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部屋の時計の秒針が、一定のリズムを刻んでいる。私はしばらく、その音を黙って聞いていた。

朝日がカーテンの隙間から差し込み、私を照らす。私はそっと起き上がり、目を開け時計を見た。


「5時10分…」


まだぼやける視界を何とか目を凝らし時間を確認する。携帯のアラームを聴いてから10分。まだ10分しか経っていないのかと、少し残念に思った。

少し重たい体を起こし、トイレに行き、顔と手を洗ってから肩に少しつく髪を適当に縛った。そして、キッチンへ行き、卵とレタス、それからハムを冷蔵庫から取り出し、棚から食パンを取る。そして、いつものように卵焼きとサンドイッチを作る。後は、大体冷凍食品。それらを綺麗にお弁当箱に詰め、冷めるのを待つ間に朝食を作る。

それが私の毎日の日課だ。



「行ってきます」


静かにそう言い、家を出る。もちろん、家族のいない私に行ってらっしゃいという返事はないのだけれど。

家を出れば熱い空気が体全体を覆う。夏休み明けの今日、もう9月とはいえまだまだ暑い。

高校生になってからもう6ヶ月。学校生活にはもう充分慣れた。ただ、1人暮らしには未だに慣れていない部分がある。


「はあ…」


静かに息を吐き、学校への道を急いだ。



学校に着いて一番最初に行くのは、美術室だ。美術部に入っている私は、毎朝こうして絵を描きに来る。美術部はまあまあ部員はいるのだが、その殆どが幽霊部員というやつで、こうして朝早くに来る部員は私1人だ。私は、この時間が一番落ち着く。

教室は、勿論私1人だけだから静かだが、家とは違い、外からは運動部の声が聞こえて来る。他にも、家では聞けないたくさんの音が聞こえるのだ。その音を聞いていると、私は普通なのだと、何故か思えて。とても安心する。


部活が終わる時間になり、美術室にあった花瓶の静物画を描くのをやめ、片付けを始める。

運動部の声も聞こえなくなってくる。その代わり廊下からは賑やかな声が聞こえる。予鈴が鳴る前にと、急いで片付け教室を出る。その時…


「うおっ!」


ドアを開けると同時に聞こえた低い声。そして私もいきなり目の前に現れた人影に驚き肩をビクつかせた。


「あ…すいません」


軽く頭を下げ、その場を離れる。


はあ…びっくりした。驚いて顔は見えなかったけど、あの声、多分今井くんだよね。


今井くんこと、今井貴志は同じクラスで学級委員をしている。性格は、明るくて優しくてそして面白い。いわばクラスのムードメーカー的な存在だ。

彼の周りには自然と人が集まる。私にとって彼、今井くんは眩しすぎる太陽だ。私はその光に消され肉眼では見えなくなった数多くある星々の1つだ。




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