聖女の復活
「僕たちが自らの死ぬというのは自害しろってことですか?」
「えぇ、そうです。もちろん、結城殿の後ろのお二方もです」
境花先生は後ろの翼、アスミを見ながら言う。
僕は、究極の選択を迫られていた。好きだった女性一人の命と僕とクラスメイト二人の命を天秤にかけようとしているのだ。有名なトロッコ問題のようにたちが悪い。
境花先生は、僕にそれを、つきつけていた。
「僕たちが死んだら何があるっていうんですか?」
「死は救済です。死ぬことでこの世のしがらみや、罪の咎と束縛から私たちは解放されます。そして、あの御方の元へ仕えることが出来るのです!」
境花先生は言いきった。色んな宗教がごちゃまぜになっている。あの御方とは校長先生のことだろうか。
戦斗君の言うことが本当なら校長先生は"ネクロマンサー"だ。死んだ人を甦らせる能力を持っている。それと繋がっているのだろう。
「じゃあ、死んだ僕の親友の想太や他のみんなは救われたんですか?」
「いいえ、彼らの魂は消滅してしまいました。消滅した魂は復活することはありません」
「消滅?」
「そうです。教祖様、あの御方は消滅する前の私たちの魂を拾ってくれたのです」
なんとなく、納得がいった。"ネクロマンサー"と言えどもこの現実世界では、完璧にゲームオーバー、つまり、死んでしまった人は復活させることが出来ないんだ。瀕死で意識を失った人を復活させていたのだろう。ダブマスにとっての瀕死の状態とはHPが一桁になった状態だ。
瀕死状態のプレイヤーを復活させてから、なんらかの形で自分の意図のままになるように操っているのだ。
「そんなこと認めらるわけないだろ!!」
「私たちの意思に歯向かうと言うのですね」
キリッと目を細め顔が変わる。
「上手くはいきませんか。あなた方を筆頭に、全員救済しようと思っていたのですが。まずは、なぎささんから救済しましょう」
ドンッ!と石になってしまったなぎさの背中を押す。ぐらりとバランスを崩したあと、床に倒れこもうとしていた。
「やめろーーーーーーー!!!」
僕の声が、体育館に響き渡った……
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「んなことさせねーよ!!!!」
体育館に向かっていた俺は、瞬時にワープして、石像になったなぎさを床から庇うように左手と体で優しく包み込む。既に傾いた状態だったので二人はそのまま重力に引っ張られる。空いている右手でスキル"生成"を使い、小型ピストルを展開させ、眉間に一発の弾丸を倒れこみながら撃ち込む。
「なっ……!」
自分で何が起こったか把握できないまま、境花先生は絶命する。光の粒子となって消えていく。
俺は、その間に床に背中から落ちる。なぎさのクッションとなるためだ。抱き抱えられたままのなぎさは無事だ。
「戦斗君っ!!」
結城は駆け寄ってくる。その後に、ギャル二人組も後を追ってくる。
「なんとか間に合ったみたいだな」
俺は、立ち上がりながら、なぎさを立たせる。
「それより、僕は君に謝らなければいけない。すまない!また僕は、何もでき……」
「いや、謝らなくていい。よくここまで耐えてくれた。それより、俺はお前の友達の仇をうてなかった。すまないと思っている」
謝ってくる結城を遮って俺は謝り返す。
「"シロ"いや、遊太の仇はとった。けれども、奴は、アカウントごとに命があるらしい。お前の友達までは、……」
「そうか……」
短く残念そうに呟くが、すぐに顔を変える。
「奴に、一泡吹かせれただけで今は十分だよ」
結城はそう言った。
「今、ここで立ち止まっていても駄目だ。気持ちを切り替えよう」
「そう、だな」
俺は、変わり果てた幼馴染みに目をやる。
「まずは、なぎさから元に戻すとするか」
俺は、状態異常回復をかける。けれども、反応がない。
よく、観察するが死んではいないだろう。生命維持活動が止まったら、光の粒子となって消えているだろう。鼻を確認する。呼吸をしているので表面だけを固めただけだろう。見かけ倒しだ。やることは決まった。理解が行ったことの逆をすればいいだけだ。
「わるい、みんな離れてくれ」
俺は、まず、三人を少し離れたところまで行ってもらう。この作業は至極難しく並大抵ならぬ、集中力がいるものだった。ダブマスでは数回だけやったことがあるが、現実では、やったことがない。だが、失敗は許されない。
脂汗で顔を滲ませるが、それを袖で振り払う。少しの不純物でも狂ってはいけない。俺は、目を瞑り右手でなぎさの肩の部分に手を置く。俺は、なぎさをイメージする。
"物質変化"はなくひとつの物質を違う物質に変えることが出来るものである。形と変える後の物質をイメージすればもとに戻せる。
さっき、観察した体のラインや形、体を構成している物質を頭に列挙していく。ダブマスで一度やったときに、体を構成している物質は暗記した。
その情報や力を一気に体に送り込む。すると、
ピリピリリッ!と卵の殻が割れるような音がする。そして、バリーンと破片が飛び散り柔らかい何かが俺に飛び込んでくる。俺はそれを優しく受け止める。
目を開けるとそこにはなぎさがいた。
「なぎさ、大丈夫か?」
俺がこえをかけると、
「んんっ……、せん、と、く……ん?」
なぎさが、目を覚ましたかのような声を出す。
「良かったよ。どうやら長く眠ってたみたいだからさ」
「そうなの?」
「覚えてないのか。まぁ、それがいいだろうゆっくり休んでくれ」
「戦斗君……。わからないけど、助けてくれたんだね、ありがと」
優しく微笑みかける。
すると、俺は、あることに気がつき目をそらす。
「あの、え~と、なぎさ前隠してくれると嬉しいんだが」
俺の言葉でなぎさは自分の体を見る。なんと、それは、生まれたままの姿で……
「ッ……!? せ、戦斗君のエッチ~~~!!」
「グフッ!なんでだよ!!」
顔を真っ赤にさせたなぎさは体をサッと隠しで、俺をグーパンで殴りやがった……。





