表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/91

落ちるもの


「魔須美いいいいいいいいい!!!!」


俺は、届くはずのないモニターごしの魔須美に手を伸ばす。

スキル"サーチ"を使っても反応はなく、魔須美の居場所が突き止められない。

前みたく"サーチ"妨害しているのだろう。

その間にも魔須美は、クレバスのような、深い谷底へと落ちていく。

現実世界とダブマスの世界が、混ざったときに隆起したのか、日本では、いや海外でもありえない高さになっている。



「キャアアアアアアアアアアアアアアア!!」


魔須美の声が響き渡る。



「ホッホッホ!儂ら、根源的神教に背いた罰じゃ」



その光景を見て、観衆を煽る校長。ワァァァ!と歓声があがる。ここにいる、信者のボルテージは徐々に高まっていた。



(くそっ!どうすればいい、どうすれば――)



俺は、焦燥感にかられていた。

頭の中にモニターの情報しか入ってこない。

谷底の暗闇へと吸い込まれていく様子。

服や髪は空気抵抗を受け、激しく揺れていた。



(もう、仲間は失いたくないんだ!!)



地形や音、目や耳に入る情報を、頭で処理して様々な考えに結びつけようとするが、出てこない。

考える時間も惜しいのに、なにも動けない歯痒さがあった。



「ホッホッホ!彼女ももうじき仲間になるのじゃ」



出鱈目な言葉を無視する。


その時、コンマ数秒、一瞬魔須美の手の中に、光るものが見えた。



(それだっ!!!それにかけるしかない!!)



俺は、彼女がずっと握りしめている物に全てをかける。



「縁結びの御守りよ!!!俺に、魔須美の居場所を教えてくれーーーー!!」



「血迷ったかのぅ……、んっ!?なん、じゃとっ!?」



俺の声に答えたかのように御守りが光だす。

魔須美の自由落下速度が遅くなる。

俺の、頭の中に魔須美の位置情報が流れこんでくる。


受け取った瞬間、俺は、その場所へとワープした。




******************



あたしは拐われた後、拷問ってほどじゃないけど、教祖っぽい人に何個か質問された後、目が覚めたら、谷の上で手を縛られて、何故か今は落ちている。

魔法やスキル、アイテムが、使えなくなっていた。

捕らえられた時に没収されたのだろう。



(ここで、あたし死んじゃうの?)



まだ、お父さんとお母さんには会っていないのに。あたし、まだ、高校生で若いのに。

色々な思いと、過去の出来事が走馬灯の様に蘇る。

幼稚園の記憶、小学校、中学校、高校、そして、ダブマスと現実が混じった世界で走馬灯は止まる。

ある男の子の顔が浮かんだ。



「戦斗……、た、すけて」



聞こえるはずのない男の子の名前を小声で呟く。

涙で滲む視界を、目を閉じて終わりを待とうとした……



すると、体に風以外の感覚がしだす。それは、まるで何かに優しく抱きしめられるような感覚で……。



「魔須美、大丈夫か?」



ききたかった声がする。ゆっくりと目を開けるとそこには、会いたかった戦斗の顔がある。

背中には"天使の翼"を生やしている。

どうやら、あたしを抱きしめながら飛翔していた。


「せ、んとっ!!」

「わりぃ、迎えにいくの随分遅れちゃったな」


少しこっちを一瞥し、進行方向に目線を戻しながら呟く。


「ううん、来てくれたからいいよ」



あたしは、背中に腕を回した。


「どうした?」

「ちょっと、下を見るのが怖いからこうさせて……」



あたしは、我が儘を言った。ほんとは自分がどんな顔してるか見せたくなかっただけなのに。



「そうだな。今、ワープするしっかり捕まってろよ。落とされるんじゃねえぞ」



彼は、軽く笑う。

大丈夫。あたしは、もう恋に落ちちゃってるみたいだから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ