パスト~元クラスメイト~
『私は、旭さんのせいでふられたんだから!』
先ほどそう言った彼女が。激しい呪いでも植え付けるように言った彼女が。
「……あは」
急に腰を折って。
「あはははは!はーあ、すっきりした!!」
「……え?」
彼女は大きく伸びをして、私に笑いかけた。
「今の、旭さん痛かったでしょ。違う?」
「痛いって……どうして」
私はわけがわからず眉をひそめる。なんだろう、この子。本当にわけがわからない。
「アサヒが旭さんにふられたって言うから、確かめてやろうと思って。そしたらさ、なーんだって感じ。なんだこのふたり両思いなんじゃんって」
アサヒが旭さんにふられる?旭さんって……私のこと?じゃあアサヒって……。
ふたりが。
りょう、おもい。
「旭さん、すごく傷ついた顔してたよ。あはは、旭さんってとっつきにくいイメージだったけど、わかりやすくて可愛いかも」
「………………」
「あれ?何か言った?」
「……バスケ部のマネージャー」
私はぼそっとつぶやいた。
「バスケ部のマネージャーの、向井心音さん?」
「そうだよ」
「バスケ部の三山くん」
「うん」
「三山……アサヒ」
恐る恐るそのふたつをつなげた。私の知っているふたつの苗字を。
「そう。ちなみに旭さんとは違って朝に太陽の陽で『朝陽』ね」
三山朝陽。
アサヒくん。
「私……知ってる、その人のこと」
「知ってるって、ずいぶんドライな言い方するんだね」
彼女はそう言ったけど、違う。私はドライなんかじゃなくて。
私の頭の中は今、すごく混乱している。それまで別の領域に存在していたふたつのものが全く同一だったと気づいたから。
本当はもっと早く気づくべきだったのに……。
私は混乱を鎮めようと思って彼女の話を遡る。そして別の引っ掛かることを持ち出した。
「……ふるってどういうこと?私、誰かをふったことなんてない」
誰かに告白されたことなんてない。
私は誰かに好かれるような性格じゃない。
「旭さんが鈍感なだけだよ」
あはは、と彼女は笑う。あはは、あははは、と。
「アサヒ本人から聞いたんだもん。アサヒが好きなのは……いつも教室の隅で本を読んでる誰かさん」
彼女はそれからもうひとこと加えた。
でもその誰かさんは俺の名前を知らないって、だからふられたのと同じだってアサヒ、すごく寂しそうな顔してた。
クスクス笑う無骨な壁はなかなか打たれ弱いらしかった。




