闇の音楽室
階段を昇るとそこは、教室塔へと続く廊下があった。俺は、教室塔に向かって歩き出そうとする。
すると、音楽室からベートーヴェンの「月光」が弾かれているのがきこえてくる。明らかに罠だ。俺はスルーしてそこから遠ざかろうとする。
「神谷君、本当に無視してもいいのかしら……」
きいたことがある声が音楽室からする。そこにいたのは、音楽の教科を担当していた牧野先生だった。牧野先生は新人2年目ということで、とても真面目で気が弱かった先生で慕っている生徒も多かった。
しかし、変わりようがひどい。今の見た目だとS気の強いお姉さんにしか見えない。衣装は魔須美と同じように魔女の服装をしている。違うのは色が少し黒がかっているところだろうか。
ジョブは”魔女”で黒魔術などの禁忌の魔法を得意とする黒魔女なのだろうか……
「無視していいってどういうことだ?」
俺は、質問の意図を汲み取れず質問に質問を返す。
「見た方が早いわね。音楽室にいらっしゃい」
俺は牧野先生の後に続く形で音楽室に入る。音ここの高校は合唱部、吹奏楽部共に全国大会まで行くほどの実績を持っており、普通の学校よりも広く、厚い鉄か何かの扉で二つに仕切られていた。牧野先生は扉を開けるスイッチを押す。
すると、扉の向こうにいたのは、元クラスメイトの結城とギャル二人だった。三人は円柱型の透明なカプセルに入れられていて、俺を見るなり手で叩いて何かを訴えているがまったく何もきこえない。
「彼らがどうなってもいいのかしら?」
牧野先生はS気の強い鋭い目で俺を見下しながら怪しげな微笑を浮かべている。
「学校の先生や元クラスメイトがこんな状況になっているのは、意味不明でまったく理解できないが俺には関係のないことだ。戦わなくて済むなら俺はこいつらを無視するぞ」
俺は、冷たくも吐き捨てるように言い放つ。しかし、その言葉を受け取り牧野先生は困ったような顔になる。
「困ったわぁ……。教祖様から時間稼げって言われてるんだけどねぇ……。そうだ、彼らを助けるかどうか彼らにプレゼンさせましょう。その三人の意見をきいてから考えてみない?」
「はぁ……、時間がないんだが、仕方ねぇな」
俺は牧野先生の提案にのる。何が彼女をここまで変えたかわからないが、学校時代のときに親身になってくれたり、お世話になったのだ。
「じゃあ、翼ちゃんどうぞ」
牧野先生が指ぱっちんするとガラス板を叩く音がきこえてくる。
「あっ。ちょっとあんた、教室で一人暗かった戦斗でしょ。助けれるならうちらを助け……」
「次いってくれ」
俺は、言葉の途中で遮る。こんなもので助けようと思う人間がいるはずがない。
「はぁ~い」
牧野先生がお口にチャックのしぐさをすると、音が聞こえなくなる。そしてもう一度指パッチんすると、隣のギャル子の声がきこえるようになる。
「助けて!!今までのこと謝るからさ!!」
「質問していいか?なんでみんな捕まってるんだ」
「それh……」
「はいストップ」
牧野先生に止められる。
「おい、なにすんだよ」
「プレゼンなんだからきいてなきゃダメでしょ。じゃあ、最後ね」
こちらに選択権がないかのように話は進められていく。
最後に結城の口があけられる。
「戦斗この前は助けてもらってすまない。そしてこれまではすまんかった……」
「そうか……」
「せ、戦斗っ!!まってくれ!!俺らをこんな風にした奴の名前を教える。そいつの名前は……」
「はいストップ」
牧野先生にまたもや止められる。発言権がこれじゃまったくなくプレゼンと言えるか怪しいレベルだ。俺に助けさせようとしてるのか何をしたいのかまったく理解が出来ない。
「そろそろサンプルも揃ったし時間的にいいかな」
「は?」
すると、牧野先生が語りかけてくる。
「私はね、音を操るのが得意な魔法使いなの。で、あなたの声のサンプルデータを教祖様に送ってあげたのよ」
「んなことしてどうすんだよ」
「決まってるじゃない。教祖様の所有物なんだから教祖様が好きなように使うわ」
「あほらしっ……」
「さぁ、私と戦いましょうか」
俺が吐き捨てたことも無視して意味不明なことを言ってくる。
「はぁ?お前なに言って」
「次の私に与えられたミッションはあなたを倒すこと。これが成功すれば、社会で誰にも認められなかったわたしはやっと認められるようになるわ」
「牧野先生いい加減目を……」
「ハハハッ!!ダークスラッシュ!!」
「ッ!!!」
俺は飛んできた黒い三日月形のビームを避ける。あれは当たっただけでもなんらかの状態異常になる闇属性の攻撃である。
「ハハハ!!まだまだいくわよ」
「はぁ……、戦いは避けられなかったか……」
俺は別人と思うくらいに変わり果てた先生を真正面から見据えた。





