休戦協定とこれからのお話
途中からシリアスに入ります。
苦手な方はこの話をとばしてね!
リズはやきもきしていた。
力ずくで喧嘩(と言う名の戦闘)を止め、話し合いをさせたのは良い。良いのだが、積もる話もあるだろうと考え、席を外して数十分。
何故か二人がなかなか出て来ない。
「まさか…叔父様がラディウスさんを殺してしまったのではないでしょうか!?うぅ、私、どうしましょう!」
防音のため、中の声が何も聞こえず、リズの脳内ではあらぬ憶測が飛び交っていた。
ロイがラディウスを毒殺しているシーン。
ロイが符丁を強制的に断ち切って、冥界へとラディウスを蹴落とすシーン。
ロイが…
とまあ、大好きな叔父様が負ける未来を全く想像しないリズである。
「仕方がありません。そう、ラディウスさんは尊い犠牲なのです。生前の悪行が返って来たのだと思えば…でもでも、わりかし良い人っぽくて………えーい、それは嘘なのです!悪名高いのにも理由があるはず!ですからラディウスさんは塵的存在だと思うのですよ、リズ!叔父様の殺しを正当化するために!」
盲目的な上にさりげなく酷かった。
「いやいやいや、人聞きの悪いこと言わないでくれるかな!?流石におじさんもそれくらいの分別はあるからね!」
「今代にとって私は一体何なのですか…?今回は何も悪いことしてないんですけど…」
「叔父様!」
そんなツッコミと共に扉が開き、リズは満面の笑みを浮かべてロイの胸元目掛けて突進した。
ちなみに、後ろで地味にショックを受けているラディウスなど見向きもしない。
「うわ、酷くないですか?美人を無視なんて」
「ラディウスさん、五体満足だったんですね!良かったです、殺されてなくて!」
「……………………………はい」
「純粋な子にやられると大分堪えます…」
「今回ばかりは君に同情するよ」
この日から、ロイがラディウスに険悪さを醸し出すことは少なくなったと言う。
「そう言えば、叔父様とラディウスさんで、一体何を話されていたのですか?」
傷心旅行と言う名目で門番をしに行ったラディウスを遠目に、リズはそう問い掛ける。
やはり気になるのだろう。
「うーん、それはね…」
話すこと約十分。
頭を撫でられていると言うのに、リズはかなり落ち込んだ様子だ。内容が内容だからだろう。
「物騒な話だと思うかな?でも一旦落ち着いたから、リズは不安がらなくて良いんだよ」
「ですが…」
「私が真の意味で先代の敵にならなければ良いだけだからね。今後、君に刃を向けた時、私は初めて…」
「刃…?」
口にしかけて、慌てて止める。
これは言ってはならないことだ。言ってしまえばきっと後戻りが出来なくなる。
「いや、何でもないよ。おじさん疲れたし、そろそろご飯食べようか」
「はい!」
笑みを浮かべて、ロイはリズを抱き上げた。
「危なかった…」
一人になって、ロイは眉間を押さえた。そして、先程ラディウスと話していたことを思い出す。
英雄というのは、案外ありふれた言葉だ。
人ならざる力を有していれば、偶然が重なって複数回人々を救ったことがあれば、どこか別の世界から呼び出されれば、彼等は英雄と呼ばれるようになるのだから。
だが、その誰もが、ロイデンハルトという英雄にだけは及ばない。精神までもが英雄である者が、本来存在し得ないからだ。
英雄とは人々によって作られる偶像である。だからこそ、人々の希望を常に体現する者という『あり得ないもの』で塗り固められている。
それを真の意味で満たすには、英雄個人の私欲や感情が存在してはならない。そう、本来英雄と言うものはただの機構でしかないのだ。
それを真の意味で遂行する者こそロイデンハルトであり、
「私が殺すことを受諾した『英雄』なのですよ」
珈琲を飲み干し、ラディウスは静かに息を吐いた。突然のことに頭がついていかないロイのことなどまるで気にも止めず、ラディウスはケーキを頬張りながらけらけらと笑い出す。
「大体、彼女が頼んだのは『英雄』を殺すことです。具体的な英雄の名は、お前の名は、一回も出しませんでした。それなら私は、私の思い描く英雄を殺せば良いのです。
ね?簡単なことでしょう?私はお前が英雄になるのを徹底的に阻止します。何故なら、愛する者を殺すことこそ究極の愛なのですから!」
「一応断っておくが、それは違うからな?」
愛するから殺すとか、そんな異常性癖いらない。
「冗談ですよ。私は好意を叫びはしますが、それを受け入れるように強要する真似はしません。それは愛しているとは言いませんから」
「それは良かった」
いや、本当は愛を叫ぶのも止めて欲しいのだが。
「とまあ、前座はこれくらいにして本題です。
見るところ、今代は確かに英雄厨ですが、誰でも良いと言うわけではありません。ですから、お前が見捨てても他の英雄が助けてくれる、などと考えないで下さい。
彼女にとって英雄はお前だけだ。替えがきくなんて思うな。履き違えるな」
それを忘れた時、私はお前を言葉通りの意味で殺しに来ます。
いつものようなふざけた笑みなど浮かべずそう告げられ、ロイは是非もなく頷いた。
ああ、きっと忘れない。それは絶対に忘れてはならないことだから。
それが君と私の、殺人鬼と英雄の、唯一の違いなのだから…
ギャグで進めようとは思っていますが、時々今回のようなシリアス入ります。
ギャグ単体で書くのは苦手なのでごめんなさい!