落ちるもの
「魔須美いいいいいいいいい!!!!」
俺は、届くはずのないモニターごしの魔須美に手を伸ばす。
スキル"サーチ"を使っても反応はなく、魔須美の居場所が突き止められない。
前みたく"サーチ"妨害しているのだろう。
その間にも魔須美は、クレバスのような、深い谷底へと落ちていく。
現実世界とダブマスの世界が、混ざったときに隆起したのか、日本では、いや海外でもありえない高さになっている。
「キャアアアアアアアアアアアアアアア!!」
魔須美の声が響き渡る。
「ホッホッホ!儂ら、根源的神教に背いた罰じゃ」
その光景を見て、観衆を煽る校長。ワァァァ!と歓声があがる。ここにいる、信者のボルテージは徐々に高まっていた。
(くそっ!どうすればいい、どうすれば――)
俺は、焦燥感にかられていた。
頭の中にモニターの情報しか入ってこない。
谷底の暗闇へと吸い込まれていく様子。
服や髪は空気抵抗を受け、激しく揺れていた。
(もう、仲間は失いたくないんだ!!)
地形や音、目や耳に入る情報を、頭で処理して様々な考えに結びつけようとするが、出てこない。
考える時間も惜しいのに、なにも動けない歯痒さがあった。
「ホッホッホ!彼女ももうじき仲間になるのじゃ」
出鱈目な言葉を無視する。
その時、コンマ数秒、一瞬魔須美の手の中に、光るものが見えた。
(それだっ!!!それにかけるしかない!!)
俺は、彼女がずっと握りしめている物に全てをかける。
「縁結びの御守りよ!!!俺に、魔須美の居場所を教えてくれーーーー!!」
「血迷ったかのぅ……、んっ!?なん、じゃとっ!?」
俺の声に答えたかのように御守りが光だす。
魔須美の自由落下速度が遅くなる。
俺の、頭の中に魔須美の位置情報が流れこんでくる。
受け取った瞬間、俺は、その場所へとワープした。
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あたしは拐われた後、拷問ってほどじゃないけど、教祖っぽい人に何個か質問された後、目が覚めたら、谷の上で手を縛られて、何故か今は落ちている。
魔法やスキル、アイテムが、使えなくなっていた。
捕らえられた時に没収されたのだろう。
(ここで、あたし死んじゃうの?)
まだ、お父さんとお母さんには会っていないのに。あたし、まだ、高校生で若いのに。
色々な思いと、過去の出来事が走馬灯の様に蘇る。
幼稚園の記憶、小学校、中学校、高校、そして、ダブマスと現実が混じった世界で走馬灯は止まる。
ある男の子の顔が浮かんだ。
「戦斗……、た、すけて」
聞こえるはずのない男の子の名前を小声で呟く。
涙で滲む視界を、目を閉じて終わりを待とうとした……
すると、体に風以外の感覚がしだす。それは、まるで何かに優しく抱きしめられるような感覚で……。
「魔須美、大丈夫か?」
ききたかった声がする。ゆっくりと目を開けるとそこには、会いたかった戦斗の顔がある。
背中には"天使の翼"を生やしている。
どうやら、あたしを抱きしめながら飛翔していた。
「せ、んとっ!!」
「わりぃ、迎えにいくの随分遅れちゃったな」
少しこっちを一瞥し、進行方向に目線を戻しながら呟く。
「ううん、来てくれたからいいよ」
あたしは、背中に腕を回した。
「どうした?」
「ちょっと、下を見るのが怖いからこうさせて……」
あたしは、我が儘を言った。ほんとは自分がどんな顔してるか見せたくなかっただけなのに。
「そうだな。今、ワープするしっかり捕まってろよ。落とされるんじゃねえぞ」
彼は、軽く笑う。
大丈夫。あたしは、もう恋に落ちちゃってるみたいだから。





