二人の世界
「いつもどおり勝手に入っていいぞ」
いつも通り、遊太の秘密基地とも言える小屋の中に入る俺ら。こいつの両親は今引っ張りだこで有名なシステムエンジニアである。当然、金持ちなわけで息子のために小さな小屋まで作ってくれて中にはゲーム機やらコンピューターやらの最新機器からレトロなものまで揃いまくっている。
VRゴーグルとゲーム機を起動させ、コントローラーを俺に渡してくる。
「二人で狩りの始まりだ」
「付き合ってやんのは、一時間だけだぞ」
コントローラを受けとり、VRゴーグルを装着する。
文字入力画面が表示され、ハンネとパスワードを入力してログインする。
すると、殺風景だったコンクリートの囲いは消え、辺り一面草原へと映り変わる。俺の服装は制服から、動き回りやすい黒いコートへと変わっていた。顔の下半分は黒いマスクで覆い隠されている。まぁ、学校の奴らとかに見られたくないしな。
本来コートは攻撃力や防御力が皆無なのだが、遊太が親譲りのプログラミングスキルで設定をいじったらしくすべてのパラメーターがMAXをたたき出している。遊太曰く、装備がインフレして最大数値が上がったとしてもMAXに設定してあるのでゲーム界では常に一位を取れるらしい。
俺は服装はこだわらないので鎧とか布きれでもなんでもよかったのだが、遊太が「かっこいいのにしよう」とこだわっているらしく俺までコートになってしまった。
「よっし、無事二人とも合流できたようだな」
後ろから、わくわくした声で白いコートを羽織った全てマスクで顔を覆った遊太がはしゃぎながら、指を鳴らしている。
「そうだな、シロ」
「真顔で言うなんて、テンション低いねぇカミセン。俺を見てみろ。うきうきしちゃってにやけがとまらないぜ」
「バカヤロウ。ゲームの世界でリアルの名前出すな。誰がどこで聞いてるかわかんねえだろ。それにお前の表情はマスクで見えねえよ」
「そっかそっか。ごめん、ごめん。じゃあ気を取り直して行っちゃいますか。相棒のクロ」
「あぁ、当たり前だ」
俺とシロは今のイベントのせいで大量発生しているドラゴンがいる街にワープする。
本来なら、聞き込みなどで情報をゲットして一度訪れた場所でないとワープ出来ないのだが、遊太のチートのおかげでワープ出来る。
街を見下ろせる丘に着くとドラゴンがはちゃめちゃに店などを壊している様子が見える。
人々はドラゴンの攻撃から逃れようと必死で逃げ惑っているようだ。大抵の人は非戦闘系の人だろう。
このゲームではリアリティを追及しているので商売や一次産業にはまってそれだけをやっている人もいるので今回のイベントはお店を出している人にとっては痛手だ。望遠鏡なしで何で見えるかはスキル”鷹の目”を遊太のおかげで使えるからだ。
「あぁ~あ、すずきさんのパン屋さん。あそこまでぶっ壊れてるよ。美味かったし看板娘のちーちゃん可愛かったのにひでぇドラゴンだな」
「シロ……お前、そのマスクで買い物してんのか。変質者だぞ」
「んなわけねえだろ。そんな哀れむような顔で見るな!”変身”のスキル使ってイケメンになって買ってるに決まってんだろ」
”変身”というスキルは本来なら一分間、役職がウィザードなら三分、忍者なら一時間で、触れた物だけに変身できるという制約があったが、俺らの場合は無限に思ったものなら何でも変身できる。
「ちーちゃんの泣き顔なんて見たくないからさっさとドラゴン全滅させちまおうぜ、クロ」
「動機が不純だと思うがまぁいいか。日頃のストレス解消のために散ってくれ。ドラゴン」
俺らはそういうと大地を蹴りつけ空を飛んだ。
本来なら飛行アイテムや魔法でないと飛べないのだが、一言で言ったらまぁ遊太のおかげってことで……
ドラゴンの近くまで一気に迫ったら剣を召喚し、切りつける。
ぐぎゃああああああ!!
切りつけられたドラゴンは断末魔の叫びをあげ消滅していく。本来なら……もうめんどくさいので遊太のおかげてことで(以下略チート)。
遊太は街全体にバリアを張っている。空中と街を完全に分けてドラゴンの被害を抑えるつもりらしい。
そして、両手を広げかざす。
「エレメントアターーーック!!」
クソダサい必殺技名と共に全属性攻撃がドラゴンたちに飛んでいく。水だったり火だったり闇だったり色んな属性のドラゴンがいたが、みんなひとたまりもなく消し去っていく。名前のわりには非人道的で恐ろしい攻撃だ。ドラゴンが全滅したと目視出来た遊太は透明なバリアで出来た床に足をつける。俺は飛翔しながら遊太に近づく。
「シロ。お前あんまり派手なことすんなよ。またみんなに注目されてネットニュースに書かれるぞ」
「クロ、俺らはこのゲームの人気アイドルなんだ。目立たなくてどうする」
「ダメだ。こいつなんとかしないと……」
「ジョークだよ、ジョーク。ドンだけ注目されても垢BANされないようにしてるから大丈夫だぜ」
「そういう心配じゃなくて……。俺はあんまり目立ちたくないの」
「何言ってんのさ。討伐ランキング世界一位の”クロ”さん」
「……」
そうなのである。俺らはチートを使ってランキングの一位、二位を独占しているのである。最初は、ゲームでカーストを決める今の社会のアンチテーゼのつもりでノリノリで始めた活動だったが、ここまで来ると取り返しがつかないほどに大きくなってしまった。しかも、遊太は注目が集まっていると感じたときにはもう垢BAN対策をしていたのである。こうなったら、取替えがつかない。
まぁ、現実世界の俺が評価されているわけでもないし、いいかなと勝手に思っているところもあって……
「てか、シロ。ドラゴン秒殺したらもうやることないだろ」
「いや、ちーちゃんのこと考えたらつい~」
マスク取ったらてへぺろって感じで舌を出しているんだろうなぁと思うオーラを出しながら頭をかいている。野郎だし別にかわいくもなんともない。
そんなこんなしてる内に、地上では野次馬が集まりだしていた。
ドラゴンを倒そうと情報をきいて集まった騎士の格好したどっかのギルドの人たちは悔しそうな顔をしてる奴も見受けられる。
「また、こいつらか。どっから情報聞き入れてんだよ。通知ききいれて一番乗りできたのによ」
「きゃ~あの二人また高レベルモンスター倒してるわよ。かっこいい~」
「すげぇ。伝説と呼ばれるオセロの二人初めてみちゃったよ」
「マジぱなくね?やばくね?」
「マジ卍。モノホンのオセロとかマジやばワロスなんだけど」
「おい、オセロって俺たちのことか?」
耳打ちしてくる遊太は俺たちがどんだけセンスのない名前で呼ばれてたか知らないかったらしい。
黒と白の服着てるからオセロとかいう安直な名前をつけられていることに……
「ダサい俺たちの名前がわかったことででっかく張られたバリアをさっさと消して高レベルモンスターがいる次の街にでもワープしよう。ここをさっさと離れたい」
「そうだな。なんか恥ずかしくなってきたわ」
そういうと、バリアを消して次の街へワープした。
あの後、街を数箇所まわり、敵をぶったおしてたら一時間過ぎたので、WMSをログアウトした。
「ふぅ、今日も荒らしたな」
「そうだな」
「明日も学校帰りに荒そうな」
「誘い方が荒っぽいのは気になるが、まぁ、いいよ」
俺は、ふと遊太の物がたくさん置いてある机らしき、何かの上に子どもの頃に両親と撮ったのだと思われる写真を見つけた。
「そういえば、お前の両親一回も見てないけど、システムエンジニアってはきいてんだけど詳しくはなにやってんだ?」
遊太のチートすぎる部分も含めて両親のことが気になってきいてみてしまった。
「あ~、俺も詳しくは知らんけど、政府の大事な仕事を任されてるってのはきいたかな」
「お前っ、それすげぇやつじゃん」
「まぁ……な。ただ、妹も寂しがってるからせめて顔を見せろとは言わないから電話くらいかけてきて欲しいものなんだがね」
「政府からの仕事って言ってんだし忙しいからしゃ~ないだろ。けど、すっげぇなぁ、遊太は。本垢で実力でねじ伏せることしないで。本垢でブイブイ言わせて親のこと話したらスクールカーストトップに君臨するのにそれしないなんて」
「それはカミセンも一緒じゃないかな(ボソッ)?」
「えっ??今なんて?」
「いいんや。こっちの話。気にしないでくれ」
「……。おぅ、そうか」
俺は、最後に言った遊太の言葉が聞き取れなかった。そして、何気なくきいた遊太の親の話が実は大きなことだとはこのとき、まだ二人は知らなかった。