表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あさひ  作者: 瑞鳥ましろ
4/17

プレズント~被害者~

眠い。とてつもなく眠い。


「まふぃー、ねえねえ、昨日三山くんの家に行ってきたんでしょ?どうだった?」


私はぼんやりした頭で、


「え?」


と聞き返す。


「だから昨日、三山くんの家」

「ああ、うん」

「どうだったの?」


クラスメイトの佳恵(かえ)が興味津々といった様子で詰め寄ってくる。


「寄せ書き、置いてきた」

「三山くん、家にいたの?」

「いたよ」

「会った?」

「部屋に閉じこもってた。ちょっと話した」

「話したの!?」

「うん」


ふわーあ。

欠伸が出た。いけない。もうすっごく眠い。


佳恵はそんな私の様子を気にすることもなく、なぜだかちょっと涙目になって言った。


「三山くん、もう学校来ないのかな」


知らないよ、そんなの。私はそんなこと知らない。


「ねえ、まふぃ」


眠気を覚まそうと思って、手の甲をつねった。ぴりっとした痛み。でもやっぱりまぶたは重い。


向井(むかい)さんも休んでるんだよ、ずっと」

「……向井さん?誰?」

「隣のクラスの向井心音(ここね)。去年同じクラスだったでしょ。覚えてないの?」


言われても、覚えがない。聞いたことのある名前のような気がしないでもないけど、実際は全く知らない気もする。私のクラスメイトに対する認識なんてその程度。


佳恵が顔をしかめ、声をひそめる。


「今さら被害者面するなんてセコいよね。私あの子、嫌い」

「え、あの子って、その向井さんのこと?」


佳恵は普段あまり人の悪口を言うタイプじゃない。その佳恵がここまで嫌悪を表す相手なら、さすがの私も名前ぐらいは聞いたことがあると思うのだけど……さっぱり記憶にない。


それにしても。


「佳恵、顔怖いよ。力抜いたら?」


私の忠告を聞いて、佳恵はますます目を見開いて妙な顔をする。


「だって三山くんかわいそうだもん。そりゃ深刻な顔になるよ。あと、目付きが悪いのはもとからだし」


かわいそう、という言葉を聞いて、ちょっと興味が湧いた。物語の定番といえば、悲劇のヒロイン。三山くんは男の子だからヒーローと呼ぶべきかもしれないけど、とにかく。奇想天外なストーリーは大歓迎だ。

なかなか無責任で自分勝手な私。


「三山くんがどうかしたの?」


クラスメイトに全くといっていいほど興味がない私と違って、佳恵は噂話に目がない。

きっと彼についての情報も持っているんだ。


「えーっと……まふぃ、シャーペン貸して」


ペンケースから勝手にシャーペンを取り出し、さらに勝手を重ねて、佳恵は私の机に何かを書いた。

“A.M”と最初に書いて、少し離れたところに“K.M”。そしてそこから“A.M”に向かって矢印。


「向井さんは三山くんのことを……」


小さな声でぶつぶつ言いながら、矢印の上にハートマークを書き足す佳恵。

これは……本の人物紹介でよく見る相関図だ。


「わかるよね?」


聞かれて、眠気もだいぶ収まっていた私はこくこくうなずく。

“K.M”が“Kokone Mukai”。“A.M”は三山くんのことだろう。


あれ……三山くんのファーストネームってなんだっけ。


「ところが三山くんにふられた向井さんは凶暴化してしまいます。彼女の携帯のメモリーには彼の写真がいーっぱい」


ここが聞かせどころとばかりの語り口調。

ぞくぞくする。本当に小説みたい。


「隠し……撮り?」

「ピンポーン。そりゃあ三山くんも出歩けなくなっちゃうよね。でも三山くんが不登校になってすぐ、向井さんも学校に来なくなっちゃった」

「どうして?」

「さあ。三山くんを追い込んだ責任にかられてとかかなあ」

「それはちょっとずるいかもね」

「でしょー!?」


私の同意を得られて興奮ぎみに拳を握りしめる佳恵。


ふわーあ。収まったと思った眠気がぶり返してきた。

私は立ち上がる。


「佳恵、それちゃんと消しといてね」

「あれ、まふぃどっか行くの?」

「図書室」

「えーっ、またあ?」


口元を押さえながら、私はもごもごと答える。


「借りた本、全部読んじゃったんだもん……ふわーあ、とにかく消しといて、それ」


無理矢理、佳恵の手に消しゴムを握らせる。しぶしぶと机に消しゴムをかける佳恵を残して、私は図書室に向かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ