拠点でまったり
土蜘蛛を倒した俺と魔須美はすっかり日も暮れてきたので、一旦小屋に帰ることにした。WMSに関しては、夜のモンスターの方が特殊能力持ちが多くて厄介なのだ。物理攻撃がきかない”ゴースト系”だったり、何度でも蘇るアンデット族や吸血鬼だったり――。たくさんいる、アンデット族は倒したところでもらえる経験値も少なく完璧倒すだけ無駄とか言われていた。光属性や火属性、魔法攻撃でないお倒せないのでそこも厄介だったりする。しかし、現実世界に現れたこのご時世、そんなことも言ってられないのだがそこは置いとこう。
「ただいま!」
ワープで小屋までひとっ飛びして小屋に着いた瞬間、魔須美は元気な様子で挨拶する。
「「おかえりなさい!!」」
二人の女の子が俺たちを出迎えてくれる。拠点つくりと留守番をしてくれていた遊香ちゃんと瑠璃ちゃんである。
「おっ、俺らがゲームしてた頃の小屋とは見違えるほどになったな」
拡張工事も行ったらしく、キッチンや色々ライフスタイルに必要な施設や物がつけたされている。元小屋だったものは平家と言ってもおかしくない物にリフォームされていた。
壁がかわいくラッピングされていて女の子の部屋みたいに明るくなっている。俺としては二人に任せてるからこれでもいいんだが、もし、このパーティに男性が入ってきたらなんて言うんだろうな。
「だ……だめだった?」
不安そうに首を傾げながら瑠璃ちゃんがきいてくる。
「だめじゃないさ……いいんじゃないか?」
俺は寝れる場所さえあればいいからなにも不満はない。
「すっごく!かわいい!!あたし気に入った!!」
魔須美も上機嫌で喜んでいるし、これでオッケーではないだろうか。
「やたっ……」
瑠璃ちゃんも小さくガッツポーズをして喜んでいる。
グーーーー!
「ご、ごめん。おなかすいちゃった。てへへ~」
魔須美が赤面しながら頭をかいている。そういえば、今日俺ら何にも食べてなかったな。
「魔須美さん!!わたしの料理スキルでご飯作りますね!待っててください!」
遊香ちゃんも自分の腕の見せどころだと張り切っている!追加された台所へと向かう。
「瑠璃も……手伝う」
てとてとと瑠璃ちゃんもキッチンに歩いていく。
「みんな楽しそうでいいわね」
「そうだな」
俺と魔須美は微笑ましそうにそれを眺めている。
「あっ、そういえば」
俺は保管庫に移し替えた、学級委員長のなぎさからもらったクッキーを取り出す。
「昨日貰ったやつだけどやるよ」
俺はかわいくラッピングされた五枚入りのクッキーを魔須美に手渡す。
「戦斗、これ誰からもらったの?」
「あー、俺の幼馴染かな。昨日誕生日だったから貰ったんだと思うけど」
「昨日誕生日だったとか、この女の子について色々突っ込みたいこと、ききたいことあるけど一旦置いとくわ。戦斗、これあたし貰っちゃいけないものだと思うんだけど……」
「そうか?貰った本人が良いって言ってるんだしいいよ」
「女心をわかってないわねぇ……」
「よくわからんが、そこまで言うなら、一個だけ貰っとくよ」
ジト目で魔須美に睨まれながらもクッキーを食っていく。一日たったけどおいしいなこれ。程よい甘さが今日までの疲れを癒してくれる。流石、糖分。ぱさぱさ感も自分にとってはちょうどよく、水ではなく次が食べたくなる食感だった。
「戦斗さん、魔須美さん。ご飯が出来ました。こっちにテーブルがあるので来てください」
「おっ、うまそうな匂いしてんじゃん」
テーブルの上に用意されていたのは、カレーライスとサラダとスープだった。出来たのほやほやの煙は食欲を湧きたてる。
「うん、うまい!!」
「こら、戦斗。いただきます言って、皆そろってから食べなきゃだめでしょ」
俺がテーブルに座った瞬間がっついていると、魔須美に注意される。
「そうなのか、すまん。意外に魔須美しっかりしてんだな」
「そ、そうでもないわよ……///常識よ常識」
「そうか。じゃあ、二人とも座ってくれ。え~と、いただきます」
「はい、よくできました」
最後は少し恥ずかしくなってボソッと話してしまった。
「おいしい。にんじんも水分が多めで新鮮なのがわかる。材料とかどうやって手にいれたの?」
「あぁ、わたしのスキル”生成”で作りました」
「あっ、うんそうなんだ」
さらっと、言われたけど魔須美にとってはすごいことだったらしく、面食らっている。
その後、俺らは談笑しながら食事をすすめていった。
小学生、中学生組は疲れたのか寝てしまっている。豆電球だけ灯した暗い部屋の中で、テレビが放送されていないことを確認した俺はラジオで誰かがSOSなどの微弱な電波を拾えないか探していた。
「今日の戦斗、食事中楽しそうだったわよ」
「そうか?」
しかし、魔須美に言われて振り返ると気づいた。俺は談笑しながら誰かと夕食を食べたのは十年ぶりではないかと思い至った。
「慣れてないんだよ。あんまり一緒に食べないから」
「そうなんだ。瑠璃ちゃんも遊香ちゃんも楽しそうにはしてたよ。けど、遊香ちゃん時々寂しそうにしてた」
「そういえば、優香ちゃんもいつもお兄ちゃんと二人だけで食ってたもんな。両親がほとんど帰ってこないとか」
「そう、なんだ……」
「俺達でそこらへんもケアやカバーしていかないとな」
「そうだね……」
俺と魔須美はぐっすりと寝ている二人の寝顔を見つめる。俺はこの微笑ましい光景を守っていきたいと胸の中で誓ったのであった。