予想外の事ばかり
戦闘の描写が難しい。どうして皆はあんなに上手く書けるのか…
ラディウスに向けて、剣が不可視の軌道を描きながら襲いかかった。
直前まで床に引き摺りながら動かしていたからか、力は蓄積され、擦っていた頃とは比べ物にならないほどの速度だ。ロイの技量は凄まじい。後ろに飛んで体勢を整え、そこから一気に跳躍するのが得策だろう。
だがそれを、ラディウスは敢えて踏み込んだ。
例え剣が見えなくても避けられる。少しだけ大きく予備動作を見せれば、相手は勝手にその先を読んで斬りかかってくるのだから。彼はその隙を縫って拳を打ち込めば良い。
ロイはロイで、ラディウスの魂胆などとっくに見破っていた。わざと至近距離で動くことで、『本当の予備動作』を見えにくくしているのだ。だからこそロイは剣を『消して』、距離をとるついでにラディウスの腹に回し蹴りを食らわせた。
「がっ…ぐ、……やり、ますね…やはり、人類最強は、伊達、じゃない…」
以前殺された時には見せなかったその行動に受け身をとることも出来ず、壁に激突するラディウス。
壁に亀裂が走る程の衝撃を受けて尚健在なのか、服についた瓦礫を叩き落とし、息を切らしながらそう呟く。
「内臓粉砕を丸無視か…痛覚遮断なんて、君も随分と化物になってしまったな…」
「何度殺されても狂わない、お前ほどじゃ、ありませんよ…」
ちなみにこの戦闘中、少しでも相手を無力化させようと双方が魔術で地雷もどきなどを仕掛けていたため、魔力探知機のメーターはとうに振り幅を越えていた。
購入したばかりのそれの無惨な姿を見て、「ああ…支払いまだ終わってないのに…」と嘆いている人もいたが、それはこの際気にしない。
「さて、第二戦の開幕、行っとくか」
「望むところですよ。やはりこうでなくては」
「いいえ!終わらせて頂きます!」
ドゴッ
メキャッ
振りかぶられたリズの拳によって、そんな間抜けた音と共に、新品同様に綺麗だったはずの床が大破した。
そう。幾らセーブしていたとは言え、二人が闘っている間も原型を留めていた床が、いとも容易く、大破。
「……リズ、凄いな…」
「ですね…」
呆気なく戦闘は終了した。
「さあ、一先ず喧嘩は終わりです!叔父様、一旦落ち着いて下さい。話し合いましょう」
ロイは一応リズの言いたいことも分かる。だが、
「リズは先代を知らないからそんなことが言えるんだよ…おじさんはもう拒否反応が…」
話し合いをした結果、いつの間にか毒を盛られて海に沈められたことが計七回あったのだ。
この青年、魔王より暗殺者としての適正の方が高いのかもしれない。
「だからね、先代と話すことは、」
「叔父様!」
「…………分かった。とりあえず席につこう」
そう言いながらもあからさまに顔をしかめるロイ。対するラディウスは、何が面白いのか、からかうような口振りでロイを煽る煽る。
「おや?もう終いですか?折角…いえ、何でもないのでこっちを睨まないで下さい、今代」
勿論強制終了させられたが。
「いえいえ、構いませんよ。それより、どうしてこんなことをしたのか、ちゃんと叔父様と話をして下さいね?」
「ハイ…」
世界最強候補達が、形無しであった。
リズの淹れてくれた珈琲を飲みながら、二人は結局話し合いをする羽目になった。
ラディウスは戦闘であろうが話し合いであろうが構わないのだが、ロイは数々の嫌な思い出が蘇るため話し合いは嫌だった。
だが、リズに諭されては仕方ない。
「何で言うこと聞いちゃうかね…君は誰かの命令に従うような性格してないだろう…」
「まあそうなんですけどね。序列の関係上、現時点では今代にはあまり逆らえないので。些事に一々全力で抵抗するのも面倒ですし。
まあ私は歴代魔王の中でも優秀でしたから?やろうと思えば今代を抹殺することも出来ちゃったりす…嘘です、待って下さい。可能性について話しただけでそんなことしませんから」
絶対零度の視線にガタガタ震えるラディウス。
殺気より怯えるとはどういうことだ。
「それで、何故君は現界してるんだ?リズは魔力を与えてないらしいじゃないか」
「その事ですか。…イーラって覚えてます?」
「ヨルドの妹だろう?冥界の主をしていた筈だ。兄も大概だが、アレはもっとヤバい奴だからな…で、アレが何だ」
ヨルドとは、不死の呪いをかけた神様である。
呪いをかけられた後、ラハトと共に彼を徹底的に痛め付けたので特に恨みはないのだが。
イーラの名前が出て来たと言うことは、ヨルド関連のことなのだろうか。
「彼女に『英雄を殺して』って頼まれたんです」
「は?」
聞き間違いだろうか。
神に殺しを頼まれるなんて。いや、それより、神に殺意を抱かれるなど…
「なので、これから宜しくお願いしますね。
英雄さん?」
魔王城でも波乱の予感。
現界の補助欲しさにイーラの頼みを聞いたラディウスですが、実は自力でも現界出来ます。ロイに魂を一部取り込まれており、符丁を繋げることが比較的楽なので。
その事実は知らないものの、ロイは一刻も早くラディウスの魂の欠片を取り除こうと、描写されていないところで色々試行錯誤しています。