刹那の一撃必殺~フェンリルの群れを荒らす~
ガルルルゥ!!!
白い狼の姿をした全長3mくらいのモンスターが俺ら目掛け、群れをなし、涎をたらしながら走ってくる。
"フェンリル"はファイアーウルフなどのCランクの雑魚モンスターではなくAランクのモンスターであり、さっきまでのように一発キルは難しくプレイヤー達は倒すのに相当手こずる印象がある。
しかし、"フェンリル"自体は集団を嫌い比較的少人数で行動しているはずである。その性質をも奴等は変えてしまったのかもしれない。
ここは、草原などのだだっ広い場所ではなく狭い廊下なので芋の子を洗うように隣のフェンリルや壁にぶつかりながら迫ってくる。
「あんなのうちら勝ったことないじゃない」
「やばいし!うちら」
二人のギャルがその光景を見てギョッとする。
「くっ、さっきまでのDランクのモンスターではなく、Aランクのモンスターがこんなに!!勝てるかわからない。みんなも気をつけっ!!って戦斗!!!」
結城が言い終わる前に俺は、走り出した。戦闘ゲームでは1/100秒でも遅れれば命取りだ。それは、現実である戦場も同じことだ。
(黙っていただけじゃ奴等に荒らされる。それじゃ、ダメだ。俺が、あの群れを荒らす!!!!)
威力が強い魔法をぶち当てて敵を全滅させることも一瞬脳裏をよぎったが、行き先が潰れてしまうのと、捕らえられた仲間がどこにいるかわからず危害を加えてしまうことを考慮して、一体一体確実に倒していくことを選んだ。炎のモンスターなので爆風でどのくらいの被害が出るかわからん。
しかし、後ろの三人はフェンリル相手に戦えるとも思えない。
そこから、導き出される答えは一つ。
獲物が動いたと認識したフェンリルは、一斉に俺を視線の先に捉え、威嚇する。
ガルゥゥゥ!!!
数匹が俺の動きを止めようと口からファイアーウルフとは比べ物にならないくらいどでかい火球を吐き出す。ちょうど、一時期流行ったバランスボールぐらいの大きさだろうか。
「邪魔だ!!」
俺は、"ブリザードランス"を火球に当て、相殺する。相殺したその一瞬、火球は広がり視界が狭くなる。
ガルゥゥゥ!!
先頭集団の一匹が俺の腕に噛みつこうとしてくる。俺はその刹那、腰に帯刀しているエクスカリバーを抜刀し、瞬時に頭を狙い斬る。
クゥン!!
フェンリルは致命傷を負い絶命する。
一発キルである。
これが、俺がさっき導き出した答えである。いくら、エクスカリバーで、斬ったとしても一発で倒すのは難しい。しかし、モンスターには弱点がある。そこに、攻撃を当てることで攻撃力が倍になるのだ。
しかし、これを行うのは普通の人間では無理である。一ミリでも高さや深さがズレてもそれが命取りとなる。
しかし、なぜそれが戦斗に出来たか。それは、一大会で優勝した実力があったからだ。
しかし、この技は至極難しく、現優勝者が狙って出来るかと言われたらノーだろう。
(今は、確実に倒すことだけに集中しろ。少しのミスが命取りになる。それだけだ)
今目の前では、二体が飛びかかってこようとしている。俺は、そいつの頭を狙って横にぶった斬る。フェンリルはあまりの、早さに何が起こったかわからないまま絶命する。
二匹同時一発キル!
俺は、斬った動作を終えた段階で、先頭集団の三体を視界に捉える。死んだかを判断してから行動を移しては遅い。
俺は、さらに走る速度を上げ、踏み込んだ。踏み込むと同時に右、左、正面と斬っていく。斬りながら、俺は進んでいく。
「や、やばくね?あいつ」
「何してるか全然見えないし」
「…………」
後ろで話している声も集中している俺の耳には届かなかった。
敵の狙いを定めて斬るという独自のテンポを俺のなかで作り出す。
右からかかってくる。斬る。
右斜めを斬る。
飛びかかってくる敵を斬る。
飛んでくる火球を避けて斬る。
その状況見ていた後列のフェンリルは後退りする個体も見えはじめる。
それでいい。相手の動きが少ない方がやりやすい。
そして、俺が一体を倒したとき時だった。フェンリル全体の動きが止まった。たった1/100秒だけ止まった。俺は、その瞬間見逃さなかった。
「加速っ!!!」
俺は、走る速度をあげフェンリルを追い越していく。
すべてのフェンリルを追い越した時、俺は、その場に止まる。
時間が止まったように静かになる。
バタッ!
バタッ!
バタッ!
バタッ!バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタッ!
フェンリルの、大きい体が倒れていく音がきこえる。
「…………え?」
「…………どうなってるの?」
「うそ……だろ……」
三人は、俺が何をしたのかよくわからず、状況が飲み込めないでいるらしい。
俺は、フェンリル全ての動きが止まった一瞬を狙い一体一体の弱点を繋ぐ軌道を描き、加速して斬った。
そう、群れ単位のフェンリル一発キルをしたのだ。





