二人の思い
「ねぇ、リアルでダブマス出来るようになるってマジ?」
「らしいよ~。リアルで剣ふって倒したり、魔法使えたり楽しそうじゃね?でもうちらなら楽勝しょっ!!」
「だよね~。てか、昨日のオセロ超かっこよくない?マジぱないんですけど」
「わかる~」
俺は数パターンしかないんじゃないかと思うギャルどもの会話を耳にしながら登校する。
「カミセン!カミセン!ちょっとこいよ」
すると、隣のクラスの遊太が俺の元へとやってくる。いつもは、お互い学校では一切介入しないのに今日は珍しい。ともあれ、俺は断る理由もなくついていく。
「どうしたんだよ、こんな人気のない屋上まで呼び出して。これはなんだ。あれか、告白かっ!!」
「バッキャ野郎。お前に渡したいものがあるんだよ。ほらよっ」
遊太は俺に黒く四角いUSBを俺に投げつけてきた。
「なんだよ。これは……」
「これは、……過去のお前だ。お前が消したデータを俺が修復した。そして今のお前に合わせてある」
「過去の俺って……。お前まさか……」
俺はその一言で全てを察する。
「遊太っ!!お前、俺が過去を捨てたこと知ってんだろ。なんでこんなことすんだよ!!」
「もちろん。カミセン、いや、戦斗がセントを捨てたことは知っている。けれど、俺は……、お前のあのゲームスタイルが好きだったんだよ」
「はぁ??」
遊太は何かを決意したように話し出す。
「俺の両親実はさ、WMSの創設者なんだ……」
「お前の両親が……、あの……」
「で、俺全国大会の様子見てたんだよ。初めて感動したよ。このモーションの時は、斜め四十度から攻撃が来るとか、そういう少しの動作を把握していた。製作者が意図してつけたモンスターやプレイヤーの動きを熟知していたんだよ。製作者としてこんなに嬉しいプレイヤーはいない」
「じゃあ今まで俺に近づいてたのって……」
「そうだな……。お前にWMSの楽しさをもう一度知ってもらってセントとして活躍してほしいって思ってた。ごめん……」
「……」
「カミセン、ごめんなけど、お前をあ……」
「もういい。俺に一切かかわらないでくれ。俺は、もうセントではないんだ!!」
「カミセンッ!!」
俺は遊太を背に屋上を飛び出した。
「すまんなカミセン。けど、お前へのプレゼント選び失敗しちゃったみたいだな」
その時、遊太が小さい声でつぶやいた声は誰の耳にも届かなかったのであった。
俺は教室に戻り、一人突っ伏していた。俺がセントを捨てたのは母親への反発と親を救えなかった女の子の償いだと自分で考えていた。なので、いまさら、セントでやるつもりはなかった。俺は悶々としていると、
「戦斗くんちょっといい?」
俺が顔を上げると、黒髪おさげの清宮なぎさ<せいみやなぎさ>だった。こいつは俺の幼稚園からの幼馴染で委員長をやっていて、WMSでは高火力ヒーラーだったのでちやほやされてる。ちょくちょく俺に話しかけてくるがスクールカースト上位が下位になんの用だと考えてしまう。
「なんの用だ。なぎさ」
「戦斗君今日誕生日でしょ。だからはいっ」
「そういや、そうだっけな」
俺は可愛くラッピングされた袋を受け取る。
「頑張って作ったんだからちゃんと食べてね」
「あぁ、わかったよありがとな」
「なぎさ~、そんな陰キャいいから早く放課後にやるWMSの計画練ろうぜ」
「あっ、うん。わかった。じゃあ戦斗君じゃあね」
「あぁ……」
なぎさはクラスのリーダー的存在、鑑勇気<かがみゆうき>に言われそっちのグループに向かっていく。
というかすっかり忘れていたが、今日はどうやら俺の誕生日だったらしい。遊太も誕プレであれを渡したのかな。俺はポケットに入れていた、USBを眺める。
「まぁ、もう関係ない話か……」
俺はUSBをそっとポケットの中にしまった。