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良くない潮流


ここは政府がゲームについて研究を行っている施設、国立ゲーム開発・発展センターである。


ここでは、遊太の父、遊代と遊太の母遊子の二人がトップであり、責任者として働いている。


「遊子。あと、私たち、いや全人類の希望が完成する。それまで後もう少しだ頑張ろう」


「えぇ、パパ。これが完成したらやっと遊太や遊香に会えるのね」


「そうだ。あとは制御プログラムを入れれば完成だ。リアルの世界がゲームの世界へと近づいていく人類の新たな一歩へとなるのだ」


ここの研究所では、今国を動かしていると言っても過言ではないWMSの3D映像に質量を持たせ、現実世界でもモンスターを出現させて実際に戦わせるというプロジェクトを立ち上げていたのだ。


しかし、そのままモンスターを出現させると街を破壊してしまう。そこで、制御プログラムが必要になるのだ。


そして、それらを可能にする、国もすすんで開発させた機械の名前は”substantial Illusion”。略してSLi(シリィ)と呼ばれていた。


「よし、制御プログラムを今から組み込んで早く息子たちに会おうではないか」


「そうね。じゃあはじめようかしら」


二人が帰りを待っているであろう子どもたちの顔を思い浮かべながら作業を始めたとき……



ビビビッ!! ビビビッ!!


「どうした。何があった」


「シ、システムが暴走しているわ。」


「なぜだ、なぜここまで完璧だったのに……」


「もしかして……。やっぱりそうだわ。制御プログラムをSLi<シリィ>が拒絶しているんだわ」


「バカなっ!!」


「履歴で誰かがプログラムを書き換えているいるんだわ。IDを今検索する--」


キュイーン!!!!!!!!!


その時、SLiが暴走して起動する音が聞こえ出した。


「まずいっ。遊子!!ここを今すぐ離れるぞ」


遊代が遊子をパソコンから引き剥がそうとした瞬間、


ドガーン!!!!!!バキバキバキ!!


彼らのラボの鉄やコンクリートで出来た扉が崩れだし、粉塵が舞いだす。その煙とも言える様な靄から異形のシルエットが浮かび上がる。煙の中から出てきたのは2.5メートルくらいはあるであろう全身筋肉で覆われ、顔は牛の形をしている斧を持った異形の怪物が立っていた。


そう、怪物の名はかの有名なミノタウロスであった。


WMSのゲームのキャラがそのまま目の前に現れたのである。


ミノタウロスは斧を振りかざそうと勢いよく二人に近づいていく。


グルウウウウ!!!


「遊子!!危ない!!」


「パパーーーーーー!!」


遊代は巨体から繰り出されるパワーで吹き飛ばされる。見た目で判断するにも重症の部類であるとわかるくらいである。


「キャーーーーーーーーーー」


その夜、ラボには悲鳴が響き渡ったがそれを聞いていたのは二人と一匹だけであった。







ちょうどその頃、俺は、そんな地獄のはじまりのような出来事が起こっているなんてつゆ知らず、自宅にちょうど着いていた。


「それでさ、WMSが現実世界でもプレイできるときが来るかもしれないんだよ。超楽しみなんだけど」


「そうね、それはいいことね~」


二人の女性の話し声が耳に入ってくる。


「ただいま」


「…………」


「…………」


二人の女性が俺の挨拶を無視する。台所で料理を作っているのは俺の母親である、神谷静子。黙々とご飯を食べているのは生意気ツインテール妹こと、神谷千草である。


妹が食ってるのは妹が大好きなハンバーグだった。今日の学校のWMSテストでいい成績を修めたことが一目でわかる。


「何、こっち見てんの?」


「見てねぇよ」


「あんたみたいな自分のIDを消去するような反社会的存在から見られるとご飯がおいしくなくなるんだけど……」


「はぁ、そうかよ」


俺の視線が気になるらしくて、いちゃもんつけられたので俺は素直に自分の部屋に引きこもりにいく。十年前の世界大会優勝後、俺はこの世界では人権の証とも言える自分のゲームのIDを消去した。国民一人につき、一つだけ渡されるそんな貴重なIDを俺は自分から手放した。つまりそれは、自分で自分を社会的に殺したと同義であった。


今思えば自分の存在意義を確かめるためだったのかもしれない。


しかし、得た物はこの世界において今の自分は無意味だということだけだった。このまま、自分は何にも関心を示さず、無価値のまま終わるのだろうか。


あふれ出てくる感情や考えを抑えきれずに俺は夜空を見上げた。


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