新たな敵、新たな闇~土蜘蛛を荒らす~
俺らは、根源的神教のアジトを突き止めるためにスキル”サーチ”を使った。これは、物の所有者が現在どこにいるかを探すことができる能力である。魔須美の親を直接探しだすため魔須美の家の物でサーチをかける。
「ねぇ、どう……だった?」
「やっぱりダメだ。サーチ防止でもつけてるのか、バリアの中にいるのかまったくヒットしない」
「そんなぁ……」
「大丈夫だ。俺たちがあの宗教団体を見たのは今日だ。昨日から入信してて事故に遭っているならあの宗教団体がのほほんと今日信者を募っているはずがない」
「そうなんだけど……」
「またここらへんの人に聞き込みでもするか?」
「うん……」
明らかに元気がなくなってきてる。昨日目撃証言があったのは掴めたが現在どんな状況かわからないから不安になっているのだろう。
俺たちは近所の住宅を一軒一軒まわる。しかし、留守なのか誰一人として出てこない。
「みんな宗教団体に入っちゃったのかなぁ」
「ねぇ……もう一回だけ隣の近藤さんと話してもいい?」
「あぁ、いいぞ」
ピンポーン!
「ごめんくださーい」
「はーい」
すぐさま、魔女の格好をした上にエプロンをつけたおばあちゃんが出てくる。
「あのっ、近藤さん何度もすみません。お父さんとお母さんについてききたいんだけど……」
「まぁ~、まだ見つからないの。大変ねぇ~。うちにわかることだったら何でも答えるから行って頂戴」
「その宗教団体と一緒に行った時ってどっちの方角に行ったんですか?」
「え~とねぇ、モンスターが現れたらしくて、駅のほうに向かうって言ってたから東の方かねぇ」
「東かぁ……、ありがと近藤さん、じゃあ東の――」
「ちょっと待て――」
俺は魔須美の言葉を遮る。
「どうしたの、戦斗?」
「俺からも質問してもいいか?」
「なんだい?」
「一つ目の質問は、今駅の方に向かったと言ったが、さっききいた時は集会場に向かったって言ってるけどどっちが正しい?」
「あ~、どっちも正しいんだよねぇ。駅の後集会場行くって言ってたから戻ってくることはないから東の駅の方って言ったんだよねぇ」
「そうか、そういうことにしておこう」
「ちょっと、戦斗それはいくらなんでも失れ――むぐっ!!」
俺は左の親指と人差し指で魔須美の口をふさぐ。
「二つ目の質問、家族構成はあなたとあなたの夫、息子、娘らしいですが、他の三人は今どこにいますか?」
「それは、モンスター退治に行ってて帰って――」
「三つ目、スキル”サーチ”でこの家の持ち主を探したら今ここにいない三人はおろか、あなたまでレーダーにひっかからないんですけどこれはどういうことですか?」
「んんんんっ!プハァッ!戦斗それって――」
「あぁ、この近藤さんは近藤さんじゃなくて何かが擬態してる偽もんってわけだよ」
「ふ、ふふふっ」
近藤さんだと思っていた人物は不敵な笑いをこぼし始める。
「フハハハハハ!一日でばれるとは思わなかったわぁ。それにしても貴方たちおいしそうね」
目の前にいたやさしそうなおばさんの姿はなくおどろおどろしい姿の蜘蛛みたいな化物に変わっていた。やつは妖怪の一種”土蜘蛛”。人間の姿に化けることのできるAランクモンスターだ。WMSの日本の妖怪イベントで各地に出現した敵だ。
「あんたも餌になれぇぇぇぇぇ」
「きゃあああああ」
土蜘蛛は口から魔須美と俺に向かって糸を吐き出す。
俺は素早くエクスカリバーを抜き、糸を切り裂く。
「大丈夫か?」
「うん、なんとか……」
「ふんっ」シュルルルルル!!
俺たちに糸を巻きつけることに失敗した土蜘蛛はすぐに住宅や電信柱に糸を張り巡らせる。縦、斜め、横と四方八方に張り巡らされて足場も視界も俺たちにとって最悪となってしまう。体が糸に当たってしまえばくっついて動けなくなってしまう可能性がある。そんな俺たちの状況を嘲笑うかのように土蜘蛛は張り巡らされた糸の上を素早く動き回り俺たちを撹乱する。
「うがああああああああ!!」
「くっ!!!」
いつの間にか土蜘蛛が背後に回っていて、前足二本で俺を攻撃しようとしてくるが俺はそれをエクスカリバーで受け止める。土蜘蛛は攻撃が失敗したとわかるとすぐに撤退し、糸だらけのどこかに姿を消す。
ピュンッピュンッピュンッ!
「あぶないっ!」
「きゃっ!」
小さい槍状に変形させた糸の塊を俺たちに向けて飛ばしてくる。俺は魔須美の前に立ちそれらをすべて切り落とす。しかし、糸でエクスカリバーがべとべとになってしまって思うように振り回すことができそうにない。
フーーーーーーー!!!
「うりゃぁ!!」ザシュ!
飛んできたでっかい糸を切り落とそうと袈裟斬りをするが、糸のせいで地面とエクスカリバーがくっついて離れなくなってしまう。スキル怪力を使って剥がそうとするも飛んでくる槍状の糸をかわすことに集中して今の現状じゃ難しい。
フーーーーーーー!!!
「くっそ!ファイアーボール!!」
でっかい糸の塊にファイアーボールをぶつけて爆発させる。しかし、糸が足場にも飛び散って、動ける面積がどんどん狭まっていく。
「くそっ、ぶっ殺すだけなら秒殺なのに――。あいつ、カルト団体の情報を持ってそうだから生け捕りにしようとしていたけど少しきついかもしんねぇ」
「ごめん、あたしさっきから何も出来てない」
「きにすんな、本当の戦いはここからだ。ちょっと俺についてこい」
俺は魔須美の手を引っ張りながら、四方八方から飛んでくる小さい槍状の糸をファイアーボールで打ち落とし進んでいく。ファイアーボールが当たった糸は燃えて消えていくので少しずつだけど道が出来る。そこを、魔須美の手を引きながら糸に当たらないように少しずつ移動する。
「魔須美、ちょっと頼みごとしていいか?」
「あたしが出来ることなら」
「おっし、きまりだ。あいつのこのでっかい巣を荒らしてやろうぜ」
******
わたしは頼まれてこんな餓鬼二人の相手をしているが、色んな技をちょこまかと使いおってこざかしいことこの上ない。しかし、糸を張り巡らせたらもう袋の鼠も同然。せいぜい体力がなくなるまで頑張りなさい。
あら、なにか二人で話してるわね。けど、もう遅いわ次で決めるから――
「ブリザードランス!!」
雌餓鬼がどうやらわたしに氷の攻撃をしてきたみたいだわ。わたしが氷と炎が苦手なことを知っているようだけど、あたらなきゃ意味ないのよ。
フハハハハハ!!!
「きゃああああああああ」
魔法を発動させなきゃ、場所がばれなかったのに。そのまま雌餓鬼を糸でぐるぐる巻きにしてしまう。
「お前を囮にしたらもう一匹も捕まえられるだろう。貴様らの敗北がすぐそこまで迫っている」
すると、雌餓鬼がニヤリと笑い出す。
「今からお前を荒らしてやるけどいいか?」
「はぁ?」
「パーフェクトブリザード!!!!」
「なにぃ」
後ろから雌餓鬼の声が聞こえたと思ったら、わたしの糸が全て凍りついていく光景を目の当たりにしてしまう。そのままわたしは雌餓鬼と一緒に糸から落ちてしまう。
「言っただろお前を荒らすって」
糸に巻かれていた雌餓鬼はいつの間にか男に変わっていて、糸を吹き飛ばしていた。
******
俺は、スキル”変化”で変わった魔須美の姿を解除して、ぐるぐる巻きの糸をスキル”怪力”を使って破る。驚いて動けない土蜘蛛の足目掛けて俺は、”フリーズ”の魔法をかけて逃げ出せないように動きを止めた。
「おまえら、どういうことだ」
土蜘蛛は私怨の目を向けてくる。
「変化で魔須美の姿になった俺を捕らえてお前がはしゃいでいただけだ。油断して出てきたお前の巣を全て凍らせて終了って話」
”パーフェクトブリザード”は触った同物質を全て凍らせる魔法。しかし、土蜘蛛が糸を吐き出している最中だと土蜘蛛を殺してしまうから俺が囮になって正体を現させたという作戦だ。しかも普通のプレイヤーは属性魔法を一属性しか使えないから氷魔法を使ったのを見て魔須美だと決め付けたのだろう。そこも計算どおりだった。
「いいから、洗いざらい話してくれるか。宗教団体とお前の関係とかもよぉ」
「…………」
「だんまりしても、スキル”テレパシー”でわかるんだけどよ」
「きさまあああああああ」
「なるほど、お前は、教祖の使い魔の一体なのね。ふむふむ、教祖は自分のモンスターを使い人間を襲わせて自作自演していたってわけね。で、自分に反発する者は殺していたと……。へぇ~そうだったんだ」
「目的はなんなの?」
「自分の忠実なる奴隷が欲しかったらしい。ただ、それだけだ」
「き、きさまああああああ、教祖様に向かって無礼を!!!!」
「と、ところであたしのおとうさんとおかあさんは……」
「安心しな。生きてるから」
「よ、よかった。ふえぇぇん。ええぇぇん」
魔須美は安堵からかまた泣き出す。それを見て土蜘蛛は悟ったのかまじめなトーンで語りかけてくる。
「神谷戦斗……」
「感動シーンって時に邪魔すんなよ」
「お前がわたしを倒したところで、何の解決にもならん。お前なんかよりも教祖様は強い。せいぜい自惚れているがよい」
「土蜘蛛。んなことどうでもいいわ。この世界を壊す奴がいたら俺がそいつを荒らしてやる。そのためだったら、そいつと一緒に地獄にでも行ってやる。それだけだ」
「ほぉ……」
「じゃあなっ、地獄でまた会おうぜ。ファイアーイアンパクト!!」
俺は左手をかざし土蜘蛛を消滅させる。
「戦斗、ありが……」
「馬鹿言え、礼はまだ早い。その教祖とやらを倒してからだ」
「……、うんっ!!」
「さっ、今日はいったん帰るとすっか」
*******
「教祖様、どうやら土蜘蛛がやられたそうです」
めがねをかけたショートカットの秘書みたいな女性はひざまづきながら伝える。
「ホッホッホ!神は寛大である。大罪を犯したものでも信じる心があれば救ってくれるのじゃ。それがどんな人間だろうとな。のぅ……、神谷戦斗くん……」
新たな闇が戦斗に襲い掛かろうとしているのであった。