動き出す魔王達
上機嫌だったロイは、一瞬にして平静に戻った。
「同盟?そんなことして両国に一体何の利益があるんですか?今代を守りたい気持ちは分かりましたが、外交…知らぬ分野に迂闊に手を出すと痛い目を見ますよ」
持ち込んだ提案をラディウスにバッサリ切り捨てられたからである。ロイ至上主義の癖にこう言うところはしっかりしているのが、ロイとしては何となく腹立たしい。
リズやツヴァイからも了承を得て満場一致で可決されるかと思いきや、予想外のところから横槍を入れられた気分なのだ。
苦手な相手からもとりあえず意見を聞こうという平等主義が裏目に出たのか、それとも他がロイのイエスマンなのか。
「現実味に欠けているとは思ったけど、無理ではないとも思うんだよね。私は」
「はい。恐らく不可能ではありませんよ?但しそれを可能にするには『英雄』や私達の存在がセプティアに認知されてしまったことをそちらの国に伝えなければなりませんが」
「………マジで?」
「マジです。しかも、国王だけでなくお前の存在を知っている全員にですよ」
確かにラディウスの言うことにも一理ある。理由もなく「隣国と同盟関係になれ」などと言っても聞き入れて貰える筈がないからだ。
しかし、それはそれとして、このことを報告するのは嫌だった。一体でも手がかかる(ロイ以外にとってはそういう次元ではない)魔王が量産されているなどと言ったら、全員討伐せよと言われかねない。
それは肉体的にも精神的にも辛い。
「……………………………………………そう、か…」
どんよりと落ち込むロイ。その目には希望などなく、ただ現実に流されるしかないという諦念が浮かんでいる。
どんよりと、ただひたすら暗く…
「ああ、もう、分かりましたよ!どうにかすれば良いんでしょう!?」
見かねたラディウスが、自棄になって叫んだ。
あ、どうにか出来るんだ。
「…出来るのか?」
「ええ。いざとなったら汚い手段でも何でも使わせて貰いますけど、構いませんね?」
「洗脳とかしないよね?」
「か、ま、い、ま、せ、ん、ね?」
「……まあ、何だ。出来るだけ穏便に頼むよ」
久し振りに見たラディウスの不満顔。
それがツボに入ったロイは、彼が部屋から去るまで必死になって笑いを堪えていた。
余談だが、ロイの知らないところでラディウスはツヴァイの力も借りて一週間徹夜して働いた。
こんなところで健気さを発揮する暇があれば普段からまともにして好感度を上げれば良いのに、とツヴァイに思われていることなど知らずに。
歴代達が暗躍している一方で。
リズは悩んでいた。皆が動き回っているのに自分は何もしないままで良いのか、と考えていた。
そんな事を考えている時に、近くにメイドが通りかかった。彼女らが運んでいるのはロイ達への食事だ。それを見て、リズは思い付いてしまう。
「世界の不思議料理を召喚すれば良いのです!」と。自分で作るか、もしくは無難に美味しいものを召喚すれば良かったのに、彼女は禁断の道へと進んでしまった。
後に魔王の間でまことしやかに語られることとなる『ダークマター事件』。英雄や魔王、果ては同盟を結んだ勇者までもが顔面真っ青になりながら悶絶したと言われる世界最凶の事件。
それはこの時、既に始まっていたのであった。
「うん、なかなか美味しいです!」
何てったって、リズの味覚はとにかく酷い。