宿敵の執着
身内認定されていることに気付かない主人公。
叔父と呼ばれているのに、近所のおじさんとして捉えられていると思い込んでいます。
燃え盛る炎の中で、ロイは誰かと対峙していた。
夢の中だからか相手の顔は判別がつかないが、その立ち居振舞いには見覚えがある。
恐らく知り合いなのだろう。
「お前はこれで良いんですか?」
ああ、思い出した。この青年が何なのかを。
聞き慣れた口調と声。普段の軽快さがなかったが故に分からなかったが、この青年は…
ロイはゆっくりと彼に歩み寄り、そして腰にさしていた剣を抜いて構えた。
「先代魔王…ラディウス・レード。君は私に何を聞きたいんだ?お前はこれで良いのか、なんて殊勝な言葉を君が言うわけがない」
「おや?随分と辛辣な物言いですね。これはお前の夢なのだから、多少は希望があった方が良いと思ったまでですよ」
「そうか。余計なお世話だ。胸糞悪い」
肩を竦めて微笑むラディウスの心臓を目掛け、ロイは一思いに剣を突き立てる。
夢の中であるはずなのに、この青年は毎回何かしらの忠告をしに現れる。幾度も告白を繰り返してはこちらのトラウマを触発する真似をする癖に、何故かやたらと心配してくるのだ。
しかもこの青年、現実と同様に、夢の中でも心臓を刺されていて元気だった。どうやらこいつ、頭だけじゃなく身体もおかしいらしい。
「折角心配しているんですから、礼くらい言ったらどうです。ほら、愛してる。リピート、アフター、ミー」
「ああ。こ・ろ・し・た・い」
思ったことを口にすると、何故か上機嫌そうな顔で頷かれた。まるで「それでこそロイデンハルトです」とか言われているようで気持ち悪い。
嫌悪感を剥き出しにするロイを見て、ラディウスは楽しそうに笑う。
「いやあ、あの時咄嗟に憑いて良かったです。魔王じゃなくなったからか特殊性癖も大分収まってますし、そろそろ復活できそうです。あ、勿論、お前への愛は不滅ですよ」
復活しないで欲しい。切実に。
「と言うか君はいつ消えるんだ。殺してからもう三十年は経つだろう?昔聞いた時は、殺した衝撃で魂の一部を取り込んだからとか何とか言っていたが、幾ら何でも長過ぎないか?」
「消えませんよ。何てったって私は元々夢魔ですからね。夢の中でなら永遠に生きられるんです」
「夢魔って夢の主に歯向かえないんじゃ…」
「一応魔王ですから」
何とも都合の良い奴である。
「おや?……面白いことになりますね」
と、気を逸らしている間に、聴覚に干渉していたのだろうか。ラディウスは空―もとい現実世界との境界線―を見上げ、当然のことのように呟いた。
いや、いやいやいや。ちょっと待って、
「君の『面白い』にはろくなことがない!言え。君は何を見たんだ!?」
「目覚めてからのお楽しみです。それでは、アディオス!」
「おい、ちょ、待っ…」
薄れゆく意識の中で、最後に認識できたのは宿敵の笑顔。生憎と、ロイにとってはただただ殺意のわくシチュエーションであった。
「あ、叔父様!目を覚まされたのですね!」
「ああ、リズか。おはよう」
上体を起こしてゆっくりと目を開く。
クリアになる視界に映るのは、魔王城と今代魔王のリズ・ベルヴィートのみ。どうやら懸念は現実とはならなかったらしい。
「良かった。おじさん、本当に嬉しい」
「叔父様ったらどうなさったの?魔王城に住み始めてからもう一ヶ月経っているのに、随分と楽しそうだわ」
「喜んでいる理由は別にあるんだけどねー…」
王族宛に手紙を出した後、ひとまず落ち着くまで魔王城にいようという方向に落ち着いた。
それからと言うもの、ロイは『寝起きする場所がこんなに豪華で良いのか…今だけ崇めます、神よ!』とか何とか、割と頻繁に言っていた。
リズにはそれと誤解されたのだろう。
「まあ良いか。で、リズは何か用かい?今朝は忙しくなるって言ってたのに、大丈夫なのか?」
「ええ!綺麗な黒髪と赤色の目をした美人さんが手伝って下さったので!」
何かに亀裂が走る音がした。
「リズ、その美人さんが誰か分かるかい?」
「いいえ。ですが何やら呟いておりましたよ。やっと現界出来ました、とか何とか。もしかして、歴代魔王のどなたかではないでしょうか!」
はしゃぐリズと対照に、ロイの顔色はどんどん悪くなっていく。
「嘘だろ、嘘だよな、嘘に決まってる…」
とりあえず魔王城から逃げようとベッドから下りた瞬間、勢いよく扉が開いた。
その先にいたのは、艶やかな黒い髪を軽く束ね、緋色に染まった瞳を楽しげに揺らす美青年。
「ロイデンハルト!そこにいるのでしょう?お前に会うために、わざわざ符丁まで繋げて地獄から舞い戻って来ましたよ!」
紛れもなく、先代魔王その人であった。
最初は緑色の瞳にしようかな、と思ってましたがとあるキャラを見て「見た目丸被りしてる!」と思って慌てて変えました。
本当は緑色が良かったけど、別のキャラ想像してしまいそうなので仕方ない。