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あさひ  作者: 瑞鳥ましろ
8/17

プレズント~期待するもの~

授業中、欠伸が出そうになったので下を向いてこらえたら、机にうっすらと残った落書きが目に入った。

昨日の佳恵の落書き。

目を凝らすと“A.M”の文字が浮かび上がる。その横の矢印。以外はもう完全に消えていて読み取れない。


彼の家へ寄ると、帰宅が遅くなる。それでも毎日の読書量は変わらず保っているから、睡眠時間を削るしかなくなって、私の睡眠不足はひどくなるばかりだ。


やめてしまえばいいのに。こんなくだらないゲーム。


「旭。旭真日」


考え事をしていたせいか、それともただ単にうとうとしていたせいか、先生に指名されたのに気づかなかった。


「旭」

「……はい」

「三行目から読んで」


指示された通り、教科書を音読する。他の皆もそうするようにぼそぼそとした棒読み。無感情に、どこか投げやりに。


なんのために学校に来てるんだろう、と時々思う。

勉強するため?

もちろんそうなんだろうけど、必死に眠いのを我慢して受ける授業になんの意味があるんだろう。

義務教育だから?

それもある。出席さえすれば卒業できる。だから私は毎日中学校に通う。でもきっと中学を卒業したら高校に行くだろう。高校は義務教育じゃない。だけど私はきっと行く。それが無難な道だから。







コンコンコン。


すぐに反応があった。


『誰、マヒル?』


壁の向こうから聞こえてきた自分の名前に、ドキッとする。


「マヒルって……」

『マヒルだろ、お前』


いつからあなたは名前を呼び捨てにするぐらい親しくなったの、と聞こうとして慌てて飲み込んだ。意地悪な彼のことだから、たったひとつの今日の質問としてカウントするかもしれない。

このゲームには質問は一日ひとつという厄介なルールがあるのだ。


「質問してもいい?」


改めてそう尋ねてから、やっぱりそれも質問になっていることに気づいた。

彼はクスッと笑って、


『どーぞ』


と返した。


「ねえ、学校好き?」

『学校?』

「そう、学校」

『別に好きでも嫌いでもないけど』

「……はっきりしないね」


私のがっかりした声に気づいた彼は、クスクス笑う。


『何、面白い案でも思いついた?』

「面白くはないと思うけど。私が考えたのは、三山くんが学校での勉強に飽きたんじゃないかっていうこと」

『へーえ、今日の結論それでいいの?』


からかうような口ぶりからして、おそらく外れだろう。最初から期待なんてしてなかったけど。


『その仮説を立てるまでの経緯、教えて』

「嫌」

『つまんねー。ま、いいや。つーかさ、勉強に飽きるって俺はどんな秀才だよ。それとも逆に能のない馬鹿だと思ってんの』

「さあ」

『お前なあ』


相手の顔が見えない。そのことは、相手からも自分は見えていないという安心感と、相手の真意がわからない苛立ちを生む。


『とにかく学校に飽きたわけじゃない。もともと期待してなかったものに飽きようがない。興味もねーよ。だから今日はお前の負け』


最後は冗談めかして彼が言った。




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