スティグマ
俺は、加速した体で間合いへ踏み込んだ、地面を蹴り飛ばし校長を斬りかかる。
――――ガキンッ!!
しかし、金属音によってその一振りが防がれたことを示唆される。
校長は瞬時に、杖で自分の一撃を防いでいた。その杖は、金属製で柄の部分に丸い水晶のような透明な物が装飾されている。
そのまま力で押し込もうとするも、相手も抵抗し拮抗する。
剣と杖、二つの物体がギリリと擦れあう音が微かにきこえる。
「お主は担任からクラスで孤立していたときいておった」
「だからなんだよ!」
「悔しくはなかったのかの?世界大会で優勝できる実力者の自分がいないものにされておるというのは?」
「関係ないね!俺の現実、そして、ダブマスへの愛着は一度そこで途切れた。それに、俺はカーストなんか興味はない」
「虚しいのぅ」
杖をゆっくりと横方向に引く力が僅かに剣から伝わる。
相手が何かを仕掛けてくることを理解した俺は、後ろに飛び距離を置く。
「再誕」
校長がその言葉を口にした後、杖の水晶が光り輝く。そして、光の軌道から雑魚モンスターが数体出現する。自分が倒したモンスターを復活させたのだろう。
サーチアイやら、ゴブリンやらファイアーウルフがこちらに向かって走ってくる。向かってきた奴からバッサバッサと斬っていく。雑魚モンスターなので、エクスカリバーで一撃加えるだけで光となって消えていく。
自分の召喚したモンスターが倒された光景をみた校長は更に、モンスターを復活させた。
「このまま、続けておってもいたちごっこじゃ。儂らと一緒に来んかのぅ?」
俺が雑魚モンスターを一掃してる間に、召喚を繰り返しながら問いかけてくる。
「さっき、断った……だろ!!!」
「戦いながら喋るのはきついのぅ。ここで、一つ考えてくれんかのぅ。お主はカーストは興味がないと言いおった。だが、人間は何かしらの肩書きによって縛り付けられておるのじゃ。そして、場所場合によって人間は仮面を付け替える」
「何を……」
「お主で例えるとそうじゃな。社会では、学生という肩書き、クラスでは人権とも言われるダブマスを捨てた異端児や最底辺カーストの陰キャラ、家庭では長男でありながらもタブマスを捨てた無能という肩書き、そして、ダブマスでは、悪友とランキングを荒らす有害プレイヤーいや、ヒーローとして崇めたてられてたのかもしれんのぅ」
「だから……、何が言いたい!!」
「その肩書きや枠組みを壊したくないのかの?」
「んなもん、しらねぇよ!!」
俺は、エクスカリバーだけではなく、小型ピストルも展開し、雑魚モンスターを蹴散らしていく。
「人間はのぅ、その肩書きが嫌だと思っておってもそれになりきってしまうのじゃよ。お主もそれを全て受け入れていたとは思えんしのぅ……これを社会学で何と言われておるか知っておるか?ゴフマンの役割理論じゃ」
「……ッ!?」
不意に、一体のフェンリルが召喚される。そのまま、俺に噛みつこうとしてくる。違う雑魚モンスターに気をとられていて、少し反応に遅れる。噛みつこうとするフェンリルの口の中に剣を突っ込む。しかし、まだ死んでいなくて前足で小型ピストルを振り払われてしまう。
「詳しい例を提示するとのぅ、家庭ではうるさい母親だとしよう。しかし、会社に出ればキャリアウーマン、電話に出れば声の高さが変わり、人前の顔になる。そういうものじゃ。もしも、自分が弱者の立場に割り振られた時、受け入れてしまい、それを演じてしまうことが多いのじゃ」
俺のそんな状況にもお構いなしに論じている。俺は、口の中に刺さったエクスカリバーのおかげで動きが弱くなったフェンリルのお腹に手を添える。
「ファイアー……ボール!!!!」
俺は、ファイアーボールの威力を最大限にしてフェンリルの体ごと校長にぶっとばす。しかし、周りに、見えないバリアがはられているのか手前で見えない壁にぶつかったかのように止まりずり落ちる。
「今のでお主が死んでしまうかもしれないと少し考えたが杞憂だったのぅ。今までの話をきいておったじゃろう。儂は校長という社会の肩書きに疲れたのじゃ。理不尽なことが起きすぎてのぅ。この政府に支配された世界を変えるにはお主の力が欲しいのじゃ。もう一度考えてくれんかのぅ」
校長はモンスター召喚する手を止める。
「そうやって諭して、ダブマスのゲーム内では仲間を作ってたのかRPGのキャラになりきって」
「現実世界に疲れているものはネット社会の顔と乖離する傾向が高いからのぅ。儂らの家族はRPGキャラになりきって現実を忘れるのが楽しかったからのぅ。それよりもおかしいと思わんかね。この世界が改変されて行政はすぐに対応できたのじゃ。明らかに早すぎるくらいに」
俺は、早い段階で復旧作業にボランティアを募っているのを見た。商業が展開されているのも。
「しかし、それは、想定されていた災害だったからマニュアルで対応したんじゃないのか?」
「それでも明らかに早すぎるのじゃ。たしかに、現実世界でダブマスが出来る研究開発はされておった。しかし、ここまで、侵食さるまで動けなかった政府が事切れてから動き出すのはおかしいのじゃ。まるで、この世界がいつ改変されるかを知っておったくらい準備が早い……。これらから、儂は政府の誰かがこれを引き起こしたと考えておる」
「んな、むちゃくちゃな」
「そして、改編された世界で儂や娘の肩書きは政府にとっては良くない存在じゃ。いずれ、消されるじゃろう……。儂と一緒に黒幕を倒さんかの?」
いつにもなく真剣な眼差しを向けられる。校長の言っていることは一理あるような気がしてくる。
俺は、一瞬手を止める。
周囲の音が聞こえてくる。
後ろを見ると、生ける屍と化した信者を足止めしている結城や魔須美の姿があった。
「政府がもし、この事件の黒幕だったとしよう……。それに、抗うために人々を政府からの肩書きから外したとする。しかし、お前の配下におかれた人という新しい肩書きをつけさせたのはお前だ。自分の欲のために人を使うのは到底許されるべき行為じゃない!!」
俺は、走って間合いに入り込む。
「ダメかのぅ。成績優秀なお主だと理解出来ると思ったのじゃが」
校長は諦めたように呟く。そして、杖を一振りし、モンスターを召喚する。
「理解したさ」
俺は、モンスター、一体一体の目の前に魔方陣を作る。魔方陣からそれぞれの属性魔法をだし、一掃していく。
「その上で否定した。それだけのことだ」
相手は、更に、召喚するがそれを上回る速度でこちらも、魔方陣を描き出す。
「それに俺は、ゴフマンじゃなく……ゴッフマン派だ!!!」
今から召喚されるモンスターを含めて全てのモンスターの前に魔方陣が描かれたことを確認したあと、左手に展開したマグナムで校長を射つ。
「効かんことがわかっておるのに」
無慈悲にもバリアに防がれたように思っているようだ。しかし、狙いは違う。本当の狙いはバリアを一瞬だけ可視化させることだった。
バリアが広いならその中にワープしようとしていた。しかし、人の二人分入れるスペースはない。
俺は、バリア手前までワープし、マグナムを捨てた手でバリアに軽く触れる。ビリッと少し電流が走るような感覚が伝わる。
「ホッホッホ!血迷ったかの!!」
校長は高らかに笑う。
「んなわけないだろ!!」
俺は、左手に力を込める。
「パーフェクトブリザード!!」
俺が唱えた呪文。それは、かつて使ったことのある、触った同物質を全て凍らせる魔法だった。
バリアが氷へと変わっていく。
「何ぃ!!」
校長は目の前が氷に包まれる光景に驚愕した顔でそれを眺めている。しかし、状況を把握した校長は杖で氷の壁を割り飛び出す。
「お主は儂を本気にさせたぞ」
肩で息を切らしながら呟かれる。
「俺も舐められたもんだな」
シュバッ!!シュバッ!!
二人は距離縮めた。そして、もう一度、剣と杖がぶつかり合い、火花を散らす。





