おはよう骸骨くん!
カタカタと骸が動く。とある城の一室に眠る棺の中で、死んだはずの者が震えている。
死んだはずの、皮膚も肉もないただの骸骨。タネも仕掛けもないはずのそれは自らの意思で起き上がった。
端から見れば、それに意思があるのかも疑わしい。何故ならそれには脳がない。どう見ても骨しか存在していないのだ。
「……………ぁ、が………ぅ」
しゃがれた声が響き渡る。地獄の底から聞こえるような、怨嗟に満ちた声だ。
化物は遂に眠りから解き放たれてしまった…
「ごほっ、ごほ…だ、誰ですカ!?ワタクシの寝床を勝手に変更した輩ハ!埃まみれの棺とか寝心地悪すぎですネ!…て、あれ?ここ、もしや魔王城ですカ?」
四代目魔王ハルシオン。
またの名を、骸骨管理人SOS(superintendent of scull)。ちなみにこれは自称である。そのように呼ぶのはアンデッドにしか見えないハルに怯える一般人くらいしかいない。
彼はぷんすか怒りながら扉を開けた。安眠を妨げた輩を見つけ出し、説教をかますために。
「お前がそろそろクソうざいチラリズム始める頃合いだと思ったので、二代目に頼んで根城から直接転送して貰いました」
結果から言おう。
犯人はラディウスとツヴァイだった。
「悲しいデス…もう少しミステリアスな登場シーンの予定だったのニ…」
涙を流す機能などないのに、わざとらしく泣き真似を繰り返すハル。
予定ではロイのピンチを救って「ふっ、ワタクシはただの骸骨ですヨ」と言うつもりだったらしいが、最強英雄にピンチが訪れる日が来るのだろうか、と二人は疑問に思う。
それよりも、
「その喋り方からして無理だろ」
「そうですよ。一人称と敬語キャラ被ってます。どうにかならないんですか?無駄にダンディな低音ボイスなんですから、我輩とか上から目線口調とか似合いますよ」
「そっちじゃねーから。変な口調の方だわ」
これほど変な喋り方をしていてミステリアスに見えるはずがなかった。
それをやっと自覚したのだろう。ハルは、カタカタと骨を震わせ、膝から崩れ落ちた(※比喩)。
根っからのお調子者は、多少無理をしたところでダンディでイケメンな奴にはならないのだ。
「ではワタクシは…ワタクシは何のために今まで登場しなかったのですカ!?」
「いや、俺に聞くなよ。知らんわ。あんたが自分でそう望んだんだろうが」
辛辣なツヴァイの発言に、ハルは今度こそよよよと泣き崩れた。
何故か血の涙が流れている気がする。
「仕方がない…であれば、ロイ殿に奇襲をかけて少しでもインパクトのある登場をするのみ!」
「私それやりました」
「…………………………」
「追い討ちかけんなや」
屍と化した。いや、最初から屍だったけど。
「とりあえず私、挨拶してきます」
「おう…」
「元気だして下さいね」
幽鬼のようにふらふらと、足取りもおぼつかない状態で、ハルは外廊へ向かって歩き出した。
そして扉を開け、
あ、ロイとリズじゃん。
「え?…よ、四代目魔王の、ハルシ…」
「きゃああああああぁぁぁぁぁあぁぁ!SOS(誰か助けて下さい)!」
どごっ
「ぶへらぁっ」
リズにものすごい勢いで蹴り飛ばされ、脳裡に焼き付くような登場シーンとなった。
「オハヨウゴザイマス…」
まさに粉骨砕身。意味は違うけど。
「おはよう…骸骨くん」