プレズント~期待するもの~
授業中、欠伸が出そうになったので下を向いてこらえたら、机にうっすらと残った落書きが目に入った。
昨日の佳恵の落書き。
目を凝らすと“A.M”の文字が浮かび上がる。その横の矢印。以外はもう完全に消えていて読み取れない。
彼の家へ寄ると、帰宅が遅くなる。それでも毎日の読書量は変わらず保っているから、睡眠時間を削るしかなくなって、私の睡眠不足はひどくなるばかりだ。
やめてしまえばいいのに。こんなくだらないゲーム。
「旭。旭真日」
考え事をしていたせいか、それともただ単にうとうとしていたせいか、先生に指名されたのに気づかなかった。
「旭」
「……はい」
「三行目から読んで」
指示された通り、教科書を音読する。他の皆もそうするようにぼそぼそとした棒読み。無感情に、どこか投げやりに。
なんのために学校に来てるんだろう、と時々思う。
勉強するため?
もちろんそうなんだろうけど、必死に眠いのを我慢して受ける授業になんの意味があるんだろう。
義務教育だから?
それもある。出席さえすれば卒業できる。だから私は毎日中学校に通う。でもきっと中学を卒業したら高校に行くだろう。高校は義務教育じゃない。だけど私はきっと行く。それが無難な道だから。
コンコンコン。
すぐに反応があった。
『誰、マヒル?』
壁の向こうから聞こえてきた自分の名前に、ドキッとする。
「マヒルって……」
『マヒルだろ、お前』
いつからあなたは名前を呼び捨てにするぐらい親しくなったの、と聞こうとして慌てて飲み込んだ。意地悪な彼のことだから、たったひとつの今日の質問としてカウントするかもしれない。
このゲームには質問は一日ひとつという厄介なルールがあるのだ。
「質問してもいい?」
改めてそう尋ねてから、やっぱりそれも質問になっていることに気づいた。
彼はクスッと笑って、
『どーぞ』
と返した。
「ねえ、学校好き?」
『学校?』
「そう、学校」
『別に好きでも嫌いでもないけど』
「……はっきりしないね」
私のがっかりした声に気づいた彼は、クスクス笑う。
『何、面白い案でも思いついた?』
「面白くはないと思うけど。私が考えたのは、三山くんが学校での勉強に飽きたんじゃないかっていうこと」
『へーえ、今日の結論それでいいの?』
からかうような口ぶりからして、おそらく外れだろう。最初から期待なんてしてなかったけど。
『その仮説を立てるまでの経緯、教えて』
「嫌」
『つまんねー。ま、いいや。つーかさ、勉強に飽きるって俺はどんな秀才だよ。それとも逆に能のない馬鹿だと思ってんの』
「さあ」
『お前なあ』
相手の顔が見えない。そのことは、相手からも自分は見えていないという安心感と、相手の真意がわからない苛立ちを生む。
『とにかく学校に飽きたわけじゃない。もともと期待してなかったものに飽きようがない。興味もねーよ。だから今日はお前の負け』
最後は冗談めかして彼が言った。