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魔王城にて


魔王城で、英雄ことロイは一人で唸っていた。

城の作りはその名に違わぬ荘厳な雰囲気で、祖国の王城よりも緻密な出来映えである。

唸っている理由はそこではない。先代魔王の時にはやたらファンシーだった城が、何故見違えるほどまともになっているのかと言うことではない。


「これ、すっごい厚待遇じゃない?」


勅命により魔王鎮圧―実のところ魔王討伐―をするつもりが、ご馳走を振る舞われることになろうとは欠片も予想していなかった。

もし仮に向こうに殺意があったとして、このような回りくどいことをする必要などないはずだ。

痺れ薬を使って拷問しようが、麻痺毒を使って四肢をもごうが、不死の呪いのお陰で全て元に戻るのだから。痛みで気を狂わせようとも、生憎と『英雄』はそれほど柔じゃない訳で。


「我が主が貴方にお会いしたいと。構いませんか?」


先にあるであろう処遇を考えていると、漆黒の衣に身を包んだ女が、何の前触れもなくロイの目の前に現れた。

あまりにも不自然な彼女の現れ方に、しかしロイは気にした様子もなく気さくな笑みを浮かべる。


「構わないが、それはこちらで決めて良いことなのかな?私は君達から見ればれっきとした侵略者のはずだが」


短剣を懐に忍ばせながら話しているあたり、侵略者以外の何者でもないはずなのだが。

それを察知しているだろうに、彼女はうっすらと笑みを浮かべながら首肯した。


「我が主は貴方を愛してやまないらしいので、構わないでしょう」

「は?…あれ、おじさん、知らない内に何かヤバいことに手を染めてたりする?魔王に気に入られるなんてよっぽどのことじゃない?」

「素が出てらっしゃいますよ」


魔王は初代から先代までずっと男である。

男に愛してやまないと言われても、ロイは寒気しか感じなかった。先代の嫌がらせが地味にトラウマになっている英雄である。


優男のような顔をして平気で拷問を繰り返す先代には嫌な思いをさせられたが、トラウマになったのは後にも先にも一つ。

痺れ薬を盛られ、錘をつけられ、海に沈められたロイがぐったりしている時に、先代が放った言葉である。


「お前が苦しんでいる姿が好きです。そう、お前がこれから乗り越えていくのは愛の試練。いつでもおいで、ロイデンハルト」


この言葉を聞いたその瞬間に共存は無理だと理解し、即刻で討伐したのはさておいて。

いくら災厄の象徴でしかないとは言え、根っからの悪人などそうそういないとは言え、相手はれっきとした魔王である。警戒しない訳がない。


「率直に聞く。君の主はまともかい?」


先代は仕えていた魔族にすらも常軌を逸していると囁かれていた。

返ってくる答えによっては、問答無用でその首をはねることも厭わない。

いっそ、先代が蘇っていて欲しい。そうすれば情けは無用、厄介事も魔王もおさらばだ。


そう思っていることを知ってか知らずか、彼女は小動物でも見たかのような癒し顔で答えた。


「はい。私が思い浮かべていた魔王とは大分差がありましたが、比較的まともですよ」


…ふむ、とりあえず良かった。

先代が蘇っていたらと仮定はしたが、もし本当に蘇っていたとして、絶対に「これは運命ですよロイデンハルト!私の元においで!」とか言うに決まっている。

思い出すだけで鳥肌が立つわ。クソ先代め。


「そうか。それでは案内して貰おうかな」


とりあえず、今代魔王に叙情酌量の余地はありそうだ。



ギャグ要因出そうとしたら主人公が酷い目に遭いました。ごめんね、ロイデンハルト!

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