考えるよりも先に体が動いてしまう。すぐさま少し離れた建物に隠れるために逃げ出す。俺の目に映ったものは”ブルードラゴン”。そんなものがなんでここにいるのか、何かの見間違いじゃないかと考えるよりも先に俺の本能が逃げ出せと囁いていた。奴は属性付モンスターの中で一番おとなしいといわれている。
しかし、それは人間がいない水の中での話である。ここは人がたくさんいるビル街のど真ん中。奴らは肉食で説明には人をも食べるといわれていた。しかし、水中での嗅覚は鋭いが、地上だと視覚も嗅覚もほとんどない。
俺は、それらから導き出される答えを瞬時に判断して逃げ出した。五才までの英才教育がここで生きてきたらしい。建物の中に入ると外のドラゴンの様子を見れるロッカーに入り込む。この際周りの目は気にならない。俺はロッカーのスキマから外の様子を見守る。
ドラゴンが近づくに連れて電子広告にノイズがはしり、やがて映らなくなる。翼の風圧で街路樹の葉はものすごい勢いで散っていく。
「おい、WBSで見たことあるドラゴンだぞ」
「やべぇよ逃げろ逃げろ」
「キャアアーーーーーーーーーーー」
ビルの外は阿呆絶叫と化している。
キシャアアアアアアアアアアアア!!
ドーーーーーーーンッ!!!
ドラゴンの泣き声と共に地上に降り立った地響きがきこえる。
わーーーーーーーーー
キャーーーーーーーー
ドラゴンが地上で暴れだし人々を襲いだしてる光景がロッカーのスキマから広がっている。
逃げ惑う人々。尻尾や爪で人を軽々と襲い食らうドラゴン。色んな物が飛び交っている。その様子は例えるなら地獄だった。
自分に関係のない赤の他人。しかし、そんな人たちが無残にも倒れていくのを何も感じないで見れるほど薄情者ではなかったようだ。しかし、体は動けない。俺はその光景を恐怖からただだまってみていることしかできなかった。
どのくらいの時間が経過しただろうか。一通りおなかを満たせたのかドラゴンは飛びたっていく。
俺は、ドラゴンが飛び立ったさらに数分後恐る恐るロッカーから顔を出す。何も居ないのを確認してロッカーから体を出す。
悲惨な光景が広がっていた。街路樹はなぎ倒され、瓦礫や死体などが転がっていた。崩れているビルも見受けられる。俺はその悲惨な状況にただ立ち尽くすだけしか出来なかった。
すると、壊れてヒビが入った電子広告が緊急ニュースを放送しだす。
「緊急速報です。ただいま、日本各地でWMSのキャラクターたちが街を破壊している様子です。みなさんはただちに安全な場所に避難してください。繰り返します」
あまりの光景にズボンのポケットを握り締めると四角い物が手にあたる。遊太から貰ったUSBだった。
俺はふと、遊太のことを思い出す。
「あいつ、怪我とかしてないよな。大丈夫、だよな……」
考えたら心配な気持ちは増えるばかりで、居てもたっても居られず俺は遊太の家へと走り出した。