第一話 出立準備
「生きるか死ぬか選べ」
赤城と名乗る男の質問に私は絶句した。
私がここに連れ来られた理由も、私が連れ去られた後の学校がどうなったかとかも分からない。そもそも何故私なんだ。
顔だろうか、そりゃ私は自他共に認める(主に自分)美人だし歌とかもそれなりには歌える・・・まさか新手のスカウトだろうか!最近では多少強引なスカウトもあると聞く!そうか!
「もしかしてアイドルのスカウトですか!?」
「違う」
違ったようだ。
「まあ、連れて来られたのも質問も全てが突然だ。混乱することも無理ないだろう。ある程度話してやるから冷静になって聞くんだぞ」
赤城曰く、私がこの『赤城楽器工房』に連れて来られたのは超能力者『ノイズマン』が所属する『エイプリルブラック』という組織が私を狙っているからだそうだ。
理由は私にノイズマンを倒せる力があるとかないとか。ここは不確定らしいがエイプリルブラックはそう言った不確定要素ですら排除して、ノイズマンが世界を征服出来る可能性を高める為に私を殺そうとしているらしい。
また、ノイズマンとはノイズ・・・所謂雑音で超常の力を振るう人たちの事を指すらしい。赤城さんや灰霧ちゃんもそのノイズマンだそうだ。
ノイズマンの超常の力が使える音は人によって違ってその能力も人によって違う様で、赤城さんは『鉄棒を弾く音』で能力は『増幅』で、灰霧ちゃんは『指で布を叩く音』で能力は『固定』らしい。
転校して自己紹介をした時、皆が動けなくなったのはその力で止めていたそうだ。
そして、私もそのノイズマンみたいで発動する『音』と『能力』は分からないけど組織が狙う程の能力であることは間違いないとの事。
「で、君を保護する為の施設に入るかここで私に殺されるかを選んでほしい」
「もちろん施設です!死にたくありませんから!」
そもそも赤城さんに殺されるなんて絶対嫌だ。
イケメンのおじ様だから殺されるより手解きされるのならYESだが。
「そうか」
赤城さんは内ポケットにある折りたたみ携帯を取り出し、どこかへ電話をかけた。
「今時スマホじゃないんだ・・・」
「赤城・・・スマホ使えない・・・」
「ひょわっ!?」
いつの間にか隣りにいた灰霧ちゃんが答えた。
「使えないって・・・歳だから・・・?」
「音無、移動する施設が決まった。君が現在高校生ということを加味して高校に通うことになる。あくまで保護施設なので全寮制で、君はもう二年生だがノイズマンのことをしっかり把握してもらうために一年生からのスタートになる。君はあまり前の学校でも成績が良くなかったそうだからその方が嬉しいだろう」
「え?一年から・・・?」
「あとこの学校では外部との連絡ができない。あと入学は明日からだ、今日はこのまま休め。以上だ」
「・・・は?」
朝目が覚めると知らない天井を見ていた。
いつもの母親が作る朝食の匂いが鼻孔をくすぐる訳ではなく、木材の匂いが鼻を抜ける。
ここは『赤城楽器工房』、昨日灰霧ちゃんに連れ去られて来た場所だ。
衝撃的な話を聞かされた私は、あのまま寝てしまい今に至る。壁にかかった時計を見ると時刻は5時の針を過ぎている。寝る環境が変わればあまり眠れない。
私が寝ていたソファの向いにある机を見ると新品の制服と「7時に出発する」と書かれたメモが置いてあった。
「めっちゃ不親切・・・メモもそうだし毛布ぐらいかけてよ・・・」
「起きたのか」
後ろから赤城さんが声を掛けてきた。
「全然眠れなくて・・・」
「そうか、コーヒー飲むか?カフェオレにしてもいいが」
「カフェオレで・・・」
しばらくするとティーカップを両手に持って戻ってきた。
渡されたカフェオレを一口飲み、気不味さを紛らわせるために「赤城さん朝早いんですね・・・」と質問してみた。
「今まで仕事をしてたんでな・・・ところで君、昨日の晩から風呂入ってないだろ。シャワーを浴びたいなら外に出て右の方にある離れに行くと良い、浴室がある。不安なら灰霧を連れて行きなさい」
「あっ・・・はい・・・」
気付かない間に隣りにいた灰霧ちゃんに連れられて浴室に到着した。
外や工房の中と違い離れは明るく、暗いところでは気付かなかったであろう灰霧ちゃんの変化に気付いてしまった。
「灰霧ちゃん・・・それ・・・血・・・?」
「うん・・・熊の・・・」
「そっ・・・そっか・・・」
深く聞くと良くないと本能が囁いたのでこれ以上聞くのはやめた。
「赤城にそう言えって言われた」
「本当は!?」と飛び出そうな口を思わず手で塞いだ。
友好的(?)に接してくれているとしても昨日まで生死を握っていた人が隣にいるのだから下手に突っ込んだら死んでしまう。
「でも本当は人ので・・・あんまり強くなかった・・・私のノイズでズバッとやったけどその時に浴びちゃったの・・・」
何も言ってないのに喋り出してしまった・・・だが、灰霧ちゃんも何処と無く友達に昨日あった出来事を楽しそうに語る様な顔をしていた。
シャワーを浴び、赤城さんが作った朝食をとり、新しい制服に着替え支度をし終えた。
「さて、準備は終わったな?よし行こう、今日から君の世界は一変する。常識は非常識になり、非常識が常識となる。一日一日を最期の日だと思い生きていきなさい」
釈然としないまま私はノイズマンとしての一歩を踏み出した。




