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魔王は英雄と暮らしたい


その少女はあまりに可憐だった。

金髪碧眼、まさにテンプレの容姿をした彼女は、しかし神々しさまでもを身に纏っている。

人族と魔族が本来抱え込むべき災厄の体現者。それが一般的に『魔王』と呼ばれているものだが、初代、二代目、先代を除くと、まともに人の形を保っていることなどなかったはずだ。それがどう転がればこのような姿になると言うのだろう。


「君が魔王で良いのかな?」


確認を兼ねてそう問い掛けると、僅かな沈黙の後、少女はこちらを目掛けて走り出した。

目視できるがあまりに早い。

とりあえず気を失わせてしまおうと懐に手を伸ばしかけ、しかし彼女の表情を見て、ゆっくりと短剣から手を離した。


「君は…」

「叔父様!私、貴方をお待ちしておりました!二百年前から、ずっとずっとお会いしたいと思っていたのです!」


どすっと鈍い音を立て、抱き付いて来た少女。

…はて、どこかで見たことがあるような。

そうは思うもののなかなか思い出せず、ロイはとりあえず柔和な笑みを浮かべてリズの頭を撫でた。


「そうか…それで、君は誰かな?」


ここまで待ち焦がれてくれた少女に対してこの仕打ちは些か手荒いかもしれないが、物事を先伸ばしにしていて良かったことなどない。

仕方なしにそう問うと、リズは目を瞬かせながら答えた。


「初代魔王に瘴気を流し込まれた奴隷です。覚えていらっしゃらないのですか?絵本には詳しく描写されたので覚えていらっしゃるものだとばかり…あ、でも絵本は叔父様の言葉遣いが正しく載ってませんでした!と言うことはあれは想像のお話で…うぅ、恥ずかしい…」

「ちょ、待って、君生きてたの!?」


何とびっくり。

初代のエグい瘴気を流し込まれれば、ロイのような特別な人間でない限り即死してもおかしくはないのに、どうやらこの少女は普通に生き延びていられたようだ。

…いや、違う。前言撤回。よくよく考えてみれば二百年生きている時点でおかしい。

不死の呪いのお陰で最近ようやく四十代の頃の姿に戻れたロイとは違って、加護も呪いも受けていないはずなのに、彼女の容姿は幼いままだ。

魔王は不老不死だが、基本的に出来るだけ活動しやすいようにと全盛期の姿をとる。ならばもう少し成熟した姿になっているはずなのだ。


「生きてますよ!叔父様が『痛いの痛いのとんでいけー』ってやってくれたでしょう?あれで本当に痛みがスッと引いてですね、」

「待って!?おじさん、そんな素敵能力持ってないんだけど!…持ってないよね?」

「…………?叔父様の瘴気緩和はどう考えても素敵能力ですよね?」

「あれ体質じゃなかったの…本当に…?」


約三百年生きていて初めて知った衝撃の事実に、どうしようもなく狼狽える。まあ、だからと言って、何かが大きく変わるわけでもないのだが。


「それにしても、随分と幼いね」


とりあえず適当に何か言わなければ、と咄嗟に口にしたのはそんな言葉だった。

ロイの心中など露知らず、リズは涙を浮かべながら感謝の言葉を述べる。


「ええ。叔父様が瘴気を跳ね返してくれたお陰で私は自我を呑まれることなく、暫く人間として『生きる』ことが出来たのです。ですから私の全盛期はこの姿ですよ。

叔父様がいなければ、私はあそこで意思なき魔王と成り果てていたでしょう。ですから、叔父様、私は…」


泣きじゃくるその姿を見て、ロイは最早何も言えなくなった。人間としての意思を持つ者を討伐するのは、失われつつある『人間の部分のロイ』には些か荷が重い。

しかし、世の中に災厄を撒き散らす存在を野放しにしておく訳にもいかないのだ。英雄は、民を苦しめるものは何であれ排除しなければならないと、そう決められているから。


「ごめんねリズ。おじさん、これでもれっきとした英雄だから。君を殺さなきゃいけないんだ」


諦念を口にすると、彼女は俯き、そしてぽつぽつと話し始めた。


「私、英雄厨なのです」

「はあ…」

「討伐されたご先祖様からも話は伺っております。叔父様は人々の希望のために自らの望みを踏みにじる英雄なのだと」

「何故それを知ってるのかな?て言うか死人とどうやって対話できてるのかすっごい不思議」

「私、叔父様の良さを知っている歴代魔王の全員を、以前召喚したのです。ですから、叔父様を褒めてくれた皆さんの為にも、そして私の為にも、叔父様にこれ以上望まぬことをさせる訳にはいかないんです!

ですから、私と一緒に暮らしましょう!瘴気を打ち消して私を助けて下さい!」


どうしよう。『人間』を殺したくないロイにとってはありがたい申し出だが、一つだけ聞き捨てならないことがあった。

歴代魔王を召喚したと言ったか、この少女は。魔王は一人しかいないというルールのお陰で災厄の力はリズしか持っていないにせよ、魔王だった魂とか厄介でしかない。

と言うか、全員の魂を召喚するとか、リズも大概出鱈目である。

だが今はそんなことはどうでも良いのだ。


「歴代って言った?」

「言いました!」

「よし分かった。おじさんが全力でリズの瘴気を緩和してあげよう。だから、先代だけは現界させないでくれる?」




魔王城から遠く離れたとある屋敷の中。

一人の男が、紅茶を手に自身に向けてあてられた手紙を目にしていた。


『命令通り魔王を鎮圧致しました。現在監視中ですが異常はありません。暴走すれば私で片をつけますので、深追いはお止め下さい。お手数ですが、情報操作を頼みます。

ロイデンハルト・ザ・メルゼン』


何の装飾もないそれに記されていた内容は、攻撃すれば敵に回るという至って直情的なもの。

それを手にした男―シュヴァイン国国王―はふっと笑みを浮かべ、虚空に零した。


「おめでとう、愛の神ラハト。どうやら君のお気に入りは人間になることを決めたようだ」



先代のキャラにハマって思わず今回も(名前だけ)出してしまいました。もしかしなくても今後登場すると思います。英雄厨筆頭なので。

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