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狂宴の時

久し振りの更新だからか、台詞がちょっと多いです。


ああ、このような悲惨な結末を迎えると知っていたのなら、きっとどんな手を使ってでも彼女を止めていただろうに。


惨状を前にして、ロイはそんなことを考えた。


まだ傷が完治していないはずの勇者は、足の痛みはどこへ行ったのやら、「ヘラクレスオオカブトだー、あはは、待て待てー」とか言いながら部屋中を走り回っているし(幻覚症状)、右に出る者がいないほどの魔術遣いである二代目は魔術で治癒しきれないほどの腹痛に見舞われたからか気が狂ったようにケタケタ笑っているし、先代に至っては屍のような虚ろな表情でひたすら自虐を口にしている。


そう、悉くキャラが崩壊していた。

先代の拷問のお陰で耐性のあったロイは、摂取量が少量だったこともあって辛うじて意識をまともに保っていたが、それ以外の面子は軒並みアウトだった。いや、


「やはり皆様お疲れでしたのね…この不思議料理でも食べて元気を出して下さい!」

「「「…………………………………」」」

「ツッコミすらないの、君達!?」


この大惨事を引き起こした張本人のリズだけは、不思議そうな顔で彼等を見回しながら平然としているのだが。


全てはリズが出した不思議料理から始まった………





英雄会なるものの概要を説明されながら、ロイはリズと共に執務室に向かっていた。

二代目が魔術で作った亜空間の入り口が執務室にあるらしい。普通に食堂で開催すれば良いのではと思ったロイだが、それでは困るそうで。


「それで?歓迎会ってやつの会場はここで良いのかい?料理はリズが?」

「はい!先程召喚したばかりなので、まだ動き回ってないと思います!」


この時点で気付くべきだった。亜空間でないと困る理由や、『召喚したばかりだから動き回らないもの』が一体何なのかということを。

しかし、生憎ロイは、娘的存在であるリズが自分のために用意してくれたと、上の空になっていて気付けなかった。


満面の笑みを浮かべているリズと共に執務室の扉を開け、亜空間へと足を踏み入れる。その瞬間、長机に沢山並べられている料理が目に入り、何とも言えない香りが鼻についた。


あ、これ何かヤバい。


そんな英雄の勘が働いた。

美味しそうな匂いだし、見た目もかなり良い。味も良さそうだが、恐らくこれには『何か』ある。


「さあ、叔父様!英雄会による叔父様の歓迎会ですよ!じゃんじゃん食べて下さいね!」


「主役なんですから遠慮はしないで下さい?」

「あんたが来るまでお預けにされてたんだ。早く食べたいからさっさと座ってくれ」

「ナーシャとミラは欠席です。準備も整いましたし食べましょう」


ちゃっかりあの二人も入会しているらしい。

そんな新事実はさておき、ロイは恐る恐る腰を下ろした。とりあえず様子見をしよう、と。


「それではどうぞ、召し上がって下さい!

ちゃんと味見しましたから安心して下さいね!」


歓迎会という名目ではあるが、リズとしてはお疲れ様会である。自ら給仕となって数々の料理を振る舞い始めた。

桜エビのパスタやチーズリゾット、鱈と茸のアヒージョなど、何故ここにあるのか分からない料理で溢れていたが、それは美味しかったし安全だった。雲行きが怪しくなったのは、この世界の不思議料理のフルコースからである。



「食べれば食べるほどお腹空くんだけど…」

「はい!腹が膨れても空腹感は持続します!ですので味に飽きるまで永遠に食べられますよ」

「えっ」


魔王城で初めて会ったあのメイド…ティア曰く、余程耐性がないと過剰摂取して半分死ぬらしい。

そりゃあね!?

栄養も偏るし空腹感のせいでまともに睡眠もとれないし、不健康になる未来しかない。寧ろよくそんなものを食べ物と認定したものだ。


「勇者が幻覚症状出てるんだけど!?」

「食べると一定の間現れるんです。麻薬と違って中毒症状はないので安心して下さい」

「お願いだから来客者に危険物とか食べさせないでくれる!?」


安心できる要素がどこにもなかった。加護を受けている勇者ですらコレとか、一般人が食べて果たして存命出来るのだろうか。

と言うかロイは、魔王が勇者に毒もどきを摂取させたと知られて戦争が起こりかねないかが心配だった。


「二代目の気が狂った。リズ…」

「おかしいですね、生体活動を活性化させるだけなので安心ですよ?消化が活発になっているのではないでしょうか」

「可哀想に…」


異常に消化活動が活性化された結果、胃の粘膜がすりきれて胃潰瘍のような状態に陥っているのだろう。治癒魔術は体の回復能力を引き出すために体内を活性化させる。つまり、かければかけるほど胃は痛くなるのだ。今は胃を包丁でグサグサぶっ刺されている気分だろう。

そりゃあ痛いわ。


「先代の自虐が始まったんだけど。そろそろ饗宴(狂宴)は終いにしないか」

「ラディウスさんは皆さんが召し上がっていたもの全てを食していましたから、食べあわせが悪かったのでは…」

「うーん、そう言うのじゃないんだよね…それに先代が食べてた料理が、死ぬほど不味い上に震えてるんだけど、何?」

「魔物の死肉ですよ?美味しいですよね!」


先代に至っては、その全ての苦痛を味わい、魔王になる前のトラウマ満載状態に戻っている。

「申し訳ありません、僕なんかが、ああ、本当にごめんなさい…」とかキャラじゃない謝り方までしているし、一人称まで変わるとか、流石に不憫すぎる。


このままでは間違いなく誰かが脱落すると理解したロイは、初めてリズを叱り飛ばした。


「リズ!歓迎してくれるのはありがたいけど、死人や廃人は出すな!」

「ご、ごめんなさーいっ」





それから一週間、皆の主食はティアが作った粥になった。



メイドの名前はティアレーゼン・ラフムです。

魔王城の使用人の中では最強ですが、「メイドたるもの、誰からも求められ、誰からも気にされない空気になるべし!」と考えているため、あまり出番は多くない。

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