明かされたトリック~狙撃手を荒らす~
外からの視界が悪い本屋の中にいる俺らを撃ってくる狙撃手。しかし、今だに正体もつかめないでいた。
「くっそ、こんなとこまで撃ってこれるのか」
正直、みんな困惑していた。姿は見えないのに銃弾だけは俺たちを狙っているのだから。
「とりあえず、どっかに隠れろ」
俺がそうさけぶと、さゆみとみかんは本を積んだ荷台の後ろしゃがんだ形で、ゆり、魔須美、俺はそれぞれ別々の本棚の後ろに立ったまま、侵入してきた方向からは見えない形で隠れる。
「戦斗、大丈夫よね……」
隣の本棚の魔須美が心配そうにつぶやく。
「すまん、相手のことが使っている銃の名前しかわからない今の状況だと何もいえない」
「そっか……」
俺は思考をめぐらせる。別にホーミング機能がついているわけではなさそうだ。さっきから銃弾の軌道はまっすぐにしか飛んでいない。では、なぜ移動しても俺たちを狙撃しているのか。例えば、俺たちと一緒に狙撃手も一緒に移動しているとしか考えてみよう。狙撃手自身が透明化していて俺たちを追ってきているなら一番最初に四方八方から銃弾が飛んできた理由にはならない。それにスキル”五感強化”を使ったときに透明化していたとしても動いた音や足音が何倍にも強化された俺の聴力に届くはずだ。
それらから導き出される答えは、この場にはいないで、俺らを撃ってきているということだ!!
バキューーーーンッ!!!
俺らが侵入した方向とは逆の方向から地面と水平に銃弾が飛んでくる。
俺は小型銃でその弾丸を真正面から打ち返す。その言葉通り銃弾は今来た軌道をそのまま戻っていく。
しかし、その弾丸は何かに当たることなく壁にめり込む。
「ようやく、トリックがわかった」
「本当?」
「あぁ……、今から出来るだけ音をたてないでくれるか?」
「わかったよ……戦斗」
(終わりだ、狙撃手。ここでお前はトリックも何もかも荒らされる!!!!)
俺は”五感強化”を使い聴力だけに集中する。ここにいる、三人の息遣い、どこからか、漏れてくる空気の音、色んな音が耳に入っていく。
ブオンッ!!
”五感強化”をしていなかったら見逃してしまう、時空を歪める音がきこえる。
「そこかっ!!!」
右斜め上に弾丸が通れるくらいに小さく開いた時空の穴を見つける。俺はそこに目掛けて、銃弾を打ち込んだ。
「うぐっっ!!」
小さい悲鳴と共に時空の穴は閉じられる。
「あとは……」
俺は後ろを振り返る。
「お前だっ!」
俺は虚空だと思われていた場所を撃つ。空中で水玉が揺れているようにそこの部分の景色が歪みだす。
すると、小さい目玉の形をしたモンスターが姿を現し、地面にボトリと落ち消滅する。奴は契約すると偵察などで使われる雑魚モンスターである。”サーチ・アイ”と言われ、Dランクの雑魚である。
魔須美が心配そうにこちらを見てくる。
「大丈夫だ、もうしゃべてもいい。もう終わった」
「やったーーーー」
女子四人は喜んでいる。
つまり、狙撃手のトリックはこうだ。
”サーチ・アイ”を透明化させ、俺たちの視覚情報を狙撃手に教える。狙撃手は違う場所から俺たちを狙撃していたわけだ。奴は、座標さえわかれば、そこに通じる穴を開けて俺らを狙っていたのだ。
狙撃手自身がどうなったかはわからないが、偵察するモンスターがいなければ危険もないだろう。
やっと一安心できるというところだ。
俺は疲れた体でそのまま本棚に寄りかかり、座り込む。
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「すみません、教祖様。私が不甲斐ないばっかりに……」
めがねをかけた中年のおじさんが跪きながら謝罪している。
「ホッホッホ!よいのじゃ。もう気にするでない」
「教祖様っ!!ありがとうございます。次こそは必ず奴らを倒します。なので、どうか次の試練もぜひ私に……」
「心配しないでもいい。なぜなら、そなたはもう用済みじゃからな」
「えっ……」
中年の体を何かが通り過ぎる。そのあと、そのまま床に倒れこんでしまう。
「まだ駒はたくさんおる。ホッホッホ!」
その場では高笑いが響き渡っていた。





