波乱の会談
今回はギャグもシリアスもそんなにない、説明回のようなものです。
「まず紹介から始めよう。彼女は魔王リズ。そっちにいる緑の少年がツヴァイで、床に転がってる奴がラディウス。私はロイデンハルトだ」
「えっと…俺は勇者のナギです。そっちの紫の子がナーシャで、橙色の子がミラです」
「それで、ナギくん?君達はどこから遣わされて、ここに何をしに来たんだい?」
「「「……………………」」」
ロイは困り果てていた。
勇者達は、表情にこそ出さないものの、ロイ達にかなり怯えている。
あの凶悪なラディウスを叩きのめした男とそれを慕う魔王だ。きっと恐ろしい目に遭うに違いない、と思っているのが手に取るように分かってしまう。
「叔父様…この人達、何か怖いです…」
死に物狂いで思考を働かせているであろう勇者一行…特に魔術師の形相を見て、リズがこわばった声で助けを求める。
「大丈夫だからねー、落ち着いてねリズ。はい、深呼吸深呼吸」
「は、はい…すー、はー、すー…」
ナーシャと言っただろうか。
紫紺の綺麗な髪がボサボサになることも、リズが怯えていることもお構いなしに、彼女は頭を掻きながらカッと目を見開いて何か呟いていた。
「あの、ナーシャさん?でしたよね…その…」
「私は出来る私は出来る怖くない怖くない…ワタシハデキルワタシハデキルワタシハ…」
「叔父様ぁぁぁ!?ナーシャさんが、ナーシャさんが恐ろしいことに!」
「落ち着いて!大丈夫だから二人共!」
「ナーシャ、大丈夫だから!とりあえず落ち着いて話し合おう?」
ナイスフォロー、ナギくん!
恐怖のあまり自己暗示をかけ始めたナーシャを落ち着かせつつ涙目で震えるリズをあやすのを一人でやるには、色々と辛すぎる。
とは思うものの、こちらに非があるため、ロイはとりあえずナーシャを注視した。
目を大きく見開き、取り立てて注目することもない机を凝視して、早口でぶつぶつ呟く少女。
…ヤバい。おじさん、超逃げたい。
「私達は!…私達はセプティア皇国から参りました。魔王城で不穏な動きがあったので、様子見がてら、魔王が復活していないか確認せよと命じられて」
漸く落ち着いたらしく、ミラにさりげなく背中をさすられながら、ナーシャははっきりとそう口にした。ナギが小声で「よく頑張った!偉いぞ」と言っているのが聞こえる。
あ、さては慣れてるな?君達。
「そうか…」
それはともかく。彼女が発した言葉に、ロイは友好的な笑みを貼り付けたまま戸惑った。
随分と素直に答えたものだ。だが、ここまで来れるような実力者がそのような些事の為に駆り出されたとは考えにくい。
先代の言う通り、彼女達が嘘をついていることを前提で考えた方が良いのかもしれなかった。
「お疑いですか?ですが生憎、嘘は一つも言っておりませんよ」
「へえ…」
先程のアレで、完璧な状態に戻ったらしい。怯える様子もなく、ナーシャは平然と言ってのけた。
それがどうしても嘘をついているようにも見えず、ロイは僅かに眉を寄せる。
恐らく、嘘ではないが真の理由でもないのだ。
「本当の理由を話さないと帰さないよ」
「討伐の意思はこちらにはありません。それさえ分かれば宜しいのではありませんか?」
「駄目だ。君達は知らない内に見てはならないものを見てしまった。それが嫌ならツヴァイに頼んで記憶を弄って貰うしかないが」
見てはならないもの。
勇者達はリズのことだと思っているのだろうが、それは違う。本当に見てはならなかったのは、英雄と魔王一派である。
まあそれも、ラディウスが迎撃した時点でアウトだったのだが。
「ツヴァイくんの魔術を使えば、ボク達が話さなくても知ることが出来るんだろ?だったらさっさと使えば良い。何故そうしない」
ミラの鋭い指摘に、ロイは固まった。
「下手したら廃人になるからだけど」
「叔父様…それは止めた方が良いのでは…?」
ツヴァイの魔術の腕があればその可能性は非常に低いのだが、それでもあり得ないとは断言出来ないのだ。リズからの忠告もあるし、あまりとりたくない手段であった。
ミラは、きょとんとした顔でそのままナーシャに向き直る。
「………どうしよう、ナーシャ」
「話しましょう。恐らくそれしか道はありません」
「王族離れする貴族を繋ぎ止める楔か…これはまた面倒なことに巻き込まれたね」
勇者一行が立ち去った魔王城には、嵐が過ぎ去った後のような静けさが残っている。その中で、ロイは一人呟いた。
ナギが極限まで守られているのは、勇者の権威を借りて、王族が離反しかけている貴族を統制する為なのだと聞かされ、ロイ含め、あの話し合いに参加していた人々は反応に窮した。
勇者達は、魔王によって世界に混沌がもたらされるから討伐しに来たのではなく、勇者らしいパフォーマンスをある程度見せなければならないから仕方なく来たのだ。
確かに魔王に滅ぼされるより前に滅んではどうしようもないのだが。利用される側としてはたまったものではない。
あの言葉、裏を返せば『パフォーマンスで魔王を討伐することもある』と言うことである。
魔王城にはロイ達以外にも、魔王に近しい力を持つ魔族が幾人かいる。彼等も含めれば戦力はかなりのものだろうが、消耗戦となると向こうに軍配が上がるのは目に見えていた。
シュヴァインからの支援などあってないようなものだし。
「でもさ、これでセプティアは不用意に攻め込まないんじゃね?こっちは内情を知ってるんだし、いざとなれば弱みを突けば良いだろ?」
悩みに悩んでいたその時。
ツヴァイの問いを耳にして、ロイの脳裏に一つのアイディアが閃いた。
「ツヴァイ…質問なんだけど。
この二ヶ国に同盟組ませて、勇者達を味方に引き入れられたりしないかな?」
魔王を守る為の、悪魔的なアイディアが。
庇ったことについては色々と理由を言ってますが、単に二人共、ひたむきに頑張るナギを守りたいからという理由が大きいです。
但し今のところ、そこに恋愛要素は一切ない。