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勇者 対 唸る鞭 後編


僕は、言葉の通り武器なんて一つも持たずに真っ直ぐに突っ込んだ。



「考えもなしに突っ込んでくるとかあなたは、馬鹿なんですか?」



憐れむような表情をほんの一瞬だけ見せた後、顔を無表情に戻し、手に力をいれ鞭をふるう。



パシン!



「ぐっ!!」



僕は、鞭の動きが予測できず、右肩にダメージをうけてしまう。しかし、歩む足を止めない。



「はぁ、頭までうたれてしまいましたか」



パシン!



「ぐぅっ!!!」



まだ、僕は、足を止めない。



パシンッ!



痛い!鞭が僕の肉に一瞬食い込み離れていく。その過程が僕の体に傷をつけていく。



「まだ、諦めませんか」



パシンパシン!



唸る鞭と、自分の体に当たる音がする。しかし、歩みを止めない。服がボロボロになってきたのだろうか。はしはしに生地の痛みが見られる。



「もう、いい加減諦めて降参しません?」



パシン!



「ふぐぅっ!!」



変な声をあげながら右横に倒れてしまう。左頬に鞭をうけてしまったからだ。



それでも、僕は、動くことをやめない。ゆっくりと痛みに耐えながら立ち上がる。いつものように回復役はいない。うけた痛みやダメージはそのまま残っている。



「なぜ、そこまでするのです?」



眼鏡をなおしながらきいてくる。



「僕は、……」



なぎさはいつも僕を助けてくれた。回復をしてくれたり、”聖女の祈り”でサポートしてくれたり、なにより精神面で未熟な僕のそばにいてくれた。好きとかそういう感情ではないだろう。恋のベクトルが違う人間に向いてることなんて知っていた。


「馬鹿正直で真っ直だ。理解が言っていたように自分の答えが正義だと思っていた。まるで、子供のように。なぎさが止めてくれなかったら僕は、ダークサイドに落ちていたかもしれない。それに、」



そんな、"彼"と再開した時は、僕は少し嫉妬していた。しかし、彼は今までの彼と違っていた。僕が苦戦していたファイアードラゴンを倒し、音楽室では捕らえられていた僕を救ってくれた。迷いのあった自分の背中を押してくれた。そんな彼の期待を裏切れない。


それに、




「僕は、僕に関わってくれた皆に恩返しがしたい。それだけだっ!!!」




最後の力をふり絞り駆け出す。



「どうでもいいですね」



境花先生は鞭をふるう。先生、どうでもよくないですよ。先生だって僕に関わってくれた人なんだから。僕が呪縛から解いてあげる。



(今度は今のこの鞭だけは絶対に離さない!)



横を平行移動してきた鞭を両手で受け止め掴みこむ。左手で鞭を固定した後、右手首にすぐ巻きつける。そして、地面と平行になるよう引っ張る。


これで鞭の動きを無力化させることに成功する。



「あなたは、どこまでも正義馬鹿なのですね。私のジョブは」




すると、ピンと伸びていたはずの鞭が緩みだす。



「"道化師"です。こんな格好してますけど」



僕は、その言葉で鞭が伸びたことに気がつく。"道化師"は魔法ではなく、マジシャンやサーカス団のように道具を巧みに操ることができるジョブである。彼女は"道化師"の能力を使い鞭の長さを伸ばしたのだ。


僕のつめた距離はまた、ひらかれようとしていた。


その時、


「「結城くん!!これを!!」」



体育館についてきてくれたアスミと翼が俺に何かを、投げつけてくれる。それは、吹っ飛ばされた僕の剣だった。僕たちが闘っていたときに勇気を出して拾いに行ってくれたのだろう。



「ありがとう!!」



僕は、巻きつけていない左手でキャッチする。境花はヤバイと感じたのか僕から走って逃げようとする。



「待て!!」



僕は、鞭が飛び交うことが出来ない、今を狙って、今しかないと思って床を思いっきり蹴り飛ばし、飛びかかる。弱いと言っても僕のジョブは勇者だ。普通に身体能力は高い。一気に距離をつめる。




「!!!」




そして、僕は、左手で境花先生の右胸の上あたりから左脇へと袈裟斬りをする。



「うっ!!」



境花先生はその場に倒れこみ、力が抜けたのか鞭もゆるゆるのロープのようにその場に力なく落ちていく。



「はぁはぁ」


僕は肩を上下させながら、息をきらしたように呼吸を繰り返す。



「結城くんやったじゃん!!」

「やっぱ、すごいし」



アスミと翼が近づく。僕は、境花から一瞬目を離した。しかし、それがいけなかった。



「くっ!」



一瞬で立ち上がり、鞭を手にし、僕たちから距離をとる。戦斗のように一発キルすることが出来ていなかったのだ。



境花先生は鞭で体育館倉庫の扉をぶち壊し、そこから、器用になにかに絡ませてそこから人型の何かを取り出す。それは、



「なぎさっ!!」



石像と化したなぎさの姿だった。なぎさの首に、手を回しまるで人質のように扱う。



「あ、あなたたちが……、この場で自ら死ぬのか、この石像が壊れてしまうのかを選びなさい」




境花先生は既に死んでいるはずなのに、生きるために足掻いていた。呪縛は解かれていなかったのだ。僕は、誰も救えなかったのではないかと自分に問いかけていた。

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