ブレイク~目の前に~
向井心音は彼のいとこだった。
どうりで、と思うこともあった。まず、私をからかって遊ぶのが好きだという変わった趣味。馬鹿にしているのかと思うほどの笑い上戸。
向井さんが彼のことを好きなんて誰が流した噂だろう。今となっては呆れる。
向井さんが不登校になったのも、彼が不登校になったのも、どちらも全く関わりのないことだった。ただそれが同時期だったために面白半分に関連付けられてしまっただけ。
向井さんはバスケ部で先輩マネージャーからひどいいじめにあっていた。いわゆる後輩いびりというものらしい。
後輩だからと全ての雑用を押し付けられるのはもちろん、部員への差し入れは全額彼女持ちという妙なルール、部活後に無理やりファーストフード店などに連行されて「私たち先輩で、あなたは後輩だよね?こういうのって先輩を労うべきだよね?」と奢りを要求されるなど、お金の絡むトラブルが増えていき、彼女は精神的にまいってしまった。
幸い向井さんは友達が多く相談する相手もいた。バスケ部員であり彼女のいとこでもある彼だ。
彼や両親に相談して、向井さんはしばらく学校を休むことに決めた。
これらは全て彼に聞いた話。私たちは今、彼の部屋にいる。私はベッドの上、彼は回転式の椅子に腰掛けて。
「マヒルさ……心音と話したんだって?」
「……うん、まぁ」
「面白い子だねって言ってた。友達になりたいって」
……友達。
「向井さんが学校に来るようになったのって、先輩が引退したから?」
「それもあるけど……田中が、毎日家に来るんだって。これからは部長の自分がしっかりするから、安心してくれって」
「田中?」
「バスケ部の部長。たしか俺らと同じクラスじゃなかった? ……って、お前がクラスメイトの名前覚えてるわけないか」
田中……聞いたことあるような、ないような。
「向井さんはいいね、そういう友達がいて」
「友達って……マヒルもしかして、鈍い?」
「……え?」
「ま、いーや。あのさ、心音がちょっと気になること言ってたんだけど、マヒルって誰かをふったことないの?」
ギィッと椅子をきしませて彼は腰掛けに顎を乗せた。
いきなり何?
「……ない、けど」
「告白されたこともない」
「馬鹿にしてる?」
「ちげーよ。だったら俺、まだチャンスあるよなって思って」
銀色の髪をさらさらと揺らしながら彼は思わせぶりに私を見つめる。私はドキッとしたのを隠して顔を背ける。
「何?」
彼はクスッと笑った。
「何も」




