新たに加わる濃い面子
今回からはギャグです。
あれから二週間。
「え、勇者が攻めてきた?」
思わぬ知らせを耳にして、ロイは間抜けた声で聞き返した。
門番(先代)から受け取ったテレパシーによれば、『あ、これどこか別の世界から召喚された勇者だわ』と一瞬で分かるくらい服装や言動がおかしいらしい。
「ようやく平穏な生活を過ごせると思ったのに…と言うかおじさん、ちゃんと陛下に情報操作しろって言ったよね?何故にこのタイミング?」
「あんたらが戦闘おっ始めたからだよ」
確かにそうかもしれない、と反省するロイ。
後先考えない行動は控えようと思うのだが、最近昔に比べて衝動で突っ走ることが多くなってしまったのだ。
それを指摘してくれた声の主に同意しようとして、止まった。
部屋の中にはメイドも誰もいなかったはず。
辺りを見渡せば、十四、五歳くらいの少年が、こちらを呆れた見上げているのが目に入った。
………………、…………………………誰!?
「え、何!?君は誰!?どこから来たの!?」
一人言のつもりで発していたため、予想外の返答に反応が遅れたロイ。
と言うか、突然現れたこの少年は誰だろう。
「は?あんた、俺を殺しといて忘れるとかどんだけ非情なの?ひっでー。俺もう友達やめるわ」
この物言い。癖の強い深緑色の短髪に、金色の瞳。そして殺した相手となれば、ロイの頭に思い浮かぶ答えは一つ。
「…二代目?」
「そうだよ。あー、良かった。忘れてたら本当に友達やめるとこだったよ。いやー、それにしてもずっと心配してたんだよ俺は!あんたあの時目が死んでたもんなー!」
二代目、ツヴァイ・アーク。
十代半ばの容姿だからか、初見の相手にはかなり油断されるらしいが、その実、彼はロイに『彼ほど闘いにくい相手はいない』と言わしめる程の実力を有する魔王である。
「君も現界してたのか…そう言えば大分前にリズがそんなこと言ってたような…」
先代のインパクトが強すぎて忘れていた。
リズもリズで、朝から晩まで叔父様という言葉しか口にしていないのではないかと疑うくらいロイにべったりしていたため、失念していたのだ。
それにこの少年、他の魔王が変人過ぎて、比較的常識があるが故に存在感がかなり薄いのである。
良い意味で、ロイの中では存在が空気だった。
「忘れるとかひでーな。まあ良いや。
そうそう、あんたまだ知らないだろ?確かオーウェンとハルも現界してたぞ。休暇中だから魔王城にはいないだろうけど」
オーウェンは初代魔王、ハル…もといハルシオンは四代目の魔王である。
彼等魔王にも休暇ってあるんだ。
だったら英雄にも休暇が欲しかった、とロイは心の中でぼやく。
いや、それより…
「初代はともかく、四代目も現界出来るんだ!?召喚と違って具体的な姿をとれることが現界の第一条件じゃなかったっけ」
「ああ、あいつトンデモ骸骨に進化したからな。努力の天才は時々俺達超えてくから怖いよな」
「努力でどうにかなるものじゃない」
努力で魔王の格を上げられたら、ロイとしては、国王に約束した魔王を監視する任務が全う出来ず非常に困るのだ。
いくら本来の監視対象がリズであるとは言え、以前魔王だった者もいると報告すればまず間違いなくこっぴどく叱られ、謹慎する羽目になる。
謹慎とか、もう勘弁。
「心配しなくても、あいつ以外は人の形になれた奴はいないって」
骸骨。うん、確かに人の形をしてはいるが、何か違うような気がする。
具体的な姿で選ぶのが骸骨とか、四代目の気が知れない。いや、それは他の魔王も同じなのだが。
「それなら多少は頭痛の種が…」
「残念でしたー!そっちは問題ないけどラディが『過剰防衛ですのでシクヨロ☆』とか言いながら現在進行形で勇者ぶっ叩いてるから駄目だな。折角だから一緒に勇者とお話すれば?」
「何やってんのあいつ!」
まさかの肉体言語。
思えばロイ以外には基本そうだった。
と言うか、大分キャラがブレてるぞ、先代よ。
君は語尾に☆をつけるほど(頭が)残念な奴ではなかったはずだ。いや、思えば私に愛の告白をして来る時点で頭に蛆でも…
二週間前のシリアスな彼をさりげなく記憶違いとして処理しようとするロイである。
「どうやって先代の動きを…ああ、得意の覗き魔術か。前々から思ってたけど君の魔術って一々趣味悪いよね」
「…そう言えば、ラディに『ロイデンハルトの私生活見せて下さい』って頼まれてたんだよなー。そっか、俺の魔術、趣味悪いかー」
「おじさん、君の魔術は素晴らしいと思います」
華麗なる前言撤回だった。
ツヴァイは、オールマイティに何でも出来る初代や先代とは異なり、武術はからっきしだが、魔術においては類を見ない鬼才である。
闘いにくいのも、精神干渉とか平気でやって来るからだ。下手したら先代メイキングのトラウマとか抉られるかもしれない。
「で?どうすんの?俺はリズに報告がてら会いに行くつもりだけど」
「…止めに行くよ、おじさんは!」
あの馬鹿の息の根をな!




