見えない狙撃手
俺は、スキル”五感強化”を使用した。これは五感が何倍にも強化されるが、デメリットも多い。聴力、視力が跳ね上がることによってものすごい疲労感を伴うのである。それに痛覚も強化されるので怪我を負った場合は何倍もの痛みを味わうことになってしまう。俺の体がもたなくなるので制限時間は一分という制限はあるが……
バキューーーーンッ!!!
発砲音が何倍にも聴覚を発達させた耳に届く。三発目が発射されたのだ。
(――ッ…………!)
俺は、自分の背後から来る銃弾をナイフを持っていない左手で掴む。これは、銃の進行方向ベクトルと同じ速さで銃弾を掴む。一難は逃れたが、このまま、見晴らしのいいここにいたら恰好の的のままである。
けれども、奴は連射ではなく単射をしかも時間をおいてから発砲している。それは、お前らはいつでも殺せるという余裕の表れか、時間をおかなきゃ単射出来ない理由があるのか……
突破口を見つけようと、俺は弾丸をもう一度じっくりと見る。弾丸の線条痕と呼ばれる物を見つける。
拳銃やライフルなどは銃身内に螺旋状の溝、ライフリングというものが彫られている。発射された銃弾はこの溝によって回転を与えられる。このことにより、空気抵抗を減らし直進にさせることを可能にする。そして、銃弾にはこの溝の傷跡が必ずつく。これが、線条痕である。
多分この線条痕は1891年にイタリア王国で採用されたボルトアクションライフルの”カルカノM1891”だろう。この銃は線条痕としても珍しい漸増転度を採用している事でも知られる。漸増転度とは、線条痕の迎え角が最初は緩く、銃口に向かうに従って急角度になっていくものだ。
”カルカノM1891”は軽くて動きやすいということでよく動く”狙撃手”には選ばれていた武器でもあった。
しかし、単射の銃だということがわかっただけでも、儲けもんである。
バキューーーーンッ!!!
今度は、右斜め上から俺の隣にいる魔須美に向かって銃弾が向かってくるのがスローモーションで見える。俺の視覚が銃弾の軌道を捉えたのだ。
「キャッ……!!」
ガキンッ!!!!
俺は、飛んでくる銃弾の弾を小型ナイフで真っ二つにする。
「今から少しの間は銃弾が飛んでこない。早くあそこの路地まで走れ!!」
俺は、魔須美と他の三人を路地まで誘導し、急いで隠れる。俺は、狙撃手の視覚に入ったと一安心し、”五感強化”を解く。
「はぁ……はぁ……、現実世界で五感強化をやると、結構しんどいな。それにしても、なんなんだあの狙撃手は……」
「うちらなんか狙われることしたっけ?」
「WMSでいうプレイヤー殺しかもよ……。ただ、意味もなくストレス発散のためだけに殺す奴」
さゆみとみかんも走ったからか息を切らしながら答える。
「わかんないけどぉ……、私が話をしようとしたら撃った?」
ゆりが口を開く。
「カルト絡みの口封じって奴か」
「ゆり、その話教えてほしいの……。実は私の両親がその宗教団体に入信したってうわさをきいたから……!」
「わかったよぉ……、えっとねぇ……」
バキューーーーンッ!!!
弾丸が発砲される音がきこえる。俺は値をMAXにしている瞬発力で咄嗟の判断でゆりの前に立つ!!
「ぐっ、あああぁあッ……!!」
しかし、完璧油断していたからか、反応が少し遅れたらしく、銃弾は小型ナイフを持っていた俺の右腕を貫通する。あまりの力に腕が吹っ飛ぶかと思うくらいの痛みが俺を襲いその場にひざまづく様に片足を地面につける。痛みと衝撃でナイフを俺は地面に落としてしまう。左手で傷口をおさえる。
「戦斗ッ!!!!」
「なんで、ここ視覚じゃないの!!」
「気味悪すぎでしょっ!!!」
「………」
驚き、悲観、絶望いろいろな顔をしているのが見える。
俺は直ぐさまスキル”生成”を使って小型銃を作り出し、血で濡れた左手で銃を持ち、商店街の路地の窓ガラスを割る。おしゃれなカフェと本屋が隣接していた場所だったらしく、カフェ部分の窓を割る。
「建物の中に逃げ込め!」
俺の合図に合わせて三人の女子は駆け込む。
「戦斗、大丈夫立てる?」
魔須美は俺を心配し、残って、負傷した俺の右腕に自分のローブを歯で千切り結んでくれる。
バキューーーーンッ!!!
(――ッ…………!)
路地入り口の上方面から飛んでくる銃弾を俺は小型ピストルを撃ち、銃弾同士を当てて相殺させる。その隙に俺と魔須美も割れた窓から建物の中に入る。三人は奥の窓のない本屋のスペースに行ったみたいだ。
「すまんな!怪我しちまって」
「ううん。いつも助けてもらってるから……」
「魔須美っ!うちらは出来るだけ外から見えない窓から離れた場所にいるからっ!」
遠くからさゆみの声がきこえる。
「あたしたちも早くいこっか。大丈夫?」
「あぁ、致命傷を負わされたわけじゃないから大丈夫だ」
俺は少し右腕を動かしてみる。動くと痛みを感じるが、アドレナリンが出てる今なら我慢できるレベルだ。
「すまんっ、俺が負傷して」
三人とも合流して一段落ついたと思っていた。そのとき、
バキューーーーンッ!!!
「――ッ!!!!!」
俺はすぐさま反応し、銃弾を相殺する。
「えっ、嘘でしょ……」
建物の中でも銃弾は俺たちを追ってきていた。
俺たちは、まだ狙撃手からは逃がれられていなかったのだった――





