ブレイク~眠れない~
彼は淡々と条件を並べたてていった。
まず、質問は一日ひとつだけ。よく考えてから質問すること。
それから、その日の結論を出す。つまりどうして彼が学校に来ないのかという理由を。
そのとき思い付いたにしては条件が整理されすぎていた。もしかしたら彼はあらかじめこのゲームを持ちかけるために考えていたのかもしれない。
きっと部屋にこもりっぱなしだから退屈してるんだ。退屈しのぎに私をからかおうとしているに違いない。
だいいちこのゲームの条件というかルールは、私が毎日通うことを前提としている。
ちょっと横暴すぎない?
私には私なりの事情というものがあるのに。
そう私が訴えると、彼は少しも気に留めず笑った。
クスッ。
『どーせひとりで本読んで、あとは寝てるだけだろ。少しは人のために時間を割いてみたらどう?』
ずるい。
彼はずるい。
私の心を揺るがせて、自分の望む方向へ持っていこうとする。それに抗おうとすると、今度は私の全てを知っているような口ぶりで惑わす。
私はただ物語の中だけにとどまっていられたらそれでいいのに。ほかのことに興味なんてない。
でもそんなことで実際に生きていけるのかと考えてみれば、どう転んだって無理に決まっていた。
私はもっと人と関わらきゃいけない。
ゲームを受けることにした。彼の誘いにのるのは悔しかったけど、でも私は覚悟を決めた。
なぜなら彼がこう言ったから。
『お前が勝ったら、俺、学校行ってもいいよ』
私が勝てば彼は学校に来る。
つまり私の存在が初めて誰かの人生に影響を与えるかもしれないということ。
だって義務教育をきちんと受けるか受けないかって、重要でしょ?もちろん受けた方がいいに決まってる。そうじゃないと後の進路選択に支障が出るかもしれない。
彼の登校状況なんて私には関係ないけど、これは私にとっても大事なこと……なんだろうか。
家に帰ってもそのことばかり考えていて、図書館で借りた本を開いたはいいけど少しも内容が入ってこなかった。
諦めてベッドに入る。
ところが学校ではすごく眠かったのに、いくら待っても眠りに落ちない。寝ようと思えば思うほど、頭が冴えてしまう。
不意に彼の言葉がよみがえる。
『俺のこと覚えてんの?』
知らない。私は彼を知らない。