追い続ける物
「ダークスラッシュ!!!」
俺は飛んできた三日月形の黒いビームをバク宙し、避ける。
「ホーミング!!」
「なにっ!!」
俺の後ろに飛んでいったビームが戻ってくる。ホーミングという魔法は何か物にぶつかり消滅するまで追ってくる厄介な魔法だ。
俺は、後ろを振り返りながら横に回転しながら避ける。
「まだ、余裕があるようね。ダークスラッシュ!ダークスラッシュ!!ダークスラッシュ!!!」
牧野先生が空中を指で横になぞった軌跡から三つのビームが飛んでくる。さっきのも合わせて音楽室では計四つのビームが俺の周りを飛び回る。
俺は、全てゴム段の要領でビームを様々な形で避けていく。しかし、”ホーミング”の魔法がついているから避けるだけだといつまでも追尾してきてしまう。
「バリア!!!!」
俺は、自分前後に一枚の板のような縦型のバリアを貼る。バリアとダークスラッシュをぶつけさせて相殺しようと考えていた。
「なにっ!!」
しかし、俺の貼ったバリアはビームが当たった瞬間三日月形に形を変え俺を襲いだす。俺はバク宙してよける。
しかし、着地した後もまだ追ってきているので俺は走り出す。これで二つのビームが増えてしまった。
「神谷君……自分で自分の首を絞めるなんてあほな子ね。私のダークスラッシュは物質にぶつかると、その物質を可能な限りダークスラッシュに変えてしまうのよ」
「ご丁寧に説明ありがとな」
それにしても、このまま逃げるだけじゃいたちごっこだ。音楽室で腕を組んで高笑いしながら俺の様子を高みの見物している牧野先生にぶつけようか考えたが、優しくしてもらったことが尾を引きやる気にはならなかった。
ワープして一旦、この学校から出ようかと考えたが、また入りなおすのも億劫だし、早く、教室塔のほうに向かいたかった。
そうこうしている内に、楽器がたくさんおいてあるゾーンまで逃げてきていた。
俺はスライディングし、木琴の下にもぐりこむ。そして、六つのうち二つが木琴に当たり木琴がビームに変わった。
しかし、物質を変換させるためにエネルギーが尽きたのか、二つのうち一つは消滅する。しかし合計数ではプラマイゼロであるから何も変わらない。
「あらあら、まだ余裕があるのね。じゃあ増やしてあげるわ。ダークスラッシュ!!ダークスラッシュ」
「ざっけんなよ!!」
俺は計八つとなったビームに追われて逃げている。たしか、闇属性のダークスラッシュを消すには光属性を使えばよかったはずだ。
「ライトウォール!!!!!!」
俺は、光の壁をつくる。バリアに属性が付いたようなものだ。
ジュンッ!!
光の壁に当たり、消滅していく。目視では、七つ消えたように見えたが、八つの消滅する音がきこえたので、解除する。
しかし、俺の背中に大きな衝撃が走り俺は前方に吹き飛ばされる。
「グハッ!!!!!!!!」
「フフッ。お仕置き成功」
にこやかにそして、床に倒れている俺をさげすむような目で見ている牧野先生がいる。
たしかに、あの時はビームの消滅する音が八つきこえたはずだ。けどなぜ、……
「どうやらわからないって顔してるわね。私がなんの魔法使いか覚えてないのかしら」
俺は、今の言葉で納得がいった。
「”音を操る魔法使い”」
「そうよ、闇属性の魔法使ってるから忘れちゃったでしょ。けれど、あたしの本職はこっちよ。”ハイパーボイス”」
「うぅ!!」
そう唱えると、きこえるはずがない工事現場のドリルで地面を削るみたいな大きな騒音が響いてくる。耳を手でふさいでも何も変わらない。
(くそ、音をでかくしやがったな)
大抵日常生活のなかでも無音という状態は真空でない限りありえない。
しかし、電気の音だったり、心臓の音だったり、血液の音だったり、超音波レベルまで突き詰めれば突き詰めるほど、音は存在する。牧野先生は”ハイパーボイス”を使って対象者の俺だけを音に敏感にさせたのだ。
直接的な攻撃ではなく、身体に傷は着かないがこれをずっときかされてるとメンタルがやられそうだ。
俺は、鳴り止まない音に苦しみながら脱する策を考えていた。





