勧誘
「なぁ、さっき、見ちゃったのは俺が悪かったからさ、機嫌なおしてくれないか?」
「ッ!!!せ、戦斗君なんて、知らない!フンッ!!」
「あぁ~、戦斗が怒らせたぁ~」
「いけないんだぁ~」
「だから、謝ってんだろ」
なぜかなぎさはプンプンと怒りながらギャル二人組に慰めてもらっている。今はもう、俺が復元した服を着ているので裸ではない。
「なぁ、結城どうやったら機嫌がよくなるんだ?」
「さぁ、僕は知らないよ。それにさっきの追い討ちはちょっと……」
大したことのないように、結城に軽く受け流される。「ちょっと」なんだよ。続きが気になる。パーティに支障が出るからあまりギスギスしないでほしいのだが、学校ではぼっち、ダブマスでは遊太としか組んだことがないから団体行動がよくわからない。
「あんまり、気にしなくていいと思うよ。時間が経てばもとに戻るから」
「そんなもんなのか?」
「そうだね、戦闘体制に入ったら切り替えれるよ。そんな感じだから」
「まぁ、それだといいんだけどな」
わからないけれど、いつも、つるんでる結城が言っているのだから間違いではないだろう。
「ところで、戦斗君達はどこに向かっているの?」
「あぁ、ここの教祖様に会いに行こうとしてるんだ」
俺は、なぎさの質問に答える。
「それって校長室に行くってことかい?」
「いや、俺と理解が戦っている時に、見えたんだ。この学校には少し離れた場所に何千人も入ることが出来るデカい運動場があるだろ。あそこに人が集まっているのをチラッと見たときに確認できた。あそこに集まっているのだろう」
「人がたくさんかい?」
「あぁ、たくさん」
俺の言葉をきき、結城はごくりを喉をならす。さっきまでの雰囲気はなく、静粛になる。
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――数分後。
俺達は選手控え室から運動場へと足を踏み入れる。ここまで警備と言えるものはなにもなく、簡単にここまで来ることができた。
運動場は、陸上競技場のようだった。真ん中には芝生が生えている部分には開会式のように人がたくさん並んでいる。コロシアムのような観客席にも隙間に敷き詰めるかのように人が座ってこちらを見ている。
「ホッホッホ!待っておったぞ、神谷戦斗くん」
朝礼台にスタンドマイクをセットした舞台にいる人物に声をかけられる。しかし、スーツ等ではなく、前回町中で会った宣教師のような服とは違い、カラフルな袈裟に模様が派手な肩衣をつけた格好をしている。
結城やなぎさ達もいつも会っている雰囲気と違うのを察して警戒しているようだった。
「前にあったときは、髭と髪で目だけ出してる状態だっからわからなかったが、教祖があんただってことは話聞くまでわからなかったよ」
俺は、変わり果てた校長先生の姿を見て告げる。全校朝会などで、顔は見慣れていたはずだ。しかし、顔を認識していた部分を隠されるときがつかない。
「ホッホッホ!儂も最初は君を政府のものだと疑って殺そうとしていたからのぅ。お互いに勘違いをしていたのじゃ。今や、政府はランカーを高額で雇って治安を守ろうとしているからのぅ」
「だったら俺は、関係ねーだろセントなんて名前は一度もランクインしたことはない」
「ホッホッホ!面白いことを言うではないか。儂はまず、儂を捜索する者がいるっていうのでのぅ調べておったのじゃ。そしたら、それは、女連れの元世界王者であり、ランカー荒らしと名高い人物だったのじゃ。警戒せぬわけにはいかないじゃろ?」
ニヤリと笑っているのだろう。髭と口角が少し動くのが見える。俺の正体を校長は昔から知っていたらしい。
「お主は政府の犬だと思っておったからのぅ。政府の奴等は儂らが半期を翻そうとしていることをつかんだと思ったじゃ。なら、消すじゃろう?」
「だから、山村を自爆させて俺もろとも殺そうとしたのか。いくら、理解に、俺の戦力を知りたいからってあそこまで本気で来るとは思えないしな」
「それはのぅ、彼女が教えてくれたからのぅ……」
スコアボードの横にあるでっかいモニターに両手を縛られて、どこかわからない断崖絶壁に吊るされている魔須美が映し出される。意識はなく、ぐったりとした様子で疲れているようだ。
「魔須美っ!!!」
俺はどこにいるかもわからない魔須美に、届くはずのない声をあげる。
「魔須美を殺したりしてねぇよな?」
「まだは、しておらんぞ」
「まだだと?」
「そうカッカするな。お主は彼女に感謝せねばならぬのだ。彼女に問いかけたらお主は、政府と無関係と教えてくれたからのぅ。彼女はずっと、戦斗は私の両親を探しているだけと、庇ってくれていたからのぅ」
「魔須美は事実を言っていただけだ。早く、解放してやれ」
「交換条件といかんかの?」
君の悪い微笑を浮かべ、校長は告げる。
「交換条件?」
「儂は政府軍を潰す。その手伝いをしてほしんじゃ。お主が了承すればよいだけの話じゃ。断った場合は死んでしまうかもしれぬ」
校長はモニターをチラッと一瞥する。俺が断った場合、断崖絶壁へと落とそうとしているのだろう。
「なんで、そんなに政府を目の敵にする?」
「言うべき言葉は"はい"か"いいえ"ではないのかのぅ?」
「それは、お前の娘の件と繋がっているのか?」
俺は、理解の言葉を思いだし質問する。校長は一瞬目を鋭くなるほどに細める。なにか、タブーに触れてしまったみたいだった。
「否定の意でいいのじゃな?」
「おい、まてっ!!」
校長は、ニヤリと笑い、ポケットに入っていたボタンを押す。
ギリギリリ!バチンッ!
結ばれていたロープが切れ、魔須美は落ちようとしていた。ガクンッと衝撃が伝わったのか意識が覚醒する。
「キャーーーーーーーーー!!!!!」
「魔須美いいいいいいいいい!!!!」
「ホッホッホ!愉快じゃのぅ」
何処かへ走り出した俺を見て、校長は不適な笑みを浮かべていた。





